株式会社FLAT / 代表取締役 清水紀明 氏
家具の世界には、一般消費者が店頭や通信販売で購入する製品とは異なる、「コントラクト家具」なるものが存在する。これはオフィスや飲食店、公共施設など、一般家庭以外で業務用として使われる家具のことである。株式会社FLATは、このコントラクト家具の製作を主事業とする、大阪府松原市の企業だ。代表取締役を務めるのは、前職でオフィス家具を特注製作する会社の営業担当だった清水紀明氏。前の会社から独立し、当初は個人事業として始め、2015年に法人化した。
前の会社を辞める際に自分の仕事を社長に引き継ぎ、別の昼間の仕事をしていました。そうしたらある日、前の会社のお客さんから『家具は作ってくれるけど手直しが必要やったり、取り付けてくれなかったりする。なんとかしてくれへんか』と電話があったんです。それで昼の仕事をしながら、夜にメンテナンスに回っていました。そうしているうちに、今もお世話になっているお客さんから『家具屋で独立してみてはどうや』というお話をいただいたんです
とはいっても、個人で資金もない。一度は「難しいです」と回答したところ、独立を促してくれた先から支援を受けられることになった。そこから前職で付き合いがあった会社に再度の取り引きの依頼をして回ったり、いっしょに働く仲間を集めていくなど、仕事ができる環境を整えていった。14年前に実家の2階でコタツを作業デスクにしていたところから出発し、株式会社としては11期目を迎える。だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
「7期目が終わるまでは、従業員が続かない会社でした。いくら採用しても、次々と辞めていっていたんです。その間に、僕の責任ですが、未払いがあったり投資話に騙されたりと、本当に大変なことも数々ありました。そういったことを経験して『僕みたいな人間がお金を持っても、どうせ変な方向に使ってしまう。それなら、従業員に還元しよう』と、税引き利益の3割を社員のボーナスに充てることにしたんです。そこからようやく、経営も人の面も安定するようになりました」

社が安定しない時期に体験したことが、今振り返れば学びになっている。
業界的にパワハラというか、いわゆる“厳しい指導”が横行している世界で、僕らもそうだったんです。それも、人が続かない原因のひとつだったと思います。そうしたことが続いた苦しい時期に学んだことのひとつは、何事も人のせいにしないということ。なにかが起きてもだれかの責任、つまりは他責にするのではなく、それは自分の責任だと。自責と受け止めたほうが、成長する。それを僕も、実感したんです
昨年7月から、毎朝の朝礼を始めた。その場ではひとつの議題に対して、みんなで意見を言い合う。飛び交う意見から社長は従業員の性格や考え方に気付き、従業員同士は互いの理解を深めていく。朝礼を通じてコミュニケーションを図るうち、他責にせず、自責を受け止める考え方も社内に浸透してきた。混乱の創業期を経て、今では社内の風通しが良くなってきたことを社長自身が肌感覚で得るまでになった。そうした取り組みを経て、FLAT社は会社という集合体を軌道に乗せた。
面白い仕事なのに、認知度が低い コントラクト家具の魅力を発信するのも努め
清水社長自身は家具の製作は行わず、ディレクターに近い立場にあるという。その視点から、自社の強みをこう語る。
ウチは特注の木工家具だけではなく、ソファも作っています。その両方を同時にやっているのは珍しいことですし、そこは強みかなと思っています。それに加えて僕らは製作するだけではなく、現場に行って取り付けまで行っています。家具の発注から取り付けまで、ワンストップで完結するのも特徴ですね


ビジネスの形態としては、いわゆるBtoB。有名カフェチェーンや大型商業施設などに、FLAT社が製作した家具類が設置されている。それらはすべて受注製作。ゆえに難しさもあれば、やりがいや面白さもあるという。
この業界は確かに、難しい部分も少なくないです。でもその『難しい』を、どう捉えるかなんですよね。それを楽しいと捉えるか、苦しいと捉えるか。我々の業界は毎回、同じ家具が作れません。だから失敗もあるし、製作者の経験値も必要になってくる。ある程度のマニュアルはありますが、そのとおりにできないのが楽しいと捉えられるチャレンジ精神がある方なら、楽しみながら仕事ができる業種です
ほかの業種と同じく、コントラクト家具の業界も人材確保に悩みを抱えている。もの作りをするうえで面白い仕事なのに、業界全体の発信力が弱いゆえ、その魅力が外部に伝わっていない。それがウイークポイントであると感じている。
僕らの業種は一般的に、あまり知られていません。認知度が低いんですよね。大工さんがウチの会社に来たら『こういう仕事を探していた』とか『これを目指していた』という人は、意外といるんですよ。でも、出会えなかった。ということは僕もそうだし、先輩たちもそうですけど、この業界の人間は発信が下手くそなんですよ。もっともっと自分たちを表に出していたら、もっと人が集まりやすかったはずなのに。事実として人手は不足していますが、それを招いたのは僕らの発信の弱さかなと思います。もの作りを志す人であれば、この仕事のことを知れば魅力的ですし、すごく面白いですから。ものを作るうえでは、たまらない環境ですよ
自身が身を置く業界に恩返しの意味も込めて、コントラクト家具の認知度を上げ、その魅力を発信していくことも自分の役割だと捉えている。
そうですね。そのためにはこういうインタビューを受けることもそうですし、つねに発信できる媒体や機会を探さないといけないと思っています。SNSも、もっと活用していきたい。それと今後、挑戦していこうと思っているのはイベントへの参加。どういう形にするのかは検討しているところで、社内の体制も整えていきます
実はその「発信」と「イベント参加」の一環として、すでに動き出している遊び心あふれる取り組みがある。それが、地域貢献や子どもたちとのつながりを大切にする想いから、清水社長自らが製作した手作りの「どこでもどあ(どこでもドア風の扉)」だ。同社は飲食店などの空間に合わせて家具を作るプロ集団だが、その技術を活かして作られたこの扉は、今や地域との温かい架け橋になっている。

主に地域のイベントや子ども向けスペースに設置させてもらっているのですが、子どもたちが『どこでもドア〜!』と元気な声を出しながら開けて遊ぶ、参加型のフォトスポットとして親しまれています。地域のお祭りやマルシェなどのイベントにこの扉を持ち込むことで、僕らみたいな企業と地域住民の方々との交流を生み出すコミュニケーションツールとして活躍してくれているんです。実際の製作風景やイベントでの活用事例は、FLATの公式Instagramで写真や動画を交えて確認することができます。こういった活動を通して、僕たちのもの作りの楽しさや、そこから生まれる笑顔を少しでもリアルに届けていきたいですね
https://www.instagram.com/flat_ltd/
発信は外部だけではなく、内部にも そのためにコーポレートブックを制作
外部に発信することだけではなく、社内に理念の共有と浸透を図ることも疎かにしてはいけない。その思いから清水社長は、自身の考えをまとめた社内向けのコーポレートブックを制作した。
従業員から『この会社は、どこに向かっているのですか』といったことは、なかなか言ってくれません。以前はそう聞かれたとしても、僕も明確に答えられなかったでしょう。どうすれば、弊社の根本になる部分を伝えていけるのか。僕の人生理念はできた。会社の理念もできたし、ビジョンもできた。でも、それだけではアカンよなと思って。それでほかのいろんな会社も取り組んでいるコーポレートブックの制作を、外部のプロにも加わっていただいて、作ることにしたんです

ここには社の理念やビジョン、経営方針などはもちろん、顧客や社会との向き合い方なども記されている。
会社の根本的な考え方に加えて、お客さんへの約束と社員への約束、社会への約束と財務方針。その4つを柱として打ち立て、社を進めていくということも書いています。これを読めば、社員たちがこの会社がなにを考えて、なにを目指しているのかがわかる。その指針のひとつになってくれたら、いいなと思っています。この会社がなぜできたかという、歴史も含めて書いてあります
自身の生い立ちから創業期の混乱も含め、清水社長とFLAT社のすべてを赤裸々に綴った。
これを読んで『そういう経緯でこの会社ができたから、この理念なんだ。だから社長は、あんなことを言うてるんや』を知ることができる。そういったことが含まれるように、作ったつもりです。この本を作った僕自身の頭のなかに、その中身が全部入っているかといえば、そうではない。僕自身も、ここから深めていかないといけないと思っています
自らをさらに深め、社員たちも迷うことなく動ける指針になるもの。それが、FLAT社のコーポレートブック。このブックは社の成長とともに、アップデートを重ねていく。
この会社に入社したらコーポレートブックという本があって、ここに会社のすべてが書いてある。自分のためにでもありますが、社員がこの会社をより理解するための本なんです。だけど現状が完成ではなくて、これは今年の分。来年になったら今の本を見直して、僕がまた考える。間違っているところは正して、足すべきところは足していく。そうして、ずっと成長していくものとしてやっていきたいと考えています
『縁ある人を幸せにする』ため、 従業員の可能性を広げることにも注力する
混乱の創業期を乗り越え、コーポレートブックの作成で社の足腰を固めたトップに、FLAT社としての将来ビジョンを訊ねた。
扉などの木製建具を作っている建具業界は、我々以上に苦しんでいる状態なんです。そこも引っくるめて、ウチでワンストップできるような体制を整えていきたいなと思っています。僕らよりもっと建具屋が減っていくなかで、手助けできるようにしたい。それが、中長期的にやっていきたいことのひとつ。今は建具屋さんといろいろとセッションしながら、どうやって形にしていくかに取り組んでいるところです
そこからさらに、内装業に手を付けていくことも考えのなかにある。家具屋に軸足を置きながら、内装業でも実績を上げている他社があるという。そういったところに教えを請いながら、自社の領域を広げていく構想だ。その先には職人の経験と感覚に頼る部分が大きい作業現場に、積極的に機械を導入していくことも、将来ビジョンのなかに含まれる。
どんどん機械を入れて年齢関係なく、みんなが触れるような環境作りをしたい。たとえば3Dプリンターやレーザープリンターは、実はウチで取り入れても直接的な意味はありませんが、これらを使うことができる場所を作りたいなと思っています
直接的な意味がないのに、なぜそれらの機械を導入しようと考えているのか。そう問うと、明確な答えが返ってきた。
家具職人は空間認知能力というか、図面を見て『こんな家具か』と、頭のなかである程度形にできることが重要なんです。3Dプリンターは、まさにそういう世界。図面で3D化していく必要があるので、図面を書く訓練が必要です。それらの機械に触れて、従業員が自分の感覚を研ぎ澄ましていける会社にしていきたい。職人だけで止まるのではない。図面が書けるところまで高めていく。あるいは、オペレーターもできるようになる。従業員にはいち職人で終わるのではなく、幅広く自分の可能性を広げていってもらいたいですからね

従業員の人生に寄り添っての言葉は、さらに続く。
「いつかそれぞれの引退の時期が来たときに、そのまま職人としてやっていく道もあれば、オペレーターとしてもやっていけたり、または木工の講師としてやっていける。長期的ですが、今いる従業員たちにいつか引退の時期が来たときに可能性を広げるというか、その先の道を選べるような、そんな会社になりたいと考えています。そうすることが僕の経営の目的である、『縁ある人を幸せにする』のひとつになっていくのだと思っています」
従業員や取引先など、縁を結んだ人々を幸せにする。そして、コントラクト家具の世界の魅力を発信していく。清水社長は自らに課した大きなミッションを遂行すべく、今日も前進を続ける。
