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手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは
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手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは

2025.12.10
株式会社大市珍味





株式会社大市珍味 / 代表取締役社長 西野美穂 氏



手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは

株式会社大市珍味は1957(昭和32)年に、水産加工品の製造と販売を主業として創業した。現在は創業者の娘である西野美穂氏が2018(平成30)年より、4代目の代表取締役を務めている。創業当時はかまぼこが主力商品だったが時代とともに移ろい、現在の売り上げのメインを占めているのはおせち料理である。

弊社は、ほとんどOEMなんです。今は冷凍おせちがいろんな会社から出ていますが、そのなかのかなりの数量を、当社で作らせていただいています。おせち料理に入る中身を作って、お客さんが決められた内容で盛り込み、冷凍して届けるというのが一連の流れですね。自社でパッケージングして、お客さんの名前で販売する商品もあります


今やおせち料理は家庭で作るものではなく、購入するものになっている。冷凍技術が発達したこともあり、多くの業者が参入しているのも事実だ。レッドオーシャン化(※1)している業界にあって、大市珍味の強みはどういったところにあるのだろうか。

※1 「レッドオーシャン化」とは、競争が激しい既存市場で、多くの競合他社がひしめき合い、激しいシェア争いが行われている状態を指します。この状況は、血で血を洗うような激しい戦いに例えられ、価格競争が激化し、企業の利益率が低下しやすいという特徴があります。

弊社の強みはやはり、職人たちの手です。大量生産はできませんが細かくなんでも作り上げる手。つまり手づくり感を大事にしているところですね。本物の料理人さんがやっている手仕事を私たちの職人が請け負わせていただき、本当に手で作ったような仕上がりになっています。一部にはちょっと形が均一でないものもありますが、良いように言うと、それが手づくり感(笑)。逆にそういうのが受けて、今も長く多くのお客さんに使っていただいていますね。ラインを使って綺麗に作り上げるものもありますが、お客さんの手間をこちらで省きながら、求めておられる商品に仕上げる。それが大市珍味の強みであり、そこをいろんなマーケットで認めていただいているのではないかと思います


手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは

今ではおせち料理を家庭で作っていたころとは、生活様式が大きく変わった。また今後の日本国内は、人口が減少していくことが確実である。
食品業界にいて感じることなのですが、3万円も4万円も出しておせちを買うんやったら、しゃぶしゃぶの良い肉を買って、みんなで食べた方がいいという人たちが多くなっているのも確かなんです。だからおせち料理から次の、もっと求められている形態への変換が、私たちの喫緊の課題だと捉えています

そんな未来に対応していく考えは当然、西野社長の頭のなかにある。

コロナ禍を経て、冷凍食品って一気に増えたと思うんです。これまでは『冷凍食品って、なんか……』みたいな感じでしたが、今は冷凍のお弁当や総菜を、冷蔵庫にストックしておく家庭が大きく増えました。今のマーケットには私たちがこれまで料理人さんと作ってきたような、ちょっと本格的な味を家に置いておくといった新しい流れができてきています。今後はその流れのなかに入れるようなものを、どれだけスピードを上げて開発して、世の中に知ってもらうかですね。もうすでにスタートはしていますが、もっとそのウェイトを増やして、大きくしていきたいです


おせち関連商材、冷凍総菜、介護食が事業の柱。今後はそれを太くし、柱の数を増やす



現在の大市珍味の事業の柱になっているのは、おせち、冷凍総菜、そして介護食の3つである。今後はこれらの柱を太くすると同時に、さらに増やしていこうと動いている。
柱を増やすにあたってはハラル認証(※2)を持っている、弊社の岡山工場を活用していきたい。タイとベトナムに私たちの海外工場があって、最近はアジアの勢いのすごさを感じています。マレーシアやインドネシアといった東南アジアの国々で日本食の需要がすごく増していて、インドネシアから弊社のタイ工場に、ハラルのおいなりさんをご要望されているという商談も増えているんです。弊社としてはそういった声にお応えしながら、国内工場からも東南アジアなどの地域で売れるような商品を開発したりして、日本食をもっともっと広げていくための商品を作っていきたい


手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは

※2 ハラル認証とは、製品やサービスがイスラム教の戒律(ハラル)に準拠していることを、第三者機関が証明する制度である。認証を受けるには、原材料の確認、製造工程や衛生管理体制の審査などが必要で、基準を満たした製品にハラル認証マークが付与される。これはムスリムが安心して製品を利用できるようにするために必要で、特にイスラム圏への輸出に不可欠である。

西野社長は入社後しばらくして、新規事業である介護食の部門に配属を命じられた。自らで商品開発を行うなどをするうち、プロジェクトのリーダー的な立場に収まる。部署の立ち上げから約20年にわたって携わり、「株式会社ふくなお」(※3)として分社化して独立するに至った。そしてこれからはこの介護食事業も、その柱を太くしていく考えだ。

※3 株式会社ふくなおは、主に介護食ややわらか食を製造・販売している会社である。創業60年の老舗蒲鉾メーカー「大市珍味」を親会社に持ち、約20年にわたり食と介護に関するノウハウを活かした商品を提供している。

今は業務用がメインで、お客さんは日本中の病院や老人ホームです。そこにはどうしても、国の政策が大きく関わってしまいます。介護保険や医療保険で決められた範囲内で提供する食事は正直、ほとんど破綻しているような状況なんです。なので私たちの事業がこれからやっていこうと思っているのは、保険外にいる人たちに、どうやって私たちが作っているような食事を届けるかなんです。これまでは食べさせたい人の目線で商品を作ってきましたが、これからは実際に料理を口にする人が食べたいと思うようなものに転換して、それをどうやって街中にちりばめていくか。その方向に営業方法が変わっていっていまして、外食産業と手を組んでいろいろと商品を作っていく動きが始まっています

食事は栄養補給や生命維持に欠かせないものだが、それが主となってはあまりにも味気ない。食べることは、楽しみでもある。

『これを食べとったら、元気でいられるから』と、ブロック状のなにかを渡されて口にする。今のままだったら、そういう未来しかないんですよね。でもやっぱりね、食べる楽しみは必要だと思うんです。外にご飯を食べに行っても、介護食というとだれも選ばないでしょう。だけどたとえば、元は固い食材を本来の味を損なうことなく柔らかくしてラインナップに入れれば、また受け止め方が違ってくると思うんです。最近はファミレスや大手のスーパーでも、そういった商品を揃えようとしてきています。そのような動きに、乗っかっていこうと。食材そのものの味がしっかりしつつ、なおかつ目で見て楽しめる私たちの商品を、その流れのなかに入れていってもらおうと考えています


手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは

10年後に「そういえば大市珍味って昔、かまぼこを作っていたよな」となってもいい



西野社長に今後、自身がトップとして手掛けていきたいことを問うてみた。新規事業のアイデアなどが飛び出すかと想像したが、違う角度からの答えが返ってきた。
大市珍味は父が一代で築き上げて、創業から60年以上が過ぎました。老朽化している設備もありますし、先ほどのおせちの話も含めて、会社的にも岐路に立っているところでもあります。私が今いちばんやりたいのは、社内のいらないものをそぎ落とし、本当の強みだけを残して強い会社にしていくこと。今ある芽を、どれだけ強く育てるか。60年以上もやっていると、言い方は良くないですが、儲からない事業もたくさんあるんですよ。だから強く育てるところと、整理するところ。それを両方で進めていくのが、私の仕事だと思っています


創業60余年の伝統を大切にするあまり、時代から取り残されてしまっては意味がない。いつかは自分が祖業に手を付けることになるかもしれないが、その覚悟はできている。

私は今も自分でかまぼこ屋と言っていますが正直、かまぼこはもうあまり販売の柱ではなくなっているんです。だからもしかしたら、そこを整理する時期が来るのかもしれません。今はもう一回、どれが私たちのしっかりとした柱になっていくかを見極めることが大事。そうして5年や10年後には介護食やBtoC、ハラルの事業であったり、私たちが挑戦していこうとやっていることが、しっかりと形になっているようにしたい


手づくり技術で食の未来へ。進化する老舗の新たな挑戦とは

女性社長は決意を固めた表情で、話をこう結んだ。
5年後や10年後に、『そういえば大市珍味って昔、かまぼこを作っていたよな』みたいなことになっても、全然いいと思うんですよ。その時々に求められるものが、ちゃんと事業として成り立つようにする。そこを目指して、やっていきます


株式会社大市珍味
本社:大阪府富田林市中野町東2丁目3番14号
オフィシャルサイト:https://daiichinmi.co.jp/