株式会社OTENTO / 代表取締役 CEO 鳥居本 敦士 氏
日本国内の人口が減少し、慢性的な人手不足や離職率の高まりが企業における大きな課題となっている。
一方、働き手にとっても、職場で正しく評価されないことによって「やりがいが持てない」「チャレンジできない」という悩みにつながり、理想のキャリアを歩む妨げとなっている。
そんな中、大阪市中央区の株式会社OTENTO(オテント)では「頑張る人が正しく評価される世界を作りたい」という一心で、主にサービス業に従事する人々の努力を可視化して適正に評価するシステムを開発する。
一体、どんな経験が評価システム作りのきっかけになったのか?
OTENTOが目指す世界を実現するための今後のプロセスを代表取締役CEO 鳥居本 敦士氏に聞いた。

「お天道様は見ている」と実感できる社会を作るために!
敦士な、お天道様見てんぞ!
鳥居本氏がずっと心に残している言葉である。
小学5年生の時に両親が離婚し、父の存在をほとんど知らずに育てられた。しかし、幼い頃に父から言われた「お天道様は見ている」という言葉は、鳥居本氏のこれまでの人生の指針になっているのだ。
「母を助けたい」という思いから高校卒業後は就職の道を選び、乳業メーカーに勤務。その後は人材派遣会社へ転職するものの、自分自身や周りの従業員がどんなに努力しても客観的な人事評価につながらない状況を目の当たりにする。
誰にでも積み重ねてきた努力があるはずなのに、派遣先の変更や転職でキャリアがリセットされてしまう。“お天道様は見ている” なんて、嘘だ。誰も見てへんやんか。
社会に対し疑問やもどかしさを感じた鳥居本氏。特に、人材派遣会社で労務管理を経験し、派遣社員やアルバイトなどの非正規雇用者を適正に評価する制度が充実していないことに課題感を持ったという。やがて鳥居本氏はある思いを抱く。
学歴や資格に左右されず、頑張る人がきちんと評価される社会を作ろう。今は学歴や資格で自分のキャリアを上げていく世界だけれど、目の前の人に貢献することで、自分の未来を作っていける世界に変えていきたい。
そのための手段が起業だった。
経営者としての経験を積むために、はじめは卸売や人材サービスの事業からスタート。
“お天道様は見ている” と実感できる世界へ。
そんな思いや構想を経営者の仲間に語ると、「それめっちゃいいな、ワクワクするやんか」「その世界、お前やったら作れるやろ」。ーー次々と資金が集まった。

1億円を超える資金をスムーズに調達した背景を、同社の取締役の小林美紀氏はこのように振り返る。
鳥居本がスポットを当てている人事評価の不透明さは経営者にとっても大きな課題ですから、ぜひとも解決してほしいという期待も大きかったのだと思います。また鳥居本がかつての職場で目の当たりにしてきた悔しい経験や抱いた疑問に共感して、熱量の込もった事業を応援したい気持ちが強まったのではないでしょうか。(小林氏)
資金は集まった。しかし、具体的な事業を進めていくためのITのノウハウはなかった。
経営者の先輩にエンジニアやデザイナーを紹介してもらい、2021年9月に株式会社OTENTOを設立。その後、同名のアプリケーション「OTENTO」をローンチした。

お客様からの「ありがとう」を可視化し、従業員の評価へと循環させるシステム
株式会社OTENTOが提供するのは、サービス業において、アプリケーションを通じて顧客からのメッセージやチップを集め、接客へのフィードバックをAIで解析する人事評価システムだ。
評価はNPS®(Net Promoter Score)(※1)によって測定される。
(※1)NPS®:商品やサービスに対する信頼や愛着といった顧客ロイヤルティを測るグローバルスタンダード指標。商品やサービスを親しい人にどの程度勧めたいか、0〜10の11段階による評価から回答を取得する。AppleやGoogleなどの大手企業でも導入されている。
現在は全国の飲食店やリラクゼーションサロンなどのおよそ1,600店舗でシステムが採用されており、働く人の自己成長やモチベーションの向上を促すものとなっている。
接客におけるフィードバックを集める取り組みは既に様々なところで行われている一方、取得した意見を有効活用する仕組みまでは殆どの企業で整っていませんでした。(※2)ユーザーインサイト:ユーザーが意識していない潜在的な真意やニーズ。
私たちは、顧客の入店から退店までの流れを工程ごとに振り分けてNPS®を集め、ユーザーインサイト(※2)を可視化できるようにしたのです。
例えば光脱毛を行うサロンでは、機械で照射を行う前に脱毛したい箇所へ冷却ジェルを塗る。室温によっては顧客が寒さを感じ、不快感につながる可能性もある。そうした意見をアプリで集めてAIで解析することで、「施術ルームの空調の温度を2度上げよう」などの具体的な対策を講じることができるのだ。
人事評価をするシステムとして、雇用主にとっては社内のコミュニケーションが活発化し、従業員の定着率を上げる効果も見込めるという。
サービス業は個室や混雑した場所など、雇用主の目の届かない場所で接客が行われることが多く、従業員の努力や工夫を評価したくてもその材料が不足しがちです。人手が不足する中で採用や教育のコストがかかり、離職率が改善されなければ、現場がどんどん疲弊していってしまう。私たちはそんな課題を解決するためにも、働き手の定着につなげていきたいと考えています。
「OTENTO」から「GOOD CREW」へ。サービスの成長を支える信念は
OTENTOが開発する人事評価システムを導入した企業の従業員からは、「自身が提供する施術の内容は大きく変えていないのに、以前より評価されるようになった」「報酬が上がった。お客様に喜ばれている実感がある」と、満足度の高い反応が寄せられているという。
創業当初は、全体の85%が非正規雇用者で構成されている外食産業を中心にシステムを展開してきたOTENTO。しかし、近年の飲食店では接客のロボティクス化も進み、現場は作業の効率化を優先し、細やかな「おもてなし」が減ってきているケースが増えている事を鳥居本氏は実感する。
“お天道様は見ている”と実感できる世界=目の前の人に貢献することで、自分の未来を作っていける世界を目指すため、OTENTOは、接客時間が長く専門性の高いサロンやカーディーラーなどへ積極的に展開することを決めた。
内容がさらに伝わるよう、システムの名称も「OTENTO」から「GOOD CREW(グッドクルー)」に変更。

「素晴らしいクルー(従業員)」という意味と、そんなクルーがお客様に対して“ ぐっと来る瞬間 ”をいかに作っていけるかという想いを込めました。
と、笑顔を見せる鳥居本氏。一貫した強い想いを持ち、周りに背中を押され、走り続けてきた起業後の姿は順風満帆にも見えるが……
資金が尽きかけて翌月の見通しが立たなくなり、もう会社を畳むしかないと覚悟したこともあります。
“社会を変えたい”と言い続けているのに、幼い息子のための貯金にまで手をつけて。悔しくて悔しくてしょうがなかったですね。
そんな鳥居本氏に、妻は「家計は私が支える。息子の貯金も使ったらいい。捕まったわけじゃないんだし」と鼓舞し、事業を共にするスタッフは「給料ナシでもいいからOTENTOを続けましょう」と声をかけてくれたという。
大切にしてきた願いを諦めかけるほど辛い時に支えてくれたのは、周りの人の存在だった。
「お天道様は見ている世界」は、鳥居本氏の身近なところから広がってきているのだ。
存続の危機を乗り越えたOTENTO。
システムの需要やあり方をより深化させ、広めていくために、鳥居本氏や周りのスタッフは基本に立ち返ることを忘れないそうだ。
「鳥は、空気が見えない。魚は、水が見えない。人間は、自分が見えない」ということわざが中国にあるように、自分のことほど知らないものです。他者から見えている企業や従業員の魅力を、評価によって改めて可視化できることが「GOOD CREW」の強み。
このシステムが私の内発的な想いから生まれたものだからこそ、自分自身を知らなければ事業の成長にもつながらないと思うのです。
ここ1年、苦しみながらも自分自身の半生を振り返り、中学2年生の頃が一番パワフルだったことを思い出したという。
あの頃は何でも面白かった。そこから怒られたり嫌われたりしながら大人になりました。マナーや常識といった社会性を身につけると同時に、核になる自分の強みもどんどん隠していった。
“中2の自分”と向き合ったら、格好付けなくてもいいのだと気付くことができました。
鳥居本氏はシステムの立ち上げ後も、ビジネスコンテストなどさまざまな場所で志を熱く語り続けている。
株式会社OTENTOは、2023年秋に大阪市公認のスタートアップ企業として認定された。

目の前の人への貢献や積み重ねた努力が、自分の未来を作っていける世界を目指して
“ お天道様は見ている ” と実感できる世界へ。
この願いを実現させるため、株式一部上場も目指して前に進み続けているOTENTO。
「GOOD CREW」事業に対する信用を積み重ね、今後は評価データを活用したマーケティング事業を展開するほか、ヘッドハンティングなどで働き手がキャリアアップできる仕組みにもつなげていきたいと考えている。
働く人々が理想のキャリアを歩むための要素として、学歴や資格、そこに「GOOD CREW」での評価も並べたいです。
「GOOD CREW」がお客様や企業への貢献度を明確にすることで、雇用主は従業員をきちんと育て、従業員はお客様にきちんと向き合うようになる。
そんな未来が、きっと “ お天道様は見ている ” と実感できる世界につながっていくだろう。

