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人が集まる場をつくり、消えゆく「建具」の技を未来へつなぐ<灯台>として
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人が集まる場をつくり、消えゆく「建具」の技を未来へつなぐ<灯台>として

2025.04.18
株式会社HIDE WOOD WORK

株式会社HIDE WOOD WORK / 代表取締役社長 市川秀治氏、統括部長 市川京子氏



昨今、建具(たてぐ)(※1)職人という職業を知っている人はどれほどいるだろうか。
生活様式が洋風に変わり、建具はドアやアルミサッシなど大量生産が可能な既製品が主流となり、組子(くみこ)(※2)といった日本の伝統的な技術を持つ職人の活躍の場は、どんどん失われてきている。絶滅の危機に瀕していると言っても過言ではない。

(※1)建具(たてぐ):建築物の開口部に取り付けられた戸や窓、ふすま、障子などの可動部分と、それを支える枠の総称。
(※2)組子(くみこ):釘を使わずに木を幾何学的な文様に組み付ける木工技術のこと 。


大阪府八尾市に拠点を構える株式会社HIDE WOOD WORK 代表取締役社長 市川秀治氏は、そんな数少ない建具職人の一人だ。

秀治氏は、建具職人の置かれている現状を危惧し、技術を次世代に伝えられる場となるよう、事務所の1階を無料解放して、若者を受け入れることを始めた。また、木材から捨てられる端材(はざい)を使った自社商品のブランド開発を進め、脱下請けも志向している。
そんな秀治氏と奥様である統括部長の市川京子氏に話を伺った。(因みに京子氏の父も建具師。)

人が集まる場をつくり、消えゆく「建具」の技を未来へつなぐ<灯台>として


家々から障子がなくなり、建具職人は絶滅の危機


秀治氏は2024年能登半島地震と災害に見舞われた石川県珠洲(すず)市出身。八尾市の建具の一流店、浦政建具店の創業者も珠洲市の近所に住んでいた縁で、若き秀治氏は浦政建具店で修業する。そこで20年ほど勤めた後、42歳で独立する。
釘を使わず、ほぞ(※3)とほぞ穴で木を組んでいく伝統的なやり方で建具を製作する技術が自慢だ。
しかし、そんな建具職人を取り巻く環境は厳しい。
住宅の洋風化により和室がつくられなくなったことが大きな要因だ。昔は全家庭に障子があったが、今はない家庭がほとんど。設計士でも若い人は建具を知らなかったりするという。
(※3)ほぞ:木材や石、金物などを接合する際に、一方の材にあけた穴にはめ込むために他方の材に作った突起のこと。

また、工務店経由で個人宅の建具の製作を請け負うが、膨張したり、収縮したり、反ったりする木の性質のことを知らない人が増え、クレームにつながりやすくなっているという。
秀治氏:施工前、お客さんに必ず「反り」が生じる可能性があることを説明しますが、「大丈夫だからつくってください」と押し切られてそのまま製作し、結局、出来上がって数日経ってから手直しが必要になってしまうこともよくあります。

そんな変化を心配せずに済む大量生産が可能なドアやサッシなどの既製品に、どんどんシェアを奪われている。

建具だけでやっていくのは難しくなり、現在、売上のほとんどは、店舗の造作家具だ。
大手コーヒーチェーンやコンビニ、ハイブランド系アウトレット店のカウンター、スタッフルーム、トイレの入り口などの造作家具を手がけている。
家具職人についても世間の認知は決して高くない。
京子氏:大工さんを知っていても、<家具屋>というと、店を構えて販売している家具屋さんをイメージされる方が多い。「うちはつくる方の家具屋です」とお伝えすると、「そんなお仕事があるんですね!」と言われたりします。


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新社屋入り口の“無双窓”。建具技術の結晶だ

異業種の人を集めた場づくりからの技能の<ハイブリッド>へ


現在62歳の秀治氏は仕事をあと何年続けられるか分からない。高校生の息子さんも建具職人を目指すかどうか、今は定かでない。
夫妻は、建具職人が置かれている現状に危機感を持ち、伝統技術をこれからの世代に伝えて残していくための場として、事務所一階の工房を24時間、無料で解放することを始めた。
今若者たちが通い出し、端材を活かす技術などを実践で学んでいる。建具・家具職人候補に限らず、様々な業界の人が出入りする異業種交流の場となることを目指している。
秀治氏:絵を描きたい人が来てくれてもいい。コーヒーでも飲みながら異業種の人同士で気軽に交流して情報交換できる場にしたいと思います。先日、見学に来たデザイナーさんが工房にあった糸のこぎりを見て「私もやりたい」と言ってもらえるなど、少しずつ手ごたえを感じています。


いずれは、高齢者や障害を持った人にも来てもらって、働くサポートもしたいという強い思いも持っている。
京子氏:ただ、思いだけで進めることはできなくて、例えば、高齢の方が階段で転んで怪我をしないように設備を設けたりするなど、受け入れるための準備が必要です。専門の施設の方などに、どういった備えが必要か相談させてもらったりしています。人生100年時代と言われる中、年をとれば足腰が弱くなり、生活に様々なお金がかかります。みんな高齢になっても稼いでいく必要があると思っています。その働く場の提供もしていきたいです。

高齢者の仕事の一つに木材の研磨がある。木材を箱に詰めて高齢者宅まで運び、自宅で磨く作業をしてもらうなどして、高齢者へのリスクを減らす方法なども模索しているという。

オリジナルブランド「tsumiki」を立ち上げる


同社はこれまでも、時代に合わせてさまざま変革を進めてきた。5年前には会社のホームページを立ち上げ、インスタグラムでの情報発信を開始。また、社名を「HIDE建具工房」から現在の株式会社HIDE WOOD WORK に変更。事業が建具だけではないことを分かりやすくした。
一昨年8月には、手狭な上、作業音が周りの住民に気を使う必要のあった事務所から、八尾飛行場近くの現在の事務所に移転。広く大きな新事務所は気兼ねなく作業に集中できる環境を整えている。新事務所の工房の入り口は建具の技術でつくられた扉が来訪者を優しく迎い入れる。


今後、自社商品となるオリジナル家具の提供も予定している。
まずは、「tsumiki」というブランド名で、端材を使った棚や知育玩具の商品化に向けて準備が進行中だ。

事務所には、本物と見間違えるお花。これは端材(はざい)を鉋(かんな)で削り、0.数ミリ単位の花弁に藍染で色付けしたもの。また細部まで細かく作り込んだ10センチ程の小さなロボットたち。リビングや寝室に飾ってもらうなどして、大人も楽しめるツールとなることを目指す三角形にくり抜いた積み木。端材から生まれた愛らしい商品が色々と並んでいる。

京子氏:「端材」といっても、質の良い材質ですし、手間をかけて加工しています。だから、私たちにとっては本当に宝物。今年から 「端材」という言葉を使わないようにしようかと話しています。


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このほど、建具の技術を最大限に活かしたオリジナルの「アンティーク陳列棚」を、全国に多店舗を展開している雑貨店の一つに置いてもらうことが決まった。この取引をきっかけに、多くの店舗で採用されることも期待できる。

最近、建具業界に新しい風が吹いてきた。
インバウンド旅行者などに日本茶がブームになっていて、茶室が人気を集めているのだ。
秀治氏:茶室をつくるには建具や床の間が必要になります。最近、マンションでお茶会をできるようにしてほしいと依頼があって、簡単な床の間をつくりました。


応接室の机には、石川県珠洲市のシンボルマークとなっている「狼煙(のろし)の灯台」の絵が刻まれたコースターも置かれていた。被災した故郷に強い思いを寄せている秀治氏は、この灯台を使ったブランドもつくりたいと考えている。
震災の甚大な被害を受けた能登半島の最北端にあるこの灯台が、明るい未来の象徴になるのだろう。

衰退する業界にあっても、新たな活路を見出すべく、常に挑戦をし続ける2人の今後に注目していきたい。

人が集まる場をつくり、消えゆく「建具」の技を未来へつなぐ<灯台>として



株式会社 HIDE WOOD WORK
本社:大阪府八尾市太田新町8丁目100‐1
オフィシャルサイト:https://hide104.com/