株式会社A.A.O passion / 代表取締役 林 律子 氏
「世界に羽ばたく魚屋さん」――そんなユニークなキャッチコピーがぴったりな人物、それが「株式会社A.A.O passion」を率いる林律子氏だ。稚魚の生産から食卓まで、水産物の生産・流通を一貫して手がける同社の取り組み、toCに向けた飲食店事業、そしてその原動力となる林氏の"パッション"の源について話を伺った。

祖父は淡路島の船大工。原点は海に親しんだ幼少期
林氏の原点は淡路島の海にある。海辺で遊んだ時間が今の活動につながると明かす。
大阪・ミナミの真ん中で生まれ育ちましたが、祖父は淡路島で船大工をしていたので、海は子どもの頃から身近でした。海の生き物や昆虫に興味を持ち、自然と生物系、そして水産系の進路を志すようになり、大学は近畿大学農学部水産学科に進学しました。
その後は修士課程へ。水産増殖学、すなわち“養殖”を専門とし、白浜の研究所でリアルな現場と向き合いながら卒論・修論を仕上げた。大学院修了後はオランダ・ニュートレコ社傘下の「スクレッティングジャパン(※1)」に就職する。
※1 ニュートレコ(Nutreco)は、世界的な動物栄養と水産飼料のリーディングカンパニー。スクレッティング(Skretting)は、ニュートレコの水産飼料部門であり、世界最大の水産飼料会社の一つです。スクレッティングジャパン(Skretting Japan)は、スクレッティングの日本法人であり、ニュートレコグループの一員として日本で水産飼料の製造・販売を行っています。
同社は世界最大級の水産飼料メーカーです。飼料の営業職として、社長はオランダ人で上司はベルギー人という、とてもグローバルな環境で働いていました。8年勤めた後退職し、縁あって取引先の役員と3人で水産流通会社をスタート。輸出も手がけ、売上は41億円まで伸ばすことができました。
同社では役員として勤める一方で、個人では近畿大学発のベンチャー企業「アーマリン近大」で海産物の海外輸出コーディネーターとしても活動を開始。2018年11月には同社を離れ、株式会社A.A.O passionを創業した。食の循環をテーマにした事業を本格始動させる。
養殖事業の革新と、国産生産へのこだわり
林氏のビジネスの中核には「つくる漁業」がある。注目しているのは、淡水で育つ「オニテナガエビ」(※2)だ。タイ料理のトムヤムクンにも使われるエビで、エビみそが甘いことが特徴という。

※2 オニテナガエビは、東南アジア原産の淡水エビで、その名の通り巨大なハサミが特徴です。体長は30cmを超えることもあり、オスは特に大きなハサミを持ちます。雑食性で縄張り意識が強く、共食いすることもあります。食用としても利用され、身は白く歯ごたえがあります。観賞用としても人気がありますが、大型で肉食性のため飼育には注意が必要です。
従来の養殖エビであるバナメイ種は海水が必要ですが、オニテナガエビは塩害を起こさない淡水環境で養殖できることが大きな特徴です。現在その特性を活かし、温泉の排熱や工場の未利用熱など地域資源を用いた持続可能な養殖モデルを構築しているところです。
背景には、飼料・種苗の多くが輸入に頼っているという日本の水産業界の課題がある。「見えない部分まで国産にこだわりたい」という思いのもと、完全な国内循環型の仕組みづくりを目指している。
民泊、飲食店、抹茶カフェ――“食と地域”をつなぐ多角経営
養殖事業の“出口”として始めたのが、飲食店「RAMENえびの女神」だ。
同店では伊勢海老からだしをとったスープのラーメンを提供しているという。 https://www.instagram.com/ramenebinomegami/
RAMEN えびの女神

伊勢海老漁の業者さんから、足やツノが折れたエビは使えないという話を聞いて、それを買い取ってラーメンにするというアイデアが生まれました。ラーメンは5,500円と2,000円の2種類で味は味噌としょうゆです。伊勢海老だし100%の濃厚なスープが楽しめるラーメンです。お客さんは近隣の方や海外からの観光客、このラーメンを目掛けて遠方からわざわざ来店する方もいらっしゃいます。
思い切った価格帯に専門家からは反対意見が出たというが、「今までの常識と同じことをしても意味がないと押し切った」と笑う。今後は「1県1養殖場」の展開を目指し、地域発の養殖モデルを広げていく予定だ。2023年にはエビ養殖に特化した会社「株式会社AB bank」を設立した。養殖事業が軌道に乗れば、ゆくゆくはオニテナガエビを使ったラーメンを開発する予定だ。 また、訪日客のニーズからヒントを得て自社ビルに民泊を開業。さらに海外からの観光客も手軽に抹茶体験ができるカフェ「MATCHA賛想庵」も展開している。
https://www.instagram.com/matcha_sansouan/

百年後の教科書に載るために――アフリカ支援と志の先にある未来
林氏には、もうひとつの大きなビジョンがある。それはアフリカをはじめとする開発途上国に、養殖の技術と仕組みを届けることだ。 きっかけは、素手でレアメタルを掘る子どもたちの話だった。重機はおろか、スコップのような道具もなく手は傷だらけ。感染症で命を落とすケースも少なくない。そんな現実に触れ、「魚を与えるのではなく、魚の釣り方を伝えたい」と心に決めたという。
百年後の教科書に、うちの会社名が載っていたらうれしいです。誰かの命を支えた企業として。
養殖事業は「外貨の獲得」「タンパク質の確保」「働く場所の確保」ができると林氏。持続可能な発展のために必要な要素がそろっているという。中国資本の影響で疲弊する地域も多い中、単なる食糧や金銭の支援ではなく、現地のインフラや暮らし全体を支えるような事業を根付かせたいと力を込める。
お金を残すより、意味を残したいです。関わる人の夢が叶う会社にしたい。
そんな思いが込められた「A.A.O passion」の社名。数秘術鑑定士の資格も持つ林氏は、人の運命にもそっと寄り添いながら、ビジネスの枠を超えて、人と社会の未来を支える存在であり続けている。 林氏の挑戦は、誰よりも情熱的、そして誰よりもパワフルだ。とどまることなく、今日も笑顔とともに世界を前に動き続けている。

