そらとぶタクシー株式会社(Sky Taxi) / 代表取締役社長 宝上卓音氏・代表取締役副社長 宝上和音氏
SFの世界の乗り物と思われていた“空飛ぶクルマ”がにわかに現実味を帯びてきた。特に大阪では、府が率先して2025年の大阪・関西万博での商用運航を目指しているだけに、一段と加速をしている。そんな中、2026年に創業100年を迎え、大阪に現存するタクシー会社で最も歴史の古い大宝(だいほう)タクシー株式会社(※1)(大阪市住之江区)は、“空飛ぶタクシー”事業に乗り出すことを決め、2022年5月、新会社「そらとぶタクシー株式会社(Sky Taxi)」を設立した。JALやANAなどの航空会社、トヨタやホンダなどの大手自動車メーカーをはじめ世界の大企業が参画して競い合う世界で、どう戦っていくのか。双子の兄弟で新会社を引っ張る代表取締役社長 宝上卓音 氏と代表取締役副社長 宝上和音 氏に現況や課題、将来の目標などをうかがいました。

(※1) 大宝(だいほう)タクシー株式会社:大阪市住之江区にある老舗のタクシー会社。大正15年創業で大阪最古の現存タクシー会社として100年にわたり大阪の交通を守り続けている。
大宝(だいほう)タクシー株式会社
タクシー業界で初の参入。投資の申し入れや子どもたちの応援に勇気づけられる
2022年5月、大宝タクシー株式会社は空飛ぶタクシー事業参入を発表。タクシー会社としては全国で初の挑戦だ。大阪・関西万博での運航開始を明言し、料金まで明らかにした。その具体的なプランは、空飛ぶタクシーが現実のものと思わせるに十分なインパクトを与えた。その日から会社には、問い合わせや投資の申し入れなどが相次ぎ、関心と期待の高さをうかがわせている。

回りの反応はめちゃくちゃありますね。入社したいと履歴書を送ってこられた人もいました。大宝タクシーはグループ会社を合わせて従業員200人台の中堅タクシー会社です。業界でトップになりたいという気持ちは強かったのですが、陸ではなかなか難しいと思っていました。2020年、実物大の空飛ぶクルマの機体が完成したというニュースが流れました。アメリカでは空飛ぶ実験が行われ、ドバイではヘリの代わりに利用する計画が進んでいるという情報もありました。そこで今なら先陣を切ってアドバンテージを得られる可能性があると考え、「空」にチャレンジすることを決めたんです。子どもたちからも「頑張ってください」という声が寄せられるなど、思っていた以上の大きな反響は、僕たちにとっても心強いものになっています。
しのぎを削る開発競争。ドローン型を中心に固定翼や陸上走行可能なタイプも
さて、空飛ぶクルマとはどんなもので、現況はどうなっているのだろうか。一般的に「電動かつ自動で垂直に離着陸する移動手段」を指すことが多い。よく知られているのが、多くのプロペラを付けたドローンタイプだが、世界では固定翼を持ったものや陸上走行が可能なものも開発中だ。日本でもベンチャー企業の「株式会社Sky Drive」(※2)が、わずか4分間ではあるが初の有人飛行を成功させるなど、陸の自動運転技術の進展の後を追うように、急速に技術開発が進んでいる。またSky Driveはすでに、製造段階での安全性などを証明する型式証明を国土交通省に申請して受理されている。
(※2) Sky Drive:株式会社SkyDriveは、愛知県豊田市に本社を置く日本の空飛ぶクルマ、ドローンを販売している企業。
株式会社SkyDrive

われわれの「そらとぶタクシー」でも当然、機体はメーカーから購入します。メーカーは多いですが、購入先として候補に挙げているのが日本やアメリカやドイツなどの数社です。今のところ1機1億円程度で、ヘリポートの建設費用など原価を考えると、採算ラインは1機の年間売上で5億円強と見込んでいますが、せめて1機の購入費は7,000万円くらいにはなってほしいですね。まずは大阪・関西万博までに5機の導入を予定しています。
高いハードルも、国や大阪府が実現までのロードマップ作成して後押し
国内では2018年に空飛ぶクルマの実現に向け、経済産業省製造産業局及び国土交通省航空局による「空の移動革命に向けた官民協議会」が設立され、ロードマップを策定。そこでは、2023年を目標に、まずはモノの移動から実用化を目指すとしている。一方、大阪府は2020年に自前のロードマップを作成。Sky Driveと連携協定を結び、大阪ベイエリアにおける離発着ポートや飛行経路の実証実験を始めることを発表。吉村洋文知事は「大阪・関西万博で、空飛ぶクルマに人が乗って商用運航できるような環境を実現させたい」と表明している。

現在万博を目標に空飛ぶタクシー事業の実現を目指しているのはJALとANA、そして「そらとぶタクシー(Sky Taxi)」です。空飛ぶクルマには安定した飛行能力は当然として、従来の自動車はもとより、自動運転車やドローンよりも高いレベルでの安全性が求められます。それらの要求を満たしたうえで国の認可が必要になりますが、同時に法整備も必須です。こうした問題についてはJALやANAが先行的に取り組んでいます。AIを活用して自動かつパイロット不要で自由に空を飛び回れるというのが空飛ぶタクシーの究極の姿だと思いますが、そこまで到達するにはまだまだ多くの時間が必要です。風速にも影響されますから、検討すべきことがらは多岐にわたります。おそらく当初は、パイロットが運航に携わり、決められたルートのみでの運行という形になるでしょう。
驚きの「初乗り680円」。目指すは空飛ぶタクシー業界の〝LCC〟
「そらとぶタクシー株式会社」を設立発表のとき、同社は初乗り680円。10秒ごとに250円加算する料金体系を打ち出した。大阪市内から舞洲の万博会場までのピストン輸送で1人1万5,000円~2万2,500円。関西国際空港と神戸空港から万博会場までの遊覧飛行で40分、約6万円になる。これでも、JALが想定している料金より格安になるという。

料金は利用客数や所要時間に景観などを勘案して設定しました。この点ではタクシー会社ですから慣れたものです。当初は2機で運行予定ですが、JALは50機をそろえ、事業規模としては何百億円になるのではないでしょうか。この事業の利幅は決して厚くありませんから、長く続けるには、大手よりもタクシー運営会社の方が向いていると考えています。ゆくゆくは、遊覧飛行やゴルフ場などもステージになります。大手が行かないであろう四国やアクセスの悪い観光地などもルートに入れたうえで、雨なら値引きするなど、同業他社と食い合わないようにし、空飛ぶタクシー業界の(※3)LCC(ローコストキャリア=格安航空会社)を目指します。
(※3)LCCとは、格安航空会社のこと。Low Cost Carrierの頭文字の略。米国のサウスウエスト航空、アイルランドのライアンエアー、マレーシアのエア・アジアなどが有名。
大阪ならではの地の利と先行した利を生かし、万博を弾みに飛躍を目指す
まだまだ課題は多く、世界でも実用化に至っているところはないが、アメリカの証券会社の予測では、空飛ぶクルマの市場規模は、2040年までに150兆円を超えると見られている。

ハードルはすごく高いですが、大阪には府に窓口があり、官民一体となったのチームのバックアップや会社もありますから、万博での運航開始は大丈夫だと考えています。わが社への投資も月間2億円ほどのペースで増えていますし、観光業界も高い関心を持っていただいているようです。また府も航空局も、万博を単なるデモンストレーションの場ではなく、「封切り」、つまり実用化のスタートと考えているようです。われわれも2024年までに実証実験を終え、万博で弾みをつけ、さらには証券会社・複数企業様から上場のお話も頂いており、2026年を目標に株式上場の準備も同時進行で取り組んでいきます。先行した有利さを維持し、さらに進んでいきたいですね。
夢のある市場に向け、チャレンジを始めた二人。これからさらに高まる「空飛ぶくるま」の上昇気流に乗ってゆくに違いありません。
