株式会社MARBLANC(マーブラン) / 代表取締役CEO 佐藤辰哉氏
食肉のギフトといえば、どれもが木箱に入って……と、同じようなものばかり。そのことに「なぜ、これほどまでに画一的なんだろう」と、佐藤辰哉氏は疑問を感じた。まだ30歳と若い彼は、ギフト用食肉のオンライン販売を主事業とする株式会社MARBLANCの代表取締役CEOである。

カタログギフトのリンベル(※1)さんが毎年、調査結果を出されているんですよ。それによるとグルメギフトでもらいたいランキングで、必ず1位にあがるのが肉。その一方で、贈られる割合がもっとも少ないのも肉なんですよ。このギャップは、どこにあるんだろうと思っていました
※1 リンベル株式会社(Linden Belle)は、カタログギフトの提供を専門とする日本の企業です。様々なカタログから選べるギフト商品を提供し、特にオンラインでの購入が便利なのが特徴です。様々なジャンルやテーマに合わせた商品が揃っており、ギフト選びが楽しめるのも魅力の一つです。結婚の内祝いや引出物、出産、新築、引越しなどの内祝い、法要、香典返しなどの用途に合わせたカタログギフトの制作、及び販売を行っている。
佐藤氏はもともとはファッションデザイナーを志望していたが、大学進学のタイミングで建築へと軌道を修正。卒業後はハウスメーカーで建築デザインに携わり、次に建築業に特化した経営コンサルティングを行う会社に勤めた。クリエイティブ志向が強くあり、今もファッションへの造詣は深いという。ここまでのキャリアのなかで、食肉との関わりはない。そんな佐藤氏と食肉との接点。それは、実家が食肉の卸売業を行っていることだった。
前職が経営に近しいところでしたので経営者と話す機会も多く、そうしているうちに自分も経営をやってみたい思いが高まっていました。ちょうどそのころに新型コロナウイルスが蔓延して、卸売中心の家業の売り上げが、半分くらいまでに下がってしまったんです
そこで佐藤氏は、父親にある提案を投げ掛けた。
これからは、小売り事業も伸ばしていかないといけない。それなら食肉の通販事業はどうかと、僕から父親に話を持ちかけたました。そうしたら『それ面白いな』と反応があって、『月に6万円の予算を渡すから、そのなかで好きにやればいい』と言ってもらえたんです。サラリーマンをやっていて全裁量を任せてもらえることはなかなかないことですし、この環境に甘えさせてもらおうと思って家業に入ることにしました
とはいえEC事業を立ち上げて運営するのに、月6万円の予算はあまりにも少ない。当然のように、当初は赤字の連続だった。だがやがて、他業種の経験を持って食肉業界に転身したからこそ、この業界に欠けているところに気付く。
食肉業界は当たり前のことが、意外と当たり前にできていないなと気付き始めたんです。異業種にいた経験から申しますと、お客様にとってハウスメーカーは大きい買い物されるところです。なのでハウスメーカーは、顧客対応がとても丁寧なんですよ。だけど食肉業界は商品の梱包や同梱物のクオリティ、購入者へのアフターフォローやカスタマーサクセスなどへの意識がすごく弱い。そういったことを自分の経験を生かしながら、EC事業に置き換えていきました
食肉を贈りたいものにするため、
まずはパッケージにこだわった
そうして家業に関わるのと並行しながら、2023年3月にMARBLANC社を立ち上げた。最初にこだわったのは、パッケージ。

先ほどのもらいたいものと、贈りたいものランキングのギャップ、これは絶対にパッケージにあると思ったんです
それに気付かされたのは、自身の経験があった。
家業に入ったころに僕も含め、周りでも結婚ラッシュだったんですよ。友達からお祝いをもらって内祝いを返す際に、僕は自分のところのお肉が送りたい。だけど内祝いは、夫婦で送るものじゃないですか。うちの妻から『肉なんてこんな古臭いパッケージのものを送ったら、自分たちのセンスが問われる』みたいな考えを聞かされ、肉は贈り物にしにくいものなんだなと思わされたんです。実際に友達に話を聞いても、そう思うところはあると言っていました。そんなことがあって、贈り物にしてもらえるにはパッケージをモダンに刷新しないといけないんじゃないか。その考えに、行き着いたんです
肉は木箱などに入れてしまうと、外から肝心の商品が見えない。だがMARBLANC社が手掛ける食肉ギフトのパッケージデザインはひと目で見てわかるように、従来の食肉ギフトのパッケージとは完全に一線を画す。随所に佐藤氏のこだわりが、詰まりに詰まっている。
MARBLANCの商品は自分でいうのもおこがましいですが、パッケージがめちゃくちゃ独創的なんです。SNSなどに写真を上げてもらうことを前提にしているので、パッケージのデザイン性と、商材である中身の肉がちゃんと見えるもの。それを掛け合わせたものでと検討を進めて、今の形になりました

思惑通りにInstagramをはじめとしたSNSでは好反応で、それも影響してリピート購入者も多いという。
リピーター層は、すごく多いですね。僕らの始まりがギフトの課題でしたし、商材はギフトに振り切ってしまっています。今は8対2で、8がギフトなんですよ。立ち上げたころに金融機関やベンチャーキャピタルなどと話をしていて、『御社のビジネスは1年間のお客さんの購入回数が少ないから、ビジネスとして成り立たない』と言われ続けていました
ところが立ち上げてみると、購入者の3分の1が3ヶ月以内にリピートした。
目新しいから、最初は購入するのに躊躇されるんです。だけど一度購入したらパッケージがおしゃれで、これをだれかに贈ってみよう。そして贈ってみたら、もらった人からとても喜ばれた。そこから、このお肉をギフトの定番にしようみたいな流れができてきました。5月の母の日に贈ったお子さんが、6月の父の日にも贈るようになってきたんです
商品の見た目だけではなく
味と品質にも徹底的にこだわった
もちろん見た目のパッケージだけではなく、肉の品質そのものにもこだわった。上っ面だけではなく、本質の探求にも徹底的に手を入れる。だからこそ、マーケットからの支持が得られたのだ。

弊社はお肉をただ単にカットしているだけではなく、ドライエイジング(※2)をして肉内部の水分量を調節し、いわゆる熟成をさせてから市場に流通させています。だから、お肉のうま味成分が高いんですよ。それに家庭での焼き上がりのミスが少ないですし、多少火を入れすぎてしまったとしてもしっかりと噛み切れるし、味も損なわれない。そういったところで、評価されているのかなという印象はあります
※2 ドライエイジングとは、専用の熟成庫で温度や湿度・風・微生物を厳密に管理し、30日以上もの長い時間をかけて、ゆっくりと肉を熟成させていく方法です。 この熟成方法は今までと比べ、より肉が持つ旨さを引き出すことを可能にしました。
ドライエイジングの技術は佐藤氏が英語の論文を読み漁り、あれこれと試行錯誤を重ねたうえで、これだというものに辿り着いた。そうして完成した商品を、「熟成和牛D2Cブランド」の名称で展開している。

熟成と謳っているお肉屋さんもありますが、冷蔵庫に放り込んで、単純に扇風機で肉の水分を飛ばすだけなことも少なからずあるんですよ。僕らはそうではなくて、きちんと化学したうえで、コントロールしていることが強みです。その技術が進んでいるドイツからドライエイジング専用の機械を取り寄せ、それと自社のノウハウやプロセスを掛け合わせて作っています
また特殊包装を用いて、冷蔵で消費期限が2週間も持続するのも、MARBLANC社の商品の特徴。そのための機械を導入するのに、思い切った投資をした。

食肉業界という大きい市場のなかで、今までになかった価値を提案してきて、お客様の反応がすごく楽しいんですよ。いいお肉なのに、消費期限が2週間あるというだけでも『すごく嬉しい』『こういうものを待っていた』と言ってもらえると、やりがいを感じます。ただそのための機械は正直、めちゃくちゃ高いんです(苦笑)。大手のスーパーさんならともかく、会社を立ち上げていちばん最初にこの機械を買うようなモノ好きは、普通はいないでしょうね。周りの友達は人生でいちばん高い買い物がマイホームなのに、僕はその機械なんです(笑)
「肉を中心にした生活体験を、
包括的に提案していきたい」
自らの性格を「オタク気質」だと、佐藤氏は言う。幅広く興味のアンテナを広げながら、そこに引っかかったものは徹底して掘り下げる。パッケージへのこだわり、味への追求、品質保持への飽くなきトライ。MARBLANC社の独創性は、佐藤氏の気質とクリエイティブ志向の掛け算から生み出されている。
社としては10年後を目処に、株式上場を目指す。それも含めた長期的な目標については、こう語る。

お肉屋さんから始めてスーパーになっていったロピア(※3)さんがいい例かもしれませんが、僕らもお肉を売るだけではなく、お肉を中心にした生活体験を包括的に提案していきたいです。今後は新しい展開として調味料を開発して発売するのですが、それだけではなく包丁の老舗と組んでオリジナルキッチン機具を作ってみたり、エプロンを作ってみたりとか。そういうことで業務を拡大していけたら、今までにはないお肉屋さんになって、より面白い存在になれるのではないかなと思っています
※3 ロピアは首都圏を中心に全国で約90店舗を展開する食品スーパーマーケット、食肉専門店の運営 ・手造りハム・ソーセージ等の製造販売 ・食品の輸入貿易を行っている。
そうしたことが実現して足場が固まれば、かつて志していたファッションの世界への進出も叶うかもしれない。
そうなんです。僕の最終的な野望としては、衣・食・住すべてを絡めたいんですよね。僕は大学時代はファッションサークル入って服を作っていましたし、新卒ではハウスメーカーに入社しました。そのすべての経験を生かして、MARBLANCを総合的カンパニーにしてきたいですね
食肉ギフトに革新を起こさんとしているイノベーターは、大いなる夢を胸に歩み続ける。
