株式会社ジョブサーフ / 代表取締役 川口直哉 氏
昨今よく耳にする「人生100年時代」というキーワード。これまでの「60歳まで働いて、定年後は年金でセカンドライフ」といった、ステレオタイプな価値観は通用しなくなり、「生涯現役」を続けるライフスタイルに移行しつつあります。変化の激しい時代に生涯現役を続けるために注目されているのが、幅広い経験やスキルの獲得により、多層的なキャリアを形成できる「副業」。2018年は「副業元年」として、政府の働き方改革の一部に「副業」が盛り込まれました。しかし、副業解禁する企業が増加傾向にはあるものの、企業の副業に対する意識や風土改革が進んでいるとはいえません。そんな中「社員に意義ある社外活動を積極的に促進することが企業の競争力と価値向上に繋がる」と語るのは、企業社員向けに社会貢献ジョブマッチング「JobSurf」を運営する株式会社ジョブサーフの代表川口直哉氏です。

原点はサラリーマン時代の疑問
2012年にCRMサービスを手がけるシナジーマーケティング株式会社に新卒入社した川口氏は、Webディレクターとしてデジタルマーケティングに携わります。その後、インターネット広告にも関わるようになったタイミングで、広告も含めた一気通貫のマーケティングに興味を持った川口氏は、ネット広告大手の株式会社サイバーエージェントへ転職を決意しました。
※CRM:製品やサービスを提供する企業が、顧客との間に親密な信頼関係を作り、顧客と企業の相互利益を向上させることを目指す総合的な経営手法のこと。
シナジーマーケティングは顧客との関係を生み出す「CRM」をベースとした製品やサービスが中心です。入社後は基本的に既存顧客のフォローがメインの仕事でしたが、シナジーマーケティングがYahoo!グループに入って、インターネット広告にも携わるようにり、そこでネット広告による顧客獲得に強く興味が湧いてきました。それに加え、30歳を目前に「もう一度自分に負荷をかけたい、挑戦したい」という思いがこみ上げてきて、インターネット広告大手のサイバーエージェントへ転職しました。
サイバーエージェントでは4年半の間、営業として顧客に広告を中心としたデジタルマーケティングの提案・運用を行っていた川口氏。毎日がむしゃらに仕事に向き合い、営業マネージャーまで任された川口氏でしたが、仕事に疑問を抱くシーンが増えていったといいます。
シナジーマーケティングでもサイバーエージェントでも、非常に仲間に恵まれていました。素晴らしい仲間がいたからこそ、どんな仕事でも乗り越えることができたんです。ところが、コロナ禍でリモートワークが主体になり、仲間と離れ物理的に1人で仕事をすることが大半になると、プライベートと仕事を切り分けられなくなってきました。そしてだんだん「自己肯定」と「自己否定」のバランスが崩れ、仕事に対し強い疑問を抱き始めました。「自分は何をやってるんだろう」と。自分の人生は「自分が主役」のはずなのに、いつの間にか「会社が主役」になってしまっている。そんな疲弊している姿を家族に見せるのが辛かったんです。
悶々と「働き方」について考えるようになったそんな時期に、川口氏が新卒時代にお世話になった当時のシナジーマーケティング社長・谷井等氏から「新たに副業関連で事業をやりたいんだが、、」と声がかかり、川口氏は二つ返事で了承。ジョブサーフの立ち上げを決意します。

導入企業・社員・受入企業の「Win・Win・Win」を目指す
ジョブサーフのミッションは「働くワクワク再発見」。企業向けに社会貢献型ジョブマッチング「JobSurf」を提供しています。簡単にいえば「副業したい企業社員向けのマッチングサービス」です。2021年6月に最低限の機能をアルファ版としてリリースし、まずは少数の企業にトライアルとして導入を開始しました。
サービスの概要は次のとおり。まず、JobSurfを導入されている「導入企業」に勤める社員は、JobSurf上で自身の興味のある社会テーマ×職種で副業を探します。気になる募集を見つけた社員は、JobSurf内で募集にエントリー。「受入企業」は、エントリーした社員と必要に応じて面談等実施の上、社員と業務委託契約を結びます。また、受入企業での社員の活躍状況は、定期的に導入企業にフィードバックされ、社内外へのPRに活用可能です。
この一連の流れを通して、導入企業は社外での多様な経験による社員の「キャリア自律の促進」と、それぞれの社外活動が社会貢献に繋がっていることにより、企業としての社会的価値向上に繋げてもらうのが狙いです。

JobSurfの大きな特徴は2つ
1つ目の特徴は、通常の副業マッチングサービスとは違い、「受入企業」や「副業をする社員」からは一切手数料を取らず、「導入企業」から費用をいただくビジネスモデルであり、非常に斬新です。
導入企業への対価としては、社員の意義ある社外活動を通したキャリア自律と社会貢献です。そのためには、まず魅力的な副業先を提供することが重要です。加えて、JobSurfでは社員の社外での活躍状況を導入企業にフィードバックしていくので、社員が副業先でどんな経験やスキルを身につけているのか、新たな社員の可能性や側面を把握できると考えてます。社内だけで行うキャリア開発、研修による育成には限界がありますので、社員にどんどん社外で活躍してもらって、どこでも通用する人材を育成したいというニーズが、特に大きな企業にはありますね。また大きな企業ほど売上や利益以外の対外的な評価基準となる「ESG」に敏感です。いかにポテンシャルの高い社員を保有し、会社としてキャリア自律のサポートができているかがこれからより一層「人的資本」という側面で投資家から評価されるようになってきています。そういう意味で、これからの企業にとって競争力と企業価値向上の手段としてJobSurfを活用してもらいたいです。※ESG:持続可能な世界の実現のために、企業の長期的成長に重要な環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の3つの観点。
2つ目の特徴は、「受入企業」が社会課題を解決するベンチャー・NPO、そして自治体に厳選されている点です。これらの企業は「地域」や「フードロス」といった現在17テーマに分類されており、副業を探す社員は、報酬+αの興味関心のあるテーマの中で意義ある副業先に出会うことができます。
高齢化により労働人口の減少している中、「人材の流動性」は大きな社会課題と認識しています。その一つの打ち手として、国は副業・兼業の促進を行っているわけですが、とくに上場企業には多くの社員が在籍しています。東証一部上場企業だけみても約2,200社300万人ほどの方がいらっしゃいます。見方を変えれば、いろんな可能性を秘めた優秀な人材がひとつの会社に留まってしまっているとも言えます。その方々に副業という手段を活用してもっと意義ある場所に流動してもらいたい。そして、それぞれの受入企業・団体の人手不足や採用力の課題解消することで、みなさんが向き合う社会課題解決のスピードを加速させたいと考えています。
確かに、導入企業には社員のキャリア自律や社会貢献、受入企業や団体には優秀な企業人材の確保といったメリットがありますが、肝心の「副業する社員」のメリットが見えてきません。しかし、川口氏は「JobSurfのような社外へ飛び出すきっかけを待っている社員はたくさんいる。」と断言します。
サービスの構想段階から、たくさんの企業にインタビューを実施してきました。その中で、副業解禁をしている企業さんであっても、実際に制度を利用して副業している社員は多くても1割。大手企業さんだと3〜5%というのが実態でした。これだけコロナ禍も相まって、個人の副業ニーズが高まっているにも関わらず、一歩踏み出せていない社員がたくさんいるのが現状です。我々は、そんな社員がもっと気軽に、そして心理的安全性が担保されたなかで、意義ある社外での副業にアクセスできる状態を提供することを目指しています。副業は転職や起業に比べリスクなく新たなキャリアや自身の可能性を見出す手段だと思っています。そのために、彼らが働く企業を巻き込み、企業内の意識や風土の変革も含めて実現していきたいと考えます。
すでにバリバリ社外で二足も三足もわらじを履いてイキイキと活動できている方にとっては、JobSurfは必要ないと考えています。ただ、実際にサービスをリリースしてみると、本質的な課題が見えてきました。それは副業を「やりたい」と「やる」の間には、とてつもない距離があるということです。ただ、やりたくても様々な理由をつけてあきらめている、自分にはできないと思っている方にとって、社外に踏み出すきっかけを作り、応援したいです。我々は、社外へ飛び出す障壁となりそうな部分をサポートし、ワクワク働くための方法として誰もが副業を選択しやすい状況づくりを行うことで、きっかけを待っている社員にメリットを提供していきたいと思います。
まだまだ「社員の離職を促すのでは?」と、副業に懐疑的な企業も多いですし、企業自体が副業を「制度」として許可していても、副業できる「雰囲気」ではないケースもあります。そんな「雰囲気」を変えるために、まずは影響力、声の大きな大手企業の賛同を得て、世の中の空気感を変えていける事例づくりに注力しているといいます。

社会を明るくする「働くワクワク」
サラリーマン時代に抱いた違和感の解決を「意義ある社外活動」に見出した川口氏。一つのコミュニティに依存する働き方から、他のコミュニティとの繋がり、評価が得られる活動を通して、自信や未来への期待といった「自己効力感」を高めることで、本業との相乗効果を生み、人生、社会全体が明るくなるはず。そんな川口氏の想いは、ジョブサーフの由来にもこめられています。
仕事を表す「ジョブ」、趣味や余暇を表す「サーフ」。「仕事」と「趣味・余暇」の境目がないくらい「働く」ということを豊かなものにしたい。そうすれば、人生の全体最適化を図れる、という想いで、社名を「ジョブサーフ」としました。もう一つ、今、働き方を取り巻く環境は大きな変化の「波」が押し寄せています。その波を誰もが自在に乗りこなしてほしい。そんな「サーフボード(助け舟)」の役割をはたしたい。そういう意味が「ジョブサーフ」には込められています。
高校・大学時代にフランスに留学を経験し、大学でもフランス語学を専攻していた川口氏。留学先の大学教授からの言葉が、ずっと心に残っているといいます。
「この世を去るとき、辞書に載る」と思いながら生きなさい。その辞書の「川口直哉」というページに、どれだけ長文で、君の説明が書かれているか。それが君の「生きた証だ」という言葉です。この言葉を胸に秘めて、少しでも社会に貢献して、「自分はこういう人だ」と生きた証を残していきたいですね。
「川口直哉」という単語とともに、「ジョブサーフ」という単語も、数十年後の辞書に載っているかもしれない…そう考えると、とてもワクワクしてきます。
