株式会社テクノライジング / 代表取締役 水野 敏雄 氏
中小企業の経営者で、下請けのつらさや悲哀を味わったことがない人はまずいないだろう。元受けや発注元の都合一つで受注が激減したり、時に廃業に追い込まれたりすることもよくある。金属加工や切削、マシニング加工などで実績を積み重ねてきたテクノタイヨー(大阪府堺市)の水野敏雄氏も、下請け企業の将来性に危機感を抱いた一人。「下請け仕事に甘んじているだけでは、いくら頑張っても飛躍はない」。そう考えた水野氏は社内ベンチャーとして、開発に特化したテクノライジングの設立に踏み切った。既に、自社開発製品を世に出し、高い技術力で新しいフロンティアに目を向ける水野氏に、意気込みを聞いた。

仕事に楽しみと誇りを求めて
テクノタイヨーの設立は1983年。水野氏の父、弘雄さん(現会長)が脱サラして始めた水野機械工業が前身だ。省エネ機械の設計から加工、組み立てまで一貫して受注していたが、省エネ機械はオーダーメイドのため効率が悪く、業績は伸びなかった。アルミ押出や切削加工などを行っていた会社の下請けを担うようになって、経営は安定軌道に乗ったものの、その会社自体が設計・製造部門を持つようになり、必死の営業活動で受注した新たな仕事も競合が増えて、業績はじり貧に。そんなときに父の後を継いで社長に就任した。
下請けでは利益が上げられないことがはっきりしたうえ、メーカーの秘密主義が強まり、仕事を受注しても何に使われる部品かも分からず、作る側としてのやりがいが感じられなくなっていったのです。これでは仕事が楽しくないうえに社員も誇りが持てず、もっと最終ユーザーに近い仕事をしたいという思いが強まりました。もともと設計から製品開発、組み立てまでできる技術力は周りにも認められていましたから、やれるという自信だけはありました。
そんなとき、大阪府立大学の「後継者育成セミナー」に参加して、府大と共同開発する道が開けたのです。セミナーでは、開発と同時に技術経営ができないといけないということも学びました。そうした学びを糧に、テクノライジング社を立ち上げたのです。
木造住宅を地震から守る制振オイルダンパー
2013年に発足したテクノライジング社が、府大との共同開発したのが「木造住宅用の制振ダンパー」。基礎になったのが、台所の吊戸棚を小さな力で上げ下げできるダンパーだ。

父が内製化に成功した吊戸棚のダンパーを住宅用に改良したものです。住宅の地震対策としては、柱や梁などの強度や粘り強さで地震に耐える「耐震」、揺れを逃がす「免震」がありますが、木造住宅用の制振ダンパーは内部に注入したオイルで地震エネルギーを吸収することで、揺れを軽減させる仕組みです。地震の衝撃力を最大50%低減できるため、柱や梁の損傷を抑えて建物被害を小さくします。
密封したオイルは、温度が上がると膨張するので、これをどう抑えるかがポイントでした。試行錯誤の末、ふたを可動式にして、オイルが膨張したら内部の体積も大きくなるようにして克服しました。ダンパーは今でもゴムが主流ですが、オイルダンパーに取り組むメーカーも増えてきて、これから需要はますます広がっていくでしょう。
医療分野にも進出。大阪府大発のベンチャー企業に認定
もう一つの共同開発製品が、医療用のゴニオメーター。リハビリテーションなどで、膝の曲がる角度などを簡単に測れる器具だ。従来品は重くて使い勝手が悪かったが、開発した「カチカチゴニオ」はアルミ製で重さは従来の半分と軽く、片手で5度単位の計測が簡単に行えるのが特徴。

これも大阪府立大学大学院のリハビリテーション学研究科の先生のアドバイスがあって生まれたものです。木造住宅用の制振ダンパーとカチカチゴニオを製品化できたことで、ライジング社は府大のベンチャー企業認定を受けました。ほかにも、オイルダンパーを使った負荷調整機能付きトレーニングマシンなども開発しています。医療の分野は、健康に直接役に立っているという喜びが味わえますし、一定のロットも確保できますので、これからは医療系に力を入れたいと考えています。独自ブランドも築いていきたいですね。
「幸せな未来」づくりに若い力の結集を
入ってくれないのが悩み。加えて下請け営業中心だっただけに、新製品の営業は、ほとんど水野氏一人で担ってきた。
海外展開を目指してベトナムに現地事務所をつくったつながりで、優秀なベトナム人技術者を採用でき、現在は彼らが開発の中心になっています。今後、日本人の理系学生にとって魅力ある会社にするためにも新製品開発に力を入れていきたいですね。会社のPRも兼ねて、大学への出前授業も積極的に行っています。また、若い女性だけのチームでインスタグラムを活用したプロモーションにも取り組んでいます。
「モノづくり」のプロ集団を標榜する水野氏だが、社是には「思いやりのこころ」「誠実なこころ」「あきらめないこころ」を掲げる。どこか、近江商人の「三方よし」を思わせる。

わたしたちの「モノづくり」は「幸せな生活づくり」を目指しています。便利と安心を提供する新しい「道具」を生み出すことで、私たちの社会と人々の未来を、より幸せにしていきたいというのが、私たちの願いです。
