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サステナブルファッションの最前線 廃棄物染めで「捨てない選択」を創った企業
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サステナブルファッションの最前線 廃棄物染めで「捨てない選択」を創った企業

2021.09.10
株式会社福井プレス

株式会社福井プレス  代表取締役 福井 伸 氏



(※1)サステナブルファッション:社会や環境に配慮したファッションのこと。例えばオーガニック素材で作られた衣類や ジェンダーや人種に配慮したデザインなどが挙げられる

企業としての生存戦略を考え抜いた結果、SDGsを経営に取り入れることにしたんです。

そう話すのは東大阪市にて洗濯業・染色加工業を営む福井プレスの3代目代表取締役 福井 伸(のぶ)氏だ。
SDGs(Sustainable Development Goals)とは、持続可能な世界をつくるために2015年9月の国連サミットで定めた世界共通目標。2030年までを達成期限とし、貧困・衛生・健康・教育・人権・労働・環境などに関わる17のゴールと、目標の実現方法を具体的に示した169のターゲットで構成されている。一見すると慈善的な印象のSDGsを福井氏はどのようにして経営に取り入れたのだろうか。事業の変遷や今後の展望と共に聞いた。

サステナブルファッションの最前線 廃棄物染めで「捨てない選択」を創った企業


“洗い”と“染め”の工場


1938年、福井プレスはクリーニング専門業者として、東大阪市に工場を構え事業をスタートさせた。創業時より安定した経営を続けてきたが、1992年をピークに洗濯業界全体の需要規模が縮小し始めると、それに伴って売上が減少。危機感を抱いた福井氏は2003年に家業を継ぐと同時に染色加工業を開始し、自身で考案した“洗い”と“染め”を同一工場で両立させるビジネスへと業態転換を図った。その後、両事業の繁忙期と閑散期がうまくかみ合ったことや、小ロット多種の染色加工サービスが人気を得たことで、業績は右肩上がりに成長。2010年には個人向けの衣料染め直しサービスも事業に加えた。福井氏はそんな当時のことを「無鉄砲になんでもやっていたな」と笑いながら振り返る。

事業を始めたばかりの頃は、どんな注文にもとにかく応えていました。これはいけるのかな?儲かるのかな?リスクはどうかな?と、考える暇があったら動いていましたね。そうやってどんどん応えているうちに加工の種類や技術が増え、多品種少量生産のできる工場体制が整っていきました。また、BtoC事業を加えたことでエンドユーザーの細かい需要が見えやすくなり、サービスの幅が格段に広がりました。防花粉加工・防蚊加工・ドッグウエアなどがその一例です。


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福井氏の手腕により順調に売上を伸ばしていた福井プレスだが、2020年のコロナ禍を機に事業全体の見直しを図ったという。その理由をこう語る。

実はコロナの流行る少し前から、売上が思わしくない状況になっていました。BtoCは同業者の参入が増えたことで受注数が横ばいに。BtoBは格安の輸入衣料品の増加などを理由に受注が落ち込んでいました。コロナ期間中はマスクの抗ウイルス加工の“特需”で乗り切れたのですが、どちらにしても事業の方向性を変えなければならない時期に来ていました。

人口減少による国内市場の縮小・輸入増加による国内衣料生産量の減少・パンデミックによる予想不能の事態などを要因に、従来通りのビジネスモデルでは立ち行かなくなった2020年。事業を発展させるためにどう戦略を打ち立てればよいか。
福井氏にとってその道標となったのが「SDGs」だった。


珈琲染め、キノコ栽培、そして土に


福井氏はSDGsの12の「つくる責任 つかう責任:持続可能な消費と生産のパターンを確保する」と、BtoC事業で進めてきた衣料の染め直しサービスを掛け合わせ、循環型の新しいビジネスモデルを考案した。
それは、廃棄されるチャフ(焙煎した時にでる焼けた薄皮)で衣料を染め直し、そのチャフに生ごみを混ぜ堆肥にするという循環をビジネスにするというものだった。
その際、流通コストや二酸化炭素の排出を削減するためにも、地元東大阪市内でサプライチェーン(※2)を完結させることも念頭に置いた。福井氏はどのようにしてこのアイデアを思いついたのだろうか。
(※2)サプライチェーン:商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのこと

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きっかけは、妹の経営する珈琲焙煎所で見たチャフでした。産業廃棄物として捨てるというので少し譲ってもらい、試しに染料として使ってみました。すると思いの外、いい色に染まったんです。これを“珈琲染め”として売り出そうと思いついたのが2019年です。SDGsに沿ったビジネスモデルを考え始めたのはコロナ禍になってからです。
堆肥化させるアイデアは、チャフを廃棄しないための方法を考える中で思いつきました。
このモデルは、関わる全ての人にメリットがある構造になっています。
カフェや焙煎所は、チャフを捨てずに済むので、環境負荷や廃棄コストを抑えることができます。私たちは無料で染料を得られるので製造コストを抑えることができます。アパレルメーカーは環境配慮のある企業イメージを構築できます。
消費者はファッションを楽しみながら“環境によいことがしたい”という心理的欲求を満たすとことができます。
全員がWin-Win(ウィン ウィン)の関係となってこそ持続可能なビジネスになるんです。


近畿大学との連携


福井氏はチャフとは別に、廃棄される珈琲粕(ドリップ後に残る出がらし)に着目しキノコ栽培も考案した。
ただ優れた事業アイデアであっても、形にできなければ意味がない。そこで重要になってくるのが、知識や技術の集合体である大学をはじめとした研究機関との連携だ。福井氏のビジネスモデルにおいても、キノコ栽培を専門とする研究機関との連携が必須だった。

さすがにキノコ栽培といった農業分野については全く知識がありませんでした。そのため、農業に詳しい専門機関との連携が絶対に必要でした。依頼先を探していたら、偶然にも同じ東大阪市内の近畿大学に、キノコを専門に研究する先生がおられたのです。考えを伝えると、幸いにも協力していただけることになりました。更に島根県のキノコ研究家とも交流しながら、 今は安定したキノコ栽培ができるよう実証実験を繰り返しているところです。


このような異業種間における連携の必要性はSDGs17の目標「パートナーシップで目標を達成しよう」にも示されている。


SDGs経営の共感


チャフを活用した“珈琲染め”をきっかけとして、福井プレスでは販売できなくなった花・クラフトビール店のビールかす(麦芽粕)・ワイナリーで剪定したぶどうの木などを使った染色も行うようになった。こうした廃棄物染め事業を通じ、社員のSDGs経営に対する理解や共感が深まっているという。

これからの時代はSDGsを前提とした事業が重要だとみんな理解してくれています。社員からSNSを通じてSDGsに関わる取り組みを発信してくれたり、開発段階にあるキノコ栽培の勉強などにも取り組んでくれています。うちの社員は9人全員が女性なのですが、美術大学や服飾学校の出身者が多く、みんなデザインセンスが抜群にいいんです。そんな彼女たちの感性が、商品のデザイン的価値を高めていますし、新しいアイデア作りにも貢献してくれています。


SDGs 目標8には、「働きがいも経済成長も:包括的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」が掲げられている。
福井プレスの場合、廃棄物染めという社会貢献度の高い仕事が働きがいを生み、それが社内全体の機運醸成や業績向上を促すという好循環を創り出しているようだ。



東大阪市内で完結させる


SDGsを経営に取り入れたことで、“廃棄物染め”という新しい事業の開拓に成功した福井プレス。
最近はサステナブルファッションの好事例としてメディアに取り上げられることが増え、それを見た大手飲料メーカーや有名百貨店からコラボレーション(共働)の依頼や大量廃棄を見直そうとする大手アパレルメーカーからの注文などが舞い込むようになっている。
全国展開も見据える?と思いきや、調達・製造・販売・消費の過程を東大阪市内で完結させると 福井氏は語る。

サステナブルファッションの最前線 廃棄物染めで「捨てない選択」を創った企業

全国規模では物流コストが高くなり、循環型社会は機能しません。これからは珈琲染めやキノコ栽培などのワークショップを通じて、地域交流の機会を増やしていこうと考えています。染料の提供先となる東大阪市内のお店との連携も強めていきたいですね。

先日行った百貨店とのコラボイベントでは、食料品売り場で廃棄されるアボカドの皮で染色したり、母の日に売れ残ったカーネーションで染色するなどして、新しい素材を使った染色にもチャレンジしました。染めたTシャツを百貨店内に展示することもでき、廃棄物染め事業の可能性を以前より強く感じています。
“染め直して着る”という新しい習慣をさらに広めるためにも、自社で作った珈琲染めのエコバッグやTシャツといったオリジナル商品の販売もスタートさせました。
今後はECサイトの充実も図っていきたいです。


SDGsは資本主義の行き過ぎた形のひとつとされる、短期利益至上主義的な経済のあり方を改善するために設けられた目標でもある。そのためSDGsは、企業の積極的参加を促進できるよう、新規事業開拓・企業価値向上・社内の機運醸成・経費削減といった事業成長に直結するメリットを多く含む構造になっている。地球規模の壮大なテーマであるぶん、“自分事”として捉えにくい側面があるが、福井氏のように自身の事業に沿わせて実践することで、SDGsは企業にとって有効な戦略ツー ルに成り得る。

サステナブルファッションの最前線 廃棄物染めで「捨てない選択」を創った企業

こうして道を開くことができたのは、リスクやデメリットばかり考えていないで、常に動こうと努力してきたからだと思います。経営において一番重要なことは、絶えず危機感を持ち、 行動し続けるということではないでしょうか。
これは、創業以来変わることのない私の経営スタイルでもあります。


そういって福井氏は笑顔を見せる。挑戦はまだまだ続きそうだ。


株式会社福井プレス
〒579-8013 東大阪市西石切町6-3-42
オフィシャルサイト:https://fukuipress.com/
染め直し屋:https://somenaosiya.jp/