株式会社ワサビ / 代表取締役社長 大久保裕史 氏
株式会社ワサビは、リユース品の流通システムの開発と販売を主事業とする企業。同社が開発した「WASABI SWITCH(WORLD SWITCHから名称を変更)」はリユース品に特化したEC管理システムで、ここに商品を登録すると楽天市場やAmazon、ヤフオク!、eBayなど20以上の提携モールに同時に出品される。
このシステムは、旧来はひとつずつの作業を人力で行っていた出品・在庫管理・受注・買取の手間が大幅に削減される。なおかつ自動翻訳機能もあるので、海外のモールにも出品が可能になる優れものだ。創業10周年となる2022年にオオサカジン社長インタビューでも紹介(※1)しているが、今回はその後の成長ぶりを改めて大久保裕史代表取締役社長に尋ねてみた。
※1 株式会社ワサビ 2022年10月07日 オオサカジン社長インタビュー
あと2年くらいでリユース業界は、業界標準になる未来が現実味を帯びてきました。昨年に弊社のシステムから解約されたのは、ゼロなんです。積み上げ式になっていて、経営がしやすい状態になっていますね。今後はWASABI SWITCHのライト版などを提供することによって、まだそれほど大きくないリユース会社を育てるフェーズに入ってきたかなと思っています
情勢に合わせる必要があるためシステム開発に終わりはなく、WASABI SWITCHはつねに進化を図る。また前回取材時には30名に満たなかった従業員も増えるなど、社として着実に成長を遂げている。今後はより積極的に、海外へと進出していく考えだという。

今は弊社のシステムを、香港・台湾・タイなどで使ってもらい始めています。今後はアジア進出を続けながら、アメリカと中国を取りたいと思っているんです。中国の人たちはコロナ禍の時期くらいから、ブランド品や物を売ることを覚え始めた感じなんですよね。今まで中国の人が爆買いしてきたものが、リユースのマーケットに出始めています。なので中国と、高く売れるアメリカ。この二軸は、取るしかないなと。我々のEC業界のパイでいうと中国が50%、アメリカが20%。この70%を狙うのは、マストだと思っています
すでに中国とアメリカには現地法人を設立し、橋頭堡(※2)を築いた。海外展開にも、確かな手応えを得ている。
※2 橋頭堡(きょうとうほ)とは、敵地に侵攻するために設ける拠点。元は橋を守るために築いた堡塁を意味する語。転じて、ビジネス的には、企業の新事業への進出・海外市場への進出といった事業への足がかり、などのような意味でも用いられる。
海外には日本のように、大きいプレーヤーはそれほどいないんですよ。中国は売り場さえ持っていたら、取れると思うんです。我々のシステムは受注ベースではありますが、それだけではなく、1点物に特化しているので在庫連動と出品にも強いんですよ。ほかにないものなので、全然いけるんじゃないかな。課題はありますが、我々なら実現可能と確信しています。ただそれが実現するには、最近はいろんな事業をやり出しているので、それらの置換とのバランスの兼ね合いがあったりしますね
国内で価値が薄れた着物に着目
リユースするブランドを設立して海外へ
リユースに関する事業を縦軸としながら、今後は横軸を広げていく考えでもある。そのひとつは、アパレル業界への進出。リユースされる着物に、着目した。

我々自身が、唯一無二の価値と世界観を持つブランドとして認知されることを目指しています。着物は日本では使い道がなくて、破棄されたりするのをよく見かけていました。そもそも、もう着物って着られていないですよね。だけどかねてからいろんな国に行って、日本の着物はリスペクトされていると感じていました。現地のヴィンテーショップなどで、着物が売られていたりするんですよ
海外を数多く経験している大久保氏は、場所が変われば着物の価値が変わることを改めて感じた。
それをどう、現代の形に作るかだと思ったんです。これに手を付けるにあたって、いちばんいいなと思ったのは、僕たちのストーリーに合っていること。それと着物は、元からヴィンテージ物で、1点ものでもあるんですよ。デザイナーさんを起用して、ジャケットであったりとか現代の形のものにする。それを海外に展開して売っていくのは、すごく可能性があるなと感じました
世界中のセレブはヴィンテージものや、一点ものを買い集めている。リユース業界に身を置いて、それを感じているのだという。
そういった層に、めちゃめちゃハマるんじゃないかと思っています。僕たちがいきなり新しいブランドを始めても、ストーリーがない。でも着物が持つ歴史背景で、それを作ることができる。1点ものという特性を合わせて考えると、もしかすると日本から世界のハイブランドと並ぶ日本発ブランドを目指したいと考えています
ビジネスとして成立させるためには、量産化の実現が必須。そのためには困難がともなうが、乗り越えていく決意でいる。
着物をほどいて、洗って裁断する。それを経て、素材や柄が違うものを量産化する難しさはあります。リメイクをしている人は何人かいますが、量産できないのでビジネス化されていないんですよね。僕らはちゃんと量産化する形を作り、リメイクの枠を超えてブランド化することに力を入れてやっていきます
そのほかにも、インバウンド観光客が日本で購入した品物を自宅まで送り届ける配送サービスや、メルカリなどへの出品代行サービス、自治体と連携して粗大ごみをリユースするサービス、中古車の流通システムなど、次々と新事業を展開していく。
異業他社とのジョイントベンチャーも開始
自社の根幹をブラさず、より強い会社へと成長させる
中でも注目は、弊サイトでも以前にオオサカジン社長インタビュ ーでも紹介(※3)した菊水産業とのジョイントベンチャー。「株式会社てとて」という新会社を2025年1月に設立し、日本の伝統工芸やものづくり企業の商品を世界へ発信し、海外進出を支援する特化型ECサイトの構築を目指しています。
末延秋恵氏が4代目を務める菊水産業株式会社は、創業 650余年を数える国産爪楊枝の製造元で、現在では一般的な形の国産爪楊枝を製造している所は日本国内にわずか2社しか残っておらず、そのうちの1社だ。
※3 菊水産業株式会社 2022年08月05日 オオサカジン社長インタビュー
“なんでもある”サイトより、“これがある”サイトの方が強いと確信しています。菊水さんの持つ信頼とネットワークを活かし、包丁や和雑貨など、日本の職人技を世界へ届けるプラットフォームを展開していきます
オオサカジンでも取り上げられている菊水産業さんと弊社で、ジョイントベンチャー「株式会社てとて」2025年1月に設立をしたんです。そのために昨年の11月に、株式会社ワサビテックコンサルタントという子会社を設立しました。菊水さんが幹事になって、進める感じですね。業界内での末延社長の認知度は、すごいですから。このベンチャーはたとえば包丁など、日本のもの作り企業のいろんな商品に特化したサイトを作り、世界中に売っていくようなイメージです。なんでもあるより、特化したサイトの方が絶対に売れると思うんですよね
なお、株式会社ワサビテックコンサルタントは、越境EC支援のための子会社として先に設立され、システム導入や運用支援を行っている。

ワサビ社は、リユースに特化したシステム開発で発展を遂げてきた。とはいえ大久保氏はシステムエンジニアではなく、自分でシステム設計はできないと潔く言う。社が成長を遂げられたのは、大久保氏の発想力と着眼点、そして状況に応じた柔軟な対応と軽いフットワークの持ち主であるがゆえだろう。だからこそ、さまざまなところにビジネスチャンスの芽を見出すが、これからは自分たちの根幹に関わるもの以外には手を出さないと決めた。
もうリユースと、それにともなって海外に関わること以外は、やらないと決めました。今まではどうしても、ほかにやりたいことが出てきていたんです。でもこれからは、自分たちの根幹をブラさずにやっていくことが大事だと思っています
大久保氏はリユース王になると決めて、事業をスタートさせた。その実現が近付いた今だからこそ、他事業に羽を広げるのではなく、自社の強みを深化させることに舵を切る。その選択はワサビ社の幹をさらに太くし、より強い会社へと成長させることになるだろう。