株式会社SPARX(スパークス) / 代表取締役 杉 直樹 氏
心身の健康を促進するエクササイズピラティス(※)。近年“流行り”と言えるほど人気があり、インストラクターが指導するスタジオも増えている。
株式会社SPARXの杉 直樹氏は、その先駆者的存在だ。
自身が10,000セッション以上の指導実績を誇るトレーナーであり、ピラティスが知られる以前の2013年にピラティススタジオをオープン。現在は5つの直営店を経営し、フランチャイズ化も実現。これまでにピラティスインストラクターを300名以上育成し、インストラクターのコミュニティも運営している。
その背景にある想いを聞いた。
(※)ピラティス:ドイツ人看護士のジョセフ・H・ピラティス氏が第一次世界大戦中の負傷兵のリハビリを目的として開発。インナーマッスル(深層筋)を鍛え、骨格のバランスを整えるエクササイズ。胸式呼吸とともに、身体の深層部を意識して動くことで、姿勢やボディラインの改善、柔軟性やバランス感覚の向上、肩こりや腰痛などの解消、心身の安定といったさまざまなメリットがあると言われている

パーソナルトレーナーを目指してピラティスと出会う
小中高と水泳やサッカー、テニスなどのスポーツに打ち込んだ杉氏は、体育の専門学校に進み、パーソナルトレーナーを目指して学んだ。卒業後は京都・滋賀にあるフィットネスクラブに就職。
この頃は本当にダメ社員でしたね。一度、怒られすぎて気絶したことがあります(笑)
そう振り返る杉氏だが、そのフィットネスクラブでは著名な外部講師を招いての勉強会なども開催されており、学びが多かったという。
ある時、ある講師が「これからの日本に必要なものを見つけました」と言って、聞き慣れないメソッドを紹介した。それがピラティスだった。
今でこそ、ピラティスは日本でも人気だが、20年近く前の当時はほとんど認知されていなかった。
杉氏も、最初は言われるがまま、今後必要になるなら…と、ピラティスインストラクター養成コースで学び始めた。
でも受講していくうちに、開発者ピラティス氏の考えがどんどん好きになっていったんです。「心も身体も整ってこそ、宿る魂がある」と実感したんですよね。その人、その人に合わせた強度で動けるのもピラティスのいいところ。今後、このメソッドは世の中に広がっていくだろう、そう確信するようになりました。

稼げないトレーナーが、2年連続売上No.1へ
ピラティスに出会った後、杉氏は4年勤めたフィットネスクラブを退社。別の大手フィットネスクラブと業務委託契約を結び、24歳でフリーランスのパーソナルトレーナーとして始動した。
同時に、柔道整復師の専門学校にも通い始めた。ピラティスは解剖学的な側面があるため、身体についてもっとよく知り、国家資格も得て自分の可能性を広げようと考えてのことだった。
ただ、ここで杉氏は大きな壁にぶち当たる。パーソナルトレーナーの仕事で顧客を獲得できず、一向に売上が伸びなかったのだ。
1年近く、まったく稼げませんでした。銀行の預金残高が減ってきて、整骨院でのアルバイトを始めました。いま思えば“逃げ”ですよね。
一方、自分の後から入社してきた年下のトレーナーは、あっという間に人気トレーナーに…。打ちのめされたが、やがてその彼が大きな気づきを与えてくれた。
彼はコミュニケーション能力に長けていたし、自分のやり方に自信を持っていたんです。それに比べ、自分は他責志向で、周りや環境のせいにしてばかり。ただマシンの横に立って、使い方を教えているだけだと気づきました。
「トレーナーという仕事と真剣に向き合おう」。
そう決めた杉氏は、整骨院のアルバイトを辞め、読書やセミナーへの参加などを通してマーケティングの知識やコミュニケーションの手法を必死に習得した。その結果、徐々に顧客が付き、大手フィットネスクラブでなんと2年連続で売上No.1を達成する。
2012年には、アメリカ・ピッツバーグにあるPHIピラティス本部に短期留学。PHIピラティス創始者のクリスティ・ロマニルビー氏から直接ピラティスを学んだ。
自信をつけた杉氏の中で、ある思いがふくらんでいく。それは「自分の経験を伝えていきたい」ということだった。
周囲には以前の自分と同様、結果を出せずに辞めていくトレーナーがいる。彼らに、トレーニングスキルと同じくらい重要なマーケティングやコミュニケーションについても教えたい。もちろん一般の人にも、もっとピラティスの魅力を浸透させたい…。そんな思いから、杉氏は自分でパーソナル専門のピラティススタジオを開くことを決意した。2013年、28歳でのことだった。

スタジオ開設から組織マネジメントを学んで拡大
最初の店舗は「ピラティススタジオBB肥後橋」。BBは、東京の株式会社トップキャリアが展開するピラティススタジオのブランドだ。その暖簾分けという形で、マンションの一室でスタートした。
当時はパーソナルジムの前例が少なかったので、いきなりテナントを借りてやるのは怖くて。高価なマシンを買う余裕もなく、突っ張りミラーを2枚だけ置いて始めました。その時期に来てくださったお客様には感謝しかありません。
2015年には株式会社SPARXを設立。社名はSPORTS (スポーツ)とARC(架け橋)に、無限の可能性を表すXを組み合わせた。
2019年には2店舗目の「ピラティススタジオBB心斎橋」もオープン。さらに、3店舗目を出店した2023年からは自社ブランド「Pilates Synergy(ピラティス・シナジー)」を立ち上げ、なんば、河内松原、泉大津、武庫之荘、彦根へと出店を続けている。フランチャイズの仕組みも構築し、3年以内に100店舗を目標として増やしていく方針だ。
しかし、ここまでの道のりは決して順風満帆なものではなかった。
一人で地道に住宅・マンションにチラシをポスティング(直接投函)したり、資金繰りがショートして友人から借りて回ったり。スタッフ全員の前で、「今月の給料払えません!」って土下座したこともあります。僕のやり方についていけないという理由で、5人のスタッフが一斉に辞めたことも…。
また、肥後橋店をオープンさせた後に整骨院も出店したものの、やはりピラティスに専念しようと知人に譲渡した経緯もあるとか。
そんな試行錯誤や迷走、危機がありながらも、長年にわたりトータルで拡大路線を歩んでこられた理由は何だろうか。
僕自身、組織マネジメントの研修を受けたりする中で、会社の理念やビジョンをはじめとした仕組みを次第にマニュアル化できたこと。採用から関わったスタッフが育ってくれたこと。組織の強みとしては、この2つでしょうね。
事業の強みとしては、やはりこれだけピラティスが広まってきている中で、ウチは僕が独立してから17年の実績があるということ。そのため、1回の体験でお客様が求めている結果を出せるといった、他のスタジオでは味わえない価値提供ができると思っています。
加えて、自身の右腕的な存在を得たことも大きかったという。法人化のタイミングで声をかけ、仲間に入ってもらった大長泰輔氏だ。
大長氏は柔道整復師の専門学校での同級生。5人のスタッフが大挙して辞めた時も、彼はただ一人残り、現在もSPARXの執行役員として共に頑張っている。
僕が“攻め”で、彼が“守り”のような役割分担ですね。現場のことをしっかり理解して、的確なアドバイスをしてくれる良きパートナー。彼のコミュニケーション能力と、笑いのセンスにはいつも助けられています。
杉氏の目標は、顧客一人ひとりの身体の痛みやコンプレックスと真摯に向き合い、その解消を通して自己肯定感の向上を図ること。創業以来、その目標は一度もブレていない。
生き残っていける質の高い指導者を育成したい
僕は、お客様がステイタスやファッション的なカッコよさを求めてピラティスを始めるのは、きっかけとしては構わないと思っています。ただ、サービスを提供する側が「流行りだから」「お金になるから」と、安易に間違った広め方をするのは違うだろう!と強く思うんですよね。
そう語る杉氏は、アメリカでの短期留学によって認定講師の資格を得た27歳の頃から、対面でのピラティスインストラクター養成講座を開いて確かな知識と技術を有する人材を育ててきた。
そして2022年には自ら、ピラティスインストラクターの協会「Aspirations Pilates(アスピレーションズ・ピラティス)」を設立。養成コースを整備し、インストラクター資格を発行する事業を本格的にスタートさせている。この協会は、フランチャイズ店が増えた際の窓口にもなる。
さらに2025年11月には、ピラティスインストラクターなら誰でも入れるというオンラインコミュニティ「PILA-COM(ピラコム)」も開設。
ピラティスを学び続けたいという指導者同士が、流派の垣根を越えてつながれる場所になることを目指している。

ピラティスがブームになって、指導者の質にバラつきが出てきていると思います。いずれ淘汰される時期も来るでしょう。指導者の学び合いによって格差をなくし、生き残れる強い指導者になってほしい、それが僕の願いです。
そして杉氏が今、「いちばんピラティスを体験してほしい人」は、この記事を読んでいるであろう「経営者層」とのこと。
経営者は、もっと自分の殻を破って、攻めていいんじゃないでしょうか。海外によく行くのでどうしても比べてしまうんですが、日本の経営者は何だかしんどそうで、澱んだ空気をまとっているように感じます。
経営者が元気になれば、日本はもっと良くなるはず。ぜひ、ご自分の健康にも目を向けて、週に一度でも心から整う時間をつくっていただきたい。会社の福利厚生として、ピラティスを導入することも可能ですよ。
まずは社長から、そして社員にも。
ウェルビーイング(社員の幸福)経営の一環として、ピラティスを取り入れてみては如何だろうか。

