株式会社グリーン・アート / 代表取締役 松本直樹 氏
創業は1958年。グリーン・アート株式会社はテレビの黎明期(※1)から、舞台美術の先駆けとして映像の世界を彩ってきた。創業のきっかけになり、現在も売り上げの約4割を占めるのがテレビ番組の大道具製作。そんな同社の成り立ちを、3代目代表取締役の松本直樹氏が語る。

※1 黎明期(れいめいき)とは、新しい時代や文化・文学や芸術などが始まろうとする時期、夜明けにあたる時期を意味する言葉。
弊社は私の父親が豊中市春日町で、創業しました。家業が農業でしたので山からいろんなものを切ってきたり、造園的な仕事もやっていたんです。あるとき某テレビ局の方から生垣の仕事を請け負いまして、そこからテレビとのご縁が始まりました。当時はスタジオに庭を作って、そこでトークを展開するのが流行っていたそうです。造園から始まって、いろいろとご要望にお応えするうちに、舞台美術の方面にも広がって現在に至ります
創業期はテレビの仕事を軸に、公設のホール管理などはしていたが一般企業との関わりは、ほとんどなかった。それから時を経て1990年代に、松本氏の叔父にあたる人物が2代目社長に就任。これを機に、取引先の幅が広がった。
父親は還暦を迎えたのを機に、一戦を離れまして、それまで東京でサラリーマンをやっていた叔父が、跡を継ぎました。父と叔父はちょっとした親子関係くらい年齢が離れていたので、それも良かったんじゃないですかね。叔父さんは学生時代にアルバイトでたまに大道具をしていたので、この仕事に馴染みはあったようです。社長になってからはあまり現場で手を動かすことはなく、営業マンのような動きをしていました。社内に営業部を作って、自分のコネクションを展開してテレビ以外の仕事を取ってきてと、クライアントの幅が一気に広がったんです。それが今も、続いている感じです
家業に戻り、やがて社長就任
近年改めた理念は「感動ありき。」
当時の松本氏は、東京で広告代理店に勤めていた。バブル真っ盛りのころで仕事は忙しかったが、やりがいがあって楽しい。好景気に沸く東京での暮しも、刺激的だった。そんな毎日を過ごすうちに、いつからか自分はこのままで良いのかと、胸の内に疑問が浮かび上がってきた。
20代半ばのころでしたね。そのころに会社から『忙しくなりそうやから、戻ってきて手伝ってくれへんか』と連絡があったんです。仕事も遊びも充実していましたが、だからといって自分は何なのか。今のようなことを、これからも続けていってどうなるんだろう。ちょうど、そう思い始めていた時期だったんです。それだったら求められたところに行って、自分の力を発揮するのも面白いかなと思いました
松本氏は家業を継ぐことは既定路線ではなく、明確な約束もなかった。それでも、自分がこの会社を継ぐ覚悟はできていた。グリーン・アート社に入ってからは、営業部的な動きをする事業部に身を置く。クライアントとの打ち合わせから図面制作、現場設営と撤去までの一連を管理するいわば現場監督のような仕事に励んでいた。そうして約15年ほどを現場で過ごし、2006年に3代目代表取締役に就任。最初に手掛けたのは、いわば会社の背骨造りだった。
まずはしっかりとした企業理念を作り、会社の行動目標、計画数値も明確にしていこうと。それまでは現場仕事なので、目の前のことをこなしていくのに精いっぱいになって、それが終わったらまた次と、どうしても近視眼的になりがちでしたから。数字が整った数値計画は叔父さんのころからありましたが、さらに事業計画を立てようとか、そういうことが始まったのは私が代表に就いたタイミングからですね

そして3年前には、企業理念をシンプルに「感動ありき。」とした。短いこの言葉には、さまざまな思いとねらいが込められている。
それ以前にも、あらためて理念を作ったことがあるんです。私ですら覚えられない、長いやつをね(笑)。それで3年前に、「感動ありき。」のひと言にしたんです。これは、私たちは感動にまつわる仕事をやっているということ。それに仕事の手際や仕事の段取りとか、そのすべてに感動するくらい気持ちのいい会社、人間を目指しましょうという意味合いです。加えて、なにが「感動ありき。」なのか。それすら、社員それぞれが自分自身で考えてくださいねという意味合いも含めています。そして、何よりも思い出しやすい(笑い)
テレビ局も経営が楽ではない
これからに、どう対応していくのか
テレビの始まりとともに大道具製作を行う会社が生まれたわけだが、関西で同業他社は数は少ないながら、今も数社あると松本氏。そんな他社にはないグリーン・アート社の特徴は、社内に営業部門があることだという。
営業スタッフがお客さんの話を聞いて、簡単なデザイン案やアイディア出しをして、それを説明してから制作に取り掛かります。でき上がったら設営して、本番が終われば撤去する。サイン関係も含めて一連の流れがひと通り、弊社で請け負えるんです。私たちくらいの規模の同業他社は、営業がいなくて制作だけの人がいる会社が結構あります。営業的な人間のワンクッションがあるのは、大事なところなんですね。テレビだけに限らず一般の仕事に関しても、まずは相談に乗る人がいるのが、弊社のいちばんいいところだと思っています
冒頭にも記したとおり、現在のグリーン・アート社の売り上げの約4割を占めるのはテレビ局関連の仕事。だが長引く不況と視聴コンテンツの多様化によって、テレビ局の経営も楽ではなくなってきている。そんな時代の変化に、社のトップはいかに対応していくのだろうか。
テレビがなくなると言われ続けてもう10年くらいが経ちますが、それでもゼロにはならないと考えています。だけどちゃんとしたセットを組んで作る番組が少なくなり、ロケ中心になってきているので、ちょっと心配な面はありますね。もっとテレビ以外の仕事に、力を注いだほうがいいかなと思い始めています。どこのテレビ局がというわけではありませんが、今後は採算が合わなければ撤退する。それくらいの気持ちでいないと、いけないかもしれません
テレビ以外の6割の売り上げは、実に多岐にわたる。
イベント企画会社さんからの仕事や、企業の周年イベントや表彰式の大きなステージを作るとか、百貨店の期間限定のお店を作ったりもしています。あとは美術館の期間限定のイベント展示など、いろいろとありますね。同業の大きい会社さんから下請けとしていただく仕事もあれば、イベントの企画だけをやっている会社から造作をお願いされることもあります。案件は数多くあるので、リスク分割はできています
自社の未来を見据え、製品開発と
販売にも乗り出している
それ以外に近年は、自社で製品の開発と販売にも乗り出している。そのひとつは段ボール製の屏風、ダンビョーブ。

私たちは舞台美術、ステージ、大道具のようなことを仕事にしていますが、根底には美術的な要素を社会に取り入れてもらいたい思いがあるんです。ダンビョーブも、そこから始まっています。これはちゃんと屏風になっていて、写真や映像に映れば段ボールだとは、まったくわかりません
お金がないから美術をゼロにするのではなく、さほど高価ではないダンビョーブを1枚付けるだけでエンターテイメントとして華やかになる。
そうであれば、これがいちばん安い舞台美術かなと考えた商品なんです。ステージがなくても屏風が1個立っていたら、そこはもうステージ。そういう感覚の商品で、とても高い需要をいただいています。予算がない方でも使っていただけることを、私たちはとても嬉しく思っています
そして今後に取り組みを本格化させるのが、軽くて強力な段ボール製の資材Re-board®(※2)を用いた製品開発。これは社の短中期的な目標にも含まれるという。
※2 Re-board®とはスウェーデンで開発された100%紙で作られた環境に優しいボード素材です。環境にも優しく、リサイクル可能な紙素材100%で出来ており、製造工程でも環境や人体に悪影響を及ぼす成分を使用していません。また軽量で高強度・耐久性を実現。展示会やイベントのディスプレイ、什器、家具など、様々な用途に使用できます。

Re-board®を使ってどう展開していくかを、今まさに考えているところです。美術に限らず社会のためにもなって、何か協力ができることがあれば、いちばんいいのかと思っています。そのために新しく倉庫を借りて、機械を入れました。まだ売り方のアイディアができてないので、そこを本気で進める必要があると思っています

私たちの仕事で感動が生まれる
それはとても、やりがいがあること
その先の長期目標では、事業継承が視野に入ってくる。
もう私も年なので、あと10年くらいでいったん退きたいと考えているんです。そのために、事業継承をしやすい状況にしておきたいと思っています。とはいえ私は子どもがいないので、どこかに買ってもらうか、社員のだれかに事業を受け継いでもらうかのどちらかですね。私財を投げ打ってでも自分が経営するという社員が、本当にいるのかという心配もありますが(笑)。そんな人が現れれば後継者の育成をしないといけませんし、これからの10年の間にRe-board®製品の発展であったり、少しずつ減っていくかもしれないテレビ関連の売り上げをどう補うか。やらないといけないことは、めちゃくちゃあると自覚しています
手掛ける仕事は形になり、人々の目に触れる。それが大きなやりがいだと松本氏。
クリスマス関連など装飾の仕事は、街行く人たちに目にしてもらえます。それを見た人に『キレイやな』と感動してもらえると、やって良かったなと実感します。私たちの仕事は人に喜んでいただけることが、なによりなんですよ。テレビは視聴者の顔が見えませんが、セットから少しでも感動の要素が漂ってきていると感じていただけたら嬉しいですし、セットの美しさで演者さんがいつもより張り切ってやっていただけるのであれば、それはそれでまたすごく嬉しい。感動がどこから来るのかはわかりませんが、私たちの仕事が感動するひとつの要因になっているのであれば、それはとてもやりがいのあることです
グリーン・アート社の中心を貫くもの。それはまさに、「感動ありき。」なのである。
