株式会社吉武工務店 / 代表取締役 吉田丈彦 氏
オフィスや住宅などのリフォームをはじめ、新築物件も手掛ける吉武工務店。今年(2025年)で創業60周年を迎え、現在は2代目の吉田丈彦氏が社長を務める。本取材には2023年5月に続き、2度目の登場となる。
大きな確執があった創業者である父親との関係、多額の負債を抱えているのを承知の上で事業を継承した経緯、黒字化を果たすことになった空間づくりのオフィスリノベーションに着目した理由などを紹介した前回記事は、こちらを(株式会社吉武工務店 代表取締役 吉田丈彦 氏 オオサカジン社長インタビュー記事)ご参照いただきたい。前回記事では、手掛け始めたばかりの古民家再生についても触れた。この事業に進展があり、今回は古民家再生のその後を中心に、吉武工務店の今にスポットをあてることとする。

淡路島から始まった古民家再生は、
奈良県御杖村プロジェクトに発展
吉武工務店の古民家再生は、2018年に淡路島の物件を入手し、自社の保養所としてリフォームを始めたのがきっかけだった。

オンリーワンの工務店を目指し、私たちが得意とする木材を使ったオフィスのリノベーションを手掛けたことが、古民家再生につながっています。もともとウチは大工さんの会社なので、木材を使うことには長けているんです。それに私自身も木が好きですし、古民家や寺社仏閣といった木造の建築物も好き。それで古民家を改修し、新しい空間が作れないだろうかと考えて始めました。リフォームして自社の保養所として活用するのと併せて、オフィスのリノベーションのときと同様に、まず自分のところで素晴らしいモデルを作る。それをいろんな人に見てもらって、広げていこうということでした
古民家再生は社として、初めての試み。これまでのノウハウが通用しない場面にも多く遭遇したが、そのひとつひとつを乗り越えていくうちに、新しい経験が蓄積されていった。そうして、リフォームが完成。当初は社員も活用したが、やがて利用は減少していく。
毎週のように誰かが行くかと思っていたら、3年ほどすると誰も行かなくなったんです。ちょっと遠いし、飽きるということもあったんですね。立派なものがずっと空き家状態になっていたので、売りに出すことにしました。そうしたら田舎暮らしの物件を紹介するテレビ番組に取り上げられまして、放送された日に電話が鳴りやまないくらい、すごい大反響だったんですよ。世間にはこれほど、古民家や田舎暮らしに需要があるんだと知らされました
手塩にかけて改修した物件を手放して、寂しさを感じると同時に、これがビジネスになるとの手応えが得られた。そこで、次の展開へと進んでいく。
淡路島の物件が好条件で売れましたので、これを元手にまた次を作ろうという気持ちになりました。淡路島はやはり少し遠かったのと、橋を渡るにもお金がかかります。なので次は西名阪国道を通って、大阪から車で1時間半くらいでアクセスできる場所でと考えました。その条件で弊社の不動産部が探してきてくれた物件が、すごく良かったんです。それが奈良県の御杖村。ここで『Yoshitake村御杖』のプロジェクト名で、新たに古民家再生を始めました

リフォームは2023年6月に完成。以後はここを舞台に構造見学会や田舎暮らしのサポート、古民家リフォームの無料相談会などを実施。これらを通じて、実際の契約にも結びついているという。
現地の見学会を開催すると、いつも満員御礼。ここでカフェを開きたい、週末農園をやりたいなど、参加者の方々はそれぞれに夢をお持ちで、皆さん前のめりなんですよ。これまでに200人くらいが来られて、そのうち6~7組の方にご契約いただきました。ここでパン屋さんを開かれる方がいらして、そのための改修工事がまもなく始まります

古民家の再生を通じて、
村の活性化の一助に
奈良県と三重県の県境に位置する御杖村は東大阪市の約1.3倍の面積がありながら、人口は1500人足らず。過疎化と高齢化が進み、人口は年を追うごとに減少している。それゆえ、空き家も多い。Yoshitake村御杖プロジェクトは事業としてはまだ大きな規模ではないが、古民家の再生を通じて、御杖村の活性化の一助になっている。
その通りなんです。村が予算を取ってくれて、いっしょにイベントをやりましょうとお声掛けをいただくこともあります。村長さんとも良好な関係を築けていますし、人と人との距離が、ものすごく近い。小さいですけど、本当に温かい村なんです。村民の方々に空き家を市場に出す理解度がもっと深まっていくと、それを使った民泊事業者や利用者を呼び込めるのではと思っています

今後、日本の人口が減少していくのが明らかな情勢下で、御杖村の人口が増えるのは現実的ではない。ならばと吉田氏は、村が重点とする関係人口(※1)の増加に助力する考えでいる。
※1 村における関係人口とは、その地域に住むわけでも、一時的に観光で訪れるわけでもない、地域と多様な形で関わる人々のことを指します。地域にルーツがある人、地域を愛する人、または地域に関わっている人など、継続的に地域を応援する人々を関係人口として捉えることができます。関係人口は、地域活性化や地域づくりに貢献する重要な役割を担うと考えられています。
御杖村に畑を持っているから来る、週末に友達とバーベキューするために来るなど、村もそういう関係人口を増やすことに重きを置いています。人が来れば税収も増えるし、お金も落としていくでしょうからね。村には余っている家がありますから、『ここに2軒目として別の家を持って、週末田舎暮らしをしてもいいんじゃないですか』。そんな感じでアプローチしていけば、ビジネスチャンスもあるのかなと思っています
現実的に古民家改修の売り上げは、吉武工務店にとって全体の1割ほどだという。吉田氏の考えのなかに太い柱の事業にするつもりはなく、継続していくことによって、主力事業への広がりが大切だと語る。
弊社はオフィス改修や住宅を作ったり、不動産関係で事業の9割を占めているのが現状です。古民家改修は、実際には1割程度。ですがこの1割が吉武工務店のブランド力になり、残りの9割に好影響をもたらせればと思っています。古民家改修で全体をまかなう考えはありませんが、本体から切り離して、これだけで独立できるようにはしたいですね
いずれは古民家再生事業を切り離し、
一線を退いた後はそれに注力したい
そう考えるには、もちろん理由がある。吉田氏の息子が入社し、ゆくゆくはトップの座を受け継いで3代目となるのが既定路線。社と自身の今後のためへの、道筋作りでもあるのだ。
実は私は父親との関係性で苦労しました。ですので、できるだけ綺麗に引き継いでいきたい。余計な口を出さないようにしたいですし、そのためには自分が会社から出ていかないといけないと思っています。そうなってから私は自分が大好きな古民家の事業を目一杯にやりたいんです。御杖村の古民家を改修して、民泊をやるのもいいかもしれません。古民家に関する事業を本体から切り離して、そこで仕事をやっていきたい。そのような、ちょっとした野望みたいなものが、あったりするんですよ
最後に吉田氏にとっての、古民家再生事業のやりがいを訊いた。
古民家再生に限らずですが、お客様といっしょになって空間を作っていき、それが完成して喜んでおられる顔が見えることですね。古民家を求められる人は、本当にしっかりとした夢を持っておられます。ただし古民家は、終の棲家にはなりません。御杖村には大きな病院がありませんから、年老いてからも住み続けることは現実的ではない。だから『今からの10年間を楽しむ家を作りましょう』などとアドバイスを差し上げたりしています。私の提言にご納得いただき、喜んでいただけることもうれしいです。お客様の喜ぶ顔を見る。それが、いちばんのやりがいですね

座右の銘は「生涯、チャレンジャー」。吉田氏は今後も本丸の経営の舵を取りながら、古民家事業にもさまざまにチャレンジを重ねていくことだろう。
