株式会社codos / 代表取締役 松谷聖史 氏・取締役 小出浩規 氏
「このまちには何もない」 ーーそんな声が聞こえる大阪市城東区 野江で、美容サロンとカフェを営む二人がいる。
彼らの信念は、「商いを続けること自体が地域を元気にする」というもの。
日々の営みから人が集まる場を育て、まちに新しい灯をともそうとしている。
なぜ二人は、このまちで事業を続けるのか。そして、未来にどんなまちの姿を描いているのか。
株式会社codos 代表取締役の松谷聖史氏と、取締役の小出浩規氏に話を伺った。
野江のまちに根づく三つの拠点
大阪市城東区の野江エリアは、JR野江駅と京阪野江駅が徒歩圏内にあり、両駅を行き来する人も多い場所だ。
住宅街でもあるこの一角に位置する「cafe higoro」は、落ち着いた空間でコーヒーやサンドイッチを楽しめる店として地域住民に親しまれている。そんな店内で、二人に取材を行った。
小出氏:コーヒーは100%スペシャルティコーヒーを使用していて、季節ごとに手作りのマフィンも用意しています。常連さんが「次はどんな味かな」と楽しみにしてくださるのが嬉しいんです。
このカフェを運営するのが株式会社codosだ。8年前、美容師として独立した松谷聖史氏が小さな美容室を立ち上げたことから始まった。その後、法人化のタイミングで小出浩規氏が役員に加わり、共同経営体制に。
現在は美容室estrela,よもぎ蒸しSALON HIGORO,そしてcafe Higoroの3店舗を展開している。
いずれも松谷氏の地元エリアの野江に根づき、暮らしのそばにある拠点へと発展してきた。
(※1)よもぎ蒸し:韓国に伝わる民間療法をルーツにした温浴法。穴のあいた椅子に座り、下からよもぎなどの薬草を蒸して体を温める。血行促進や冷えの改善、リラックス効果が期待できるとされ、近年は女性を中心に人気が広がっている。
美容室には子どもから高齢者まで幅広い世代が訪れる。小学生の頃から通い続ける地域住民もいれば、親子三代で足を運ぶ家族もいるという。
松谷氏:思春期になると母親には話せないことを、僕たち美容師には相談してくれる子もいます。親子で来てくれるお客様の中には、お母さんからあずかった言葉を、僕が間接的にお子さんに伝えることも。髪を切るだけでなく、家族の橋渡しをしていると感じますね。
美容や飲食を通して地域に根を張るcodosは、野江のまちに日常の安心感と交流の場を生み出している。


「おもしろいと思ったことに一生懸命向き合う」二人の対話から共創が生まれた
codosを率いる二人の歩みは対照的だ。
松谷氏は高校卒業後、美容師の道へ。スタイリストとして経験を重ねる中で、経営にも関心を持つようになったという。
松谷氏:同期が独立することになり、立ち上げを手伝ったことがあるのです。一からつくる経験をしたことで、自分の店をやりたい気持ちが強くなりました。
一方、小出氏は中学で始めたバレーボールに打ち込み、大手企業の実業団で選手として活躍。その後、Airbnb(エアビーアンドビー)(※2)が日本に広まり始めた時期に、当時住んでいたシェアハウスの仲間とともに民泊事業をスタート。さらに飲食業や他社でのマネジメントにも携わり、多方面で経験を重ねた。
(※2)Airbnb(エアビーアンドビー):世界中の宿泊施設をオンラインで予約・提供できるサービス。個人が自宅や空き部屋を貸し出す仕組みが特徴で、日本では2010年前後から広まり始めた。
小出氏:ケガをすればすべてが終わる、30歳を過ぎればピークも過ぎる…… そんな不安が常につきまとっていました。スポーツ選手としてのセカンドキャリアを意識して、おもしろいと思ったことには挑戦し、選択肢を増やすようにしてきたのです。
そんな二人が出会ったのは、共通の知人を介した飲み会。意気投合し、後日銭湯で夜更けまで語り合うほど親しくなった。仕事や人生観を率直に語り合う中で、共通していたのは「無理にやりたいことを決めなくてもいい」という考え方だった。
「若い人に伝えたいのは、おもしろいと思ったことに一生懸命向き合えば道は開けるということ」と語る小出氏の言葉に、松谷氏もうなずく。
松谷氏:僕自身も最初は何となく美容師を選んだけれど、続けるうちにどんどん好きになっていった。そうやって夢中になれることに出会えればいいんだと思います。
小出氏:日本人は「曖昧さ」を大事にする文化を持っています。その感覚を肯定できれば、無理に一本のキャリアを決めつけず、多様な働き方やいろんな価値観を受け入れられる。この柔軟さが、結果的にまちづくりにも生きてくるはずです。
異なる道を歩んできた二人を結びつけているのは、こうした哲学的な共鳴なのだと気づかされる。
“立ち止まれる場所”から、まちを元気にする挑戦を!
野江はかつて工場地帯としてにぎわったが、今では商店が少しずつ姿を消している。「このまちには何もない」と住民がこぼすことも少なくない。駅と駅を行き交う人に対し、足を止める場所は少ないのが現状だ。
それでも松谷氏は「人がいる限り可能性はある」と信じ、美容室やカフェを営みながら、地域に気軽に立ち寄れる場所をつくってきた。小出氏も「立ち止まれる店が減れば街の魅力は薄れてしまう。だからこそ事業を通じてまちの選択肢を増やしたい」と語る。
小出氏:AIが進歩する時代だからこそ、手で淹れるコーヒーや、生身の人とのおしゃべりに、昔より高い価値が宿っていく。効率化が進むほど、人の営みとしての商いに意味が生まれると考えています。
……そんな二人の思いに呼応するように、お客様からも手応えが。
小出氏:うちのカフェのたまごサンドを気に入って、習い事の帰りに毎週寄ってくれる小学生の女の子がいるんです。ただ、その子はご家族の転勤で関東に引っ越してしまうことになって…。
でも僕は、その女の子のような経験こそがシビックプライド(※3)につながると思っているんです。大きくなって自己分析をしたときに、「子どもの頃に好きだった、あのたまごサンドがある街」と思い出してくれると思うんです。
そして、もしかしたら大人になったときに「あの街でまた働いてみたい」「もう一度関わってみたい」と考えるようになるかもしれない。そう思うと、この街の未来にもつながる気がするんですよね。
(※3)シビックプライド:市民が自分の暮らす街に誇りや愛着を持ち、その発展や維持に関わろうとする気持ち。都市や地域の魅力を高めるために不可欠な要素とされる。

立ち寄れる場所を一つずつ増やすことが、やがてまちを元気にすることにつながる…… そう信じる二人は、行政の補助に頼らないまちづくりを志している。
小出氏:もし人口が数百人しかいない限界集落なら、税金を入れて街を守る意味はあるかもしれない。でもここは大阪市内。「税金を入れないと成り立たないまちづくり」は、そもそも持続しないと考えています。
行政は道路やインフラといったハードを整える役割がある。でも、人が立ち寄って消費したり、暮らしを楽しんだりするソフトの部分は、僕ら民間が事業として成り立つ形を考えなければいけません。
簡単なことではないですし、途中で挫折するかもしれない。でも、あえて一番難しいルートを選んで挑むことが、事業を続ける力になると考えています。
目指すは“ランドマーク”。事業を育て、まちに循環を生み出したい
二人の次なる挑戦は?
小出氏:大阪キタエリアなどの都市部で、マフィンなどの焼き菓子を手土産として届けられるような販売展開を考えています。人が多くて経済の動きが活発な場所で収益を得てこそ、地元に還元できると思うんです。地域おこしで都市部にできることは“消費”。そこで得た収益を野江に戻し、まちに循環を生み出したい。
一方で、野江での事業は拡大よりも「育てる」ことに重きを置いている。無闇に店舗数を増やすつもりはない。松谷氏は「美容室の席数を増やせたら」と語り、小出氏も「カフェをもう少し大きくしたい」と話すが、その先にあるビジョンについてこう語ってくれた。
小出氏:やっぱり一番は、僕らの姿を見て「このまちで自分も店をやりたい」と思う人が増えることです。僕ら自身が規模をどんどん大きくするよりも、まち全体に事業者が育っていくほうが大事だと思うんです。
実際に近所では新しい店が次々と生まれ、スタッフの中からも「将来はこのまちで独立したい」という声が出始めている。
二人が見据えているのは、そうした動きを支え合えるまちの姿だ。
松谷氏:僕は120歳まで生きて100歳まで現役美容師を続けたいと思ってます。長くこのまちでお客様の髪を切り続けることで、地域に寄り添いながら生きていきたいですね。
小出氏:近所のおばあちゃんから「野江の老舗にならなあかんで!」と、よく声をかけてもらうんです。その言葉がほんまに励みになっていて。僕らのやっていることが、いずれ“ランドマーク”のような存在になれたらと思うんです。
新しく来る人を迎え入れて、まちをもっと明るくしたいし、スタッフたちと一緒に笑ってお酒を飲めるような、そんな未来がつくれたらいいなと思っています。
野江を拠点に、ランドマークを目指す二人。
codosの挑戦は、これからもまちの可能性を広げていく。
