株式会社 良心塾 / 代表取締役 塾長 / 黒川 洋司 氏

同じ人が犯罪を繰り返す「再犯」。日本では、約半数の犯罪者が初犯から10年以内に再犯しており、先進国でトップクラスの多さという事実がある。この問題を解決するべく奮闘しているのが、株式会社 良心塾の黒川洋司氏だ。少年院や刑務所から出た人の自立・更生を目指し、精神的・経済的・社会的な支援を続けている。黒川氏には、関わらずにはいられない理由があった。自身がそのような世界で生きてきたからだ。

暴走族、暴力団、迷惑ばかりかけた母の死
両親が離婚して母子家庭で育ちましたが、母親からは愛情をもらっていたし、決して悪い関係ではありませんでした。でも母親は仕事に必死で、やはり寂しかったのでしょうね
気がつけば暴走族に入り、18歳からは暴力団へ。「殴るか殴られるか」の毎日で、隠れてクスリも覚えた。しかし、いよいよクスリに溺れそうになった時、さすがにまずいと考え、指を詰めて暴力団からは足を洗う。その後は、知り合いの紹介で道路舗装の会社に入った。そこでは真面目に働き、それなりの稼ぎもあったというが、街中で喧嘩をして捕まったりと、相変わらず素行は悪かった。
そうこうしているうちに8つ年下の彼女が妊娠し、結婚。黒川氏は27歳になっていた。その頃に友人と建築関係の会社を作り、それなりに利益が出るようになった時、一つの転機が訪れる。美容師として独立を考えていた別の友人に出資し、美容院のオーナーになったところ、かなりの繁盛店になったのだ。
うちは1人の美容師が1人のお客様に対して、最後までマンツーマンで対応します。当時はそのスタイルが珍しかったんですよね。2店舗目をオープンして、そこも大流行りで、また次の店を出そうとしていました
ところが。
ある日、電話がかかってきたんです。母親が倒れた、と
母親は3日後、一度も意識が戻らないまま、59歳で他界。黒川氏が35歳の時だった。
自分が情けなくてね。孫は2人見せられたけれど、他には何の親孝行もできないままでした。食事も喉を通らず6キロ痩せました。そしてようやく『オカンに恥ずかしくない生き方をしよう』と、初めて本気で思えたんです

尊敬できる人物との出会いと、運命的な誘い
靴をそろえる、服をたたむ、ゴミを拾う。そんな日常の行いから改めていった黒川氏は、ある日、書店で稲盛和夫氏の著書『生き方』に出会った。
経営に対する考え方のほかに、利他の心とか、因果応報とか、仏教的なことも書いてあったのですが、不思議とスッと自分の中に入ってきました。稲盛さんが開かれた『盛和塾』の紹介もあり、大阪でも活動していると知って入塾したんです
他の塾生と交流を深めたり、ボランティアに参加したりするうちに、心の中で「社会のために」という思いが芽生えてきたという。そこへもう一つ、大きな出会いがあった。お好み焼きで有名な千房ホールディングス株式会社(※1)、代表取締役 会長の中井政嗣氏である。
※1 千房ホールディングス株式会社は、大阪市に本社を置くお好み焼き専門店「千房」を全国および海外に展開する企業。1973年の創業以来、「味の追求」と「心のこもった接客」を掲げ、庶民の味であるお好み焼きを高級感のある空間で提供するスタイルを確立した。近年では、冷凍食品の販売やダイバーシティ経営、受刑者の社会復帰支援(職親プロジェクト)など、社会貢献活動にも積極的に取り組んでいることで知られている。
中井会長の講演を聴きに行った時に感銘を受けて、名刺交換をさせていただき、自己紹介をしました。すると興味を持っていただけたようで、1週間後に連絡があったんです。『職親プロジェクト』が始まるから一緒にやらないか、というお誘いでした

2013年に発足した「日本財団 職親プロジェクト」は、刑務所や少年院の出所者・出院者を、企業が「職の親」として雇用し、就労と住居を提供することで、自立更生と再犯防止を支援する官民連携の取り組みだ。千房はすでに再犯者の雇用実績があり、中心的な存在となって他社にも参加を呼びかけていた。
うちの美容室で出所者を雇ってくれないかと。僕自身、悪さをして行くところまで行った人間です。不良仲間のいろんな例も見てきて、事情はよく分かっているのでお引き受けしました
職親プロジェクトでは、少年刑務所にいる間に、企業(職親)が自社について説明し、雇用を決めることがポイントだ。働き口を確保してから、安心して出所できるというわけである。関西で始まったこの取り組みは現在、全国へと広がっている。
職親プロジェクトへの参加に伴って、黒川氏は自ら「良心塾」を設立し、より積極的な支援へと乗り出した。これまでに黒川氏が雇用した人数は25名ほど。ケアや指導で関わった人数は100名以上にのぼる。

住居・就労・教育の三位一体で支援
実際に出所者・出院者の支援を始めてから、黒川氏は驚いたことがあるという。
僕らの時代の若者犯罪は、あり余るエネルギーが暴力などの間違った形で他者に向かうケースが多かったように思います。でも、今の時代に犯罪行為をする若者は、そのほとんどが親からの虐待やネグレクト(養育放棄)を受けた子です。口を開けば『死にたい』と言うし、オーバードーズやリストカットなどで自分を傷つけてしまうんですよね
次第に「彼らも社会的被害者ではないのか」という思いが膨らんできたという。もちろん、罪は償わなければならないが、彼らを一定期間拘束したり、罰を与えたりするだけでは負の連鎖は止まらず、社会も良くならないと黒川氏は考えている。
そこで良心塾が目指しているのが、<住居><就労><教育>の三位一体の支援活動だ。
1つ目の<住居>としては、良心塾の拠点や美容院のすぐ近くに「良心寮」を用意。黒川氏の目の届く場所で、まずは安心して暮らせることと、新しい出会いや共同生活を通して視野を広げることをサポートしている。
2つ目の<就労>では、美容院に加え、2021年にオープンさせた居酒屋「結笑和(ゆにわ)」も受け入れの場に。働きながら社会勉強を積み、人生の再スタートへと踏み出すことができる。

ただ、やはり精神的に不安定な彼らとの信頼関係の構築は、一筋縄ではいかない。
夜中の2時や3時に、ある女の子から『リストカットする』と連絡があって。寮に駆けつけると部屋の鍵を閉めて入れないようにしてあるんです。仕方ないから、商店街のアーケードに登って窓ガラスを破って入ったこともありました。お金を持って誰かが逃げたりするのも日常茶飯事です。残念ながら、目をかけていた男の子が再犯してしまったことも……。悔しかったですね
だからこそ、3つ目の<教育>が大切なのだと、黒川氏は言葉に熱を込める。
「心のスポンジプログラム」の普及に注力
<教育>で今、良心塾が力を入れているのが「心のスポンジづくりプログラム(KSP)」だ。これはもともと、九州の「ヒューマンハーバーそんとく塾」の塾長が発明して特許を取得した教育手法。全24プログラムの受講者、計63人のうち、再犯者0人(2018年〜2025年7月)という目覚ましい成果を挙げている。
黒川氏もKSPに賛同し、良心塾に全面的に導入している。独自の教材などを使った講義やワークによって、右脳と左脳を行き来しながら感性を高め、新しい考え方を取り入れる回路を作るという。最終的に、自分で考えて行動できる力をつけ、生きづらさを軽減することを目指している。
それまで自分なりにやっていた支援や指導について、ヒューマンハーバーの塾長から言われたんです。『黒川さんがやっていることは、教育もどきで教育ではない。支援で人の心は安定するけれど、脳みそは変わらないよ』と。そうか、脳の問題なんだ、と気づかされました

このプログラムを普及させるため、株式会社 良心塾とは別に、一般社団法人 りょうしん塾も2025年に立ち上げた。今後は、KSP指導者の育成や、出張講演、企業研修なども展開していく予定だ。
世間の多くの人は普段、『犯罪者の世界なんて自分には関係ない』と考えているのではないでしょうか。でも、日本の犯罪の検挙率は、以前は下がっていましたが最近また上がり出しています。格差社会が生きづらい人間を追い込んで、今後もっと自暴自棄になる人が増えると思います。誰がいつ被害者になるかも分からない。他人事じゃないんですよ
再犯してしまった彼が出所してきたら、また手を差し伸べますか。そう尋ねると、黒川氏は「僕しか、いませんから」と微笑んだ。

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