株式会社アンシャントマン 代表取締役社長 松山秀俊 氏
争いに勝っても負けても禍根は残る。それならば、争う前に世界を平和で満たす方法はないだろうか。この問いに対し株式会社アンシャントマン(大阪市・中央区)代表 松山秀俊氏が導き出した答えが“マンガ”だった。同社はマンガに特化したビジネスソリューション事業を展開するとともに、世界平和のための“称賛文化”をマンガで広めることをミッションとして活動している。

営業力・採用力・発信力・全社活性力などの企業課題を、マンガ活用を通じてアドバイスしています。
例えば、口下手でも通用するマンガ営業パンフレットや求職者の気持ちにたったマンガ求人、企業ブランディングのためのマスコットキャラクター活用などです。
お客様の業種はさまざまです。出版業・ホテル業・飲食業・士業など。お客様のヒアリングをもとにシナリオ作りを通じて、お客様社内で魅力を発掘するスキームを作り、ご担当者が自分事化できる体制を整えます。その後、弊社に登録しているマンガ家が絵でお客様の魅力を表現。さらに、アフターフォローを通じて実際の運用面もチェックしています。
マンガは字の詰まった文書に比べて読みやすく、絵を介して直感的に内容を理解してもらいやすい。また、物語や人物描写によって行間の微妙なニュアンスを表現し、読み手の共感を巧みに引き出すことができる。そうしたマンガの特長を生かし、企業経営の強化を支援するのがアンシャントマンの提供するビジネスソリューションだ。実際にマンガによる求人広告『マンガde求人』を活用し0人だった応募者を20人に増やした社労士事務所や人員を1.4倍にした物流会社などがある。
企業とマンガ家の魅力を同時に引き出す
現在、マンガ家の登録者数は1,000人以上。松山氏が直接作家と交渉したり、専門学校生を紹介してもらったり、ネット上の作家プロフィールを利用するなどして集めたという。これだけの制作担当人員があるということは、顧客の多種多様なニーズに対応しやすいということでもある。これは他社にないアンシャントマン独自のリソースと言える。また、一般的な制作会社と異なり、制作物納品だけではお客様である企業の悩みを解決できないと気づいた。そのため、マンガde魅力化すなわち営業力・採用力・発信力・全社活性力の4軸でこれまでの成功事例をもとにアドバイスし、企業のブランディングも行う。そうすることで、多方面からの力が作用し、マンガ単体では起こせなかった大きなソリューションにつなげることができるのだ。ひとつの案件で、企業とマンガ家の魅力を同時に引き出すビジネスモデル。
これを事業のスタンダードにしたいと考えている。

起業のきっかけとなったビジネスプランコンテスト
松山氏が起業したのは2006年8月。開業当初はフランスを中心とした海外事業をメインとしていた。
経済産業省主催の『ビジネスプランコンテスト』で、“才能ある無名作家のマンガを電子書籍化して、フランスにダウンロード販売する”という内容を発表しました。起業によって、このプランを実際に形にしようと考えたのです。
「ビジネスコンテスト」が行われたのは同年3月。当時斬新だったダウンロード販売という手法や、フランスに的を絞ったプランがユニークだと評価され、全国大会にも出場した。
しかしなぜ販売先にフランスを選んだのか?
国際的な文化交流に興味があり、特にフランスの文化に強く惹かれていたことが理由です。
社会人を経験した後、神戸大学大学院 国際文化学研究科(旧総合人間科学研究科)に入学したのですが、それもフランスに関わる仕事がしたいという想いがあったからです。在学中にフランスへ留学し、現地の文化を体感する機会も得ました。
音楽・美術・服飾・料理など、多分野の一流芸術が集結するフランス。そんな文化大国への留学を通じ、松山氏は日本のマンガが持つ文化的価値に改めて気づかされたという。友人宅では、ごく普通の日常風景として日本のアニメがテレビで放映されており、彼らはそれを好んで観ていた。日本のマンガが並んでいる書店の棚のスペースは日増しに増えていることや、地元主催のマンガイベントがあることにも気づいた。
~マンガは、世界に通用する日本の文化的エンターテイメントだ!~
フランス留学で得たこの確信が、ビジネスプランコンテストのアイデアへとつながっていった。
暗中模索のフランス進出
起業後は、ビジネスプランコンテストで知り合ったブックオフ創業者の 坂本孝氏の計らいで、
ブックオフパリ支店の本棚に同人誌を置かせてもらったり、フランスで流通していない日本のマンガをイベントで販売したり。しかしなかなか販路開拓が進まず、1年ほどで事業の見直しを図った。
事業の矛先を国内に向け、まずは資金繰り改善のためにホームページ制作などを請け負いました。でも、自分が本気でやりたいことではなかったため熱が入らず、事業としての進展はありませんでした。
2010年、松山氏はホームページ制作事業を止め、マンガに関わる事業に集中することにした。
ホームぺージ制作であれば、競合はいますが市場があるのでなんとか収入を得ることができます。でも、マンガで企業㏚を売ろうとする会社に市場なんて用意されていません。
否が応でも必死になりますよね。
松山氏は、あえて自身を窮地に立たせることで、「日本のマンガ文化を広めたい」という起業当初の想いを胸の内に蘇らせた。
似顔絵やマンガパンフレットの提案営業、専門学校でのマンガセミナー、ソーシャルゲームのイラスト制作など、思いつくことは全て実践していった。
時を同じくして、政府は「クールジャパン」という言葉を用いて、日本の文化産業の海外進出促進や国内外の発信などに取り組み始めた。翌年には、「クールジャパン戦略推進事業」 第一弾として、フランスを拠点とする海外販路開拓支援事業の実施が決定された。日本文化に理解のあるフランスへ集中的にまずアピールし、ヨーロッパ、そして世界各国へと伝播させることを意図した戦略だった。時代の流れが、フランス×マンガという松山氏のビジョンとリンクし始めた。
マネできない日本マンガの本質的な魅力
またこの時期、松山氏は中国でマンガについての講演も行っていた。
アジア圏でも、日本のマンガ需要が伸びてきていたのだ。
日本のマンガは、中国でも非常に評価が高く、画風を真似た日本的な作品が山ほど出回っている状況でした。でも、日本のマンガにある本質的な魅力は、そう簡単にマネできるものではありません。テクニックではない部分にこそ、日本マンガの本質があるからです。
日本のマンガにある本質的な魅力とは?
“魂”の部分です。人の心・魂を揺さぶる物語と絵が、世界中の人々の感動を創り出すんです。こうした真の芸術的価値があるからこそ、国策や戦略として意図的に広めるまでもなく、日本のマンガは自ずと各国へ広まっていくんです。
大阪国際マンガグランプリ開催
2014年、松山氏は大阪国際交流センターにて「第1回大阪国際マンガグランプリ」を開催。翌2015 年には、大丸心斎橋にて「第2回大阪国際マンガグランプリ」を開催した。世界三大映画祭のひとつ「カンヌ国際映画祭」をモデルにし、マンガ文化を盛り上げるイベントとして成功させた。

このまま順調にオリンピックを迎えると思いきや、開催直前の2020年冬、新型コロナウイルス感染症により世界全体がパンデミックに陥った。
コロナ禍で見つめ直した“本当に大切なもの”
コロナ禍の影響により、日本の広告費は前年比88%のマイナス成長となった(電通調べ)。その波は、マンガ広告を収入の1つとしていたアンシャントマンにも訪れた。しかし、松山氏にとってコロナ禍がプラスに働いた側面もあったという。
コロナ禍を通じて、僕はやはり人を楽しませる側の人間なのだと再確認しました。自分も大変ですが、まわりの人も大変な状況。だったら、自分がその人たちを元気にしてあげられることをしよう。そう考えると、ピンチにあっても落ち着いた心構えを保てるようになりました。また、自分にとって不必要なものを見つめ直す時間を作ることができました。人間関係を含め、あらゆるものを断捨離していくと、本当に大切なつながりが明確になっていきました。僕が事業において最優先するのは、“誰と組むか”なんです。一緒に組むとワクワクできる。参加したいと心から思える。身銭を切ってでもやりたい。そういう方との仕事を大切にしたいですね。

目指すのは、世界No.1の称賛文化を創ること
2020年、マンガの国内市場は過去最高の6,126億円を記録した(2020年公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所データ)
新しい生活様式によって在宅時間が増えた今、マンガの需要はさらに高まりつつある。そんな中、アンシャントマンはこれからどのような方向を目指していくのか?
今後については、大阪・関西万博の「マンガ館」運営なども目標のひとつですが、最終的には世界No.1の賞賛文化をマンガでつくることを目標にしています。オリンピックのような世界的規模で、参加する人が皆、マンガ作品に共感し合い、お互い讃えあうようなイベントを開催したいですね。また、人の魅力を引き出すための財団や基金の設立も考えています。そうした目標の背景には、僕が“いじめ”の原体験を持っていることが大きく影響しているでしょう。僕はいじめに遭った経験から、無闇な争いは極力なくしたいと思っています。好きになった相手をいじめることはできないでしょう?だから、お互いの魅力を発揮して、お互い魅かれ合うようになったらいじめはなくなるというのが僕の考えです。国策として言い換えると、ソフトパワーや予防外交ということと同じ意味合いのことを、マンガを通じて行いたいのです。
マンガは、人間の物語を描くための最高の芸術だと思います。
社名である“アンシャントマン”とは、フランス語で“魔法をかける”、“魅了する”という意味を持つのだという。
これから松山秀俊という人が描く物語は、どのような魔法を魅せてくれるのだろうか。
