株式会社プラス / 代表取締役社長 中山正三 氏
東大阪市衣摺(きずり)に、一般的に市販されているプラスチック製の歯ブラシとは異なり、ハンドル部だけでなくブラシ部にいたるまでプラスチック類を一切使わず、すべて天然素材だけでできた歯ブラシを作る小さな町工場がある。
株式会社プラス。植毛といった高い技術力を有する町工場として、業界での信頼は厚い。
代表の中山正三は前社長である父の跡を継ぎ、射出成形や植毛づくりに従事してきた。
だが、近年中国製の安価な製品などにより、生産は減少。一度は廃業を決意するまでに追い込まれる。
しかし同じものづくりを手掛ける仲間からの提案を機に、新たな歯ブラシの製造に挑戦することになる。
そして試行錯誤を重ねて、遂に100%天然素材の歯ブラシ 「turalist(チュラリスト)」が誕生する。
その開発秘話や今後の展望などを伺った。

廃業寸前から一転、技術力を活かして新たな事業への挑戦
植毛の技術を活かして、化粧筆ブラシやプラスチックの歯ブラシに天然毛を植毛する商品を手掛けていた株式会社プラス。
しかし徐々に天然毛を使った商品の生産が減り、廃業を考える。
もともと知り合いでもあった株式会社新進化学の代表取締役 村中克氏に廃業の意思を伝えたところ、村中氏からある提案を受ける。
それが100%天然素材の歯ブラシの製造依頼だった。
歯ブラシを主力商品としたプラスチック製品の製造工場を経営していた村中氏は、ここ数年の間にプラスチックによる海洋汚染問題や環境問題、SDGsの普及といった影響から、何か環境に優しく未来にもつながることができないかと考えていた。
2018年、オーストラリア シドニーのスーパーマーケットで、柄の部分が竹でつくられている歯ブラシを見つけて衝撃を受ける。
自然素材を使い、自身が得意とする歯ブラシの製品だったことから「これだ!」と直感。
既存の竹製歯ブラシを10種類以上取り寄せ、理想の歯ブラシの形を模索する。
2020年、歯ブラシの柄を竹でつくってくれる木工の家具職人さんを見つけ出す。
そして試行錯誤を重ねてようやく柄の部分が形になった。
そのころ、株式会社プラスの中山氏から廃業の相談を受けていた村中氏は逆に歯ブラシの植毛をしてほしいと依頼する。
両社の技術がコラボレーションし始める。
そして100%天然素材の歯ブラシ「turalist(チュラリスト)」のプロトタイプ(試作モデル)が完成した。

2社の技術が結集し、完全天然素材の歯ブラシが実現
株式会社プラスが得意とする馬や豚などの獣毛を使った植毛の技術力で、自然素材の柄に植毛が可能になった。
ミリ単位での調整が必要で、一点一点、職人が手作業で植毛する歯ブラシ「turalist(チュラリスト)」は、大量生産の多い歯ブラシ製品の真逆を進む歯ブラシになった。
使う人の好みに合わせられるように、4種類の硬さも用意した。
またサンプルづくりの最中に、家具職人さんからの提案で柄に使う素材を竹から家具の廃材に変更もする。
毛の部分も豚や馬などの獣毛を使用しているから、これで遂に完全天然素材の歯ブラシが実現することになった。
その後、歯ブラシに付随する歯ブラシケースやケースを入れる麻袋なども協力してくれる業者さんも見つかり、こうして株式会社プラスの新たなブランド「Nhes.(ナエス)」が生まれることになる。

現在は自社のオンラインショップサイトや、環境に配慮した製品を扱う店舗で販売する他、さまざまなイベントにも出展を増やし、自然派志向の人達から絶大な支持を得ている。
ブランド名の『Nhes.(ナエス)』は、スウェーデン語の "naturen hittar ett sätt" (自然は自らその解決方法を探しえる)の頭文字からとっている。
≪木や花は自然に太陽の方へ向いて伸びていき、その環境に合わせて強く育っていく≫
そんなイメージで、地球の自然が未来まで続いてほしいとの願いから生まれたブランドが『Nhes.(ナエス)』だ。
ロゴマークはひらがなの『な』を少しエレガントにデザインされているのが日本製の証しでもあり嬉しい。
木の柄に天然毛の歯ブラシと言っても、国内にはほとんどありません。私たちの製品が日本で唯一と言ってもいいと思います。だからこそ、実際に見て触ってもらうことで商品の本当の価値をわかってもらえるのではないかと思っています。
プラスチックの柄と木の柄との違い、ナイロン素材の毛と天然の毛の違いに加えて、豚と馬の毛の違い、硬さの具合などを実際に体感して購購入いただいた方からは、特に高い評価をもらっています。
イベントでは国内はもちろん海外の方からの購入も多々あります。

「Nhes.(ナエス)」ブランドを世界へ
使い捨てない歯ブラシを少しでも長く使ってもらいたいという想いから、メンテナンスサービスをスタートさせている。
薬品は一切使わず歯ブラシ全体を殺菌・洗浄して、1本の歯ブラシを実に半年以上大切に使うことができることになる。
徐々にブランドの認知度は上がってきているものの、事業的課題もある。
「turalist(チュラリスト)」をつくれる数は、1ヶ月150本程度です。
柄の部分や植毛、仕上げまで1本1本職人による手加工だから、なかなか大量生産はできません。
長年培った技術を持つ職人も少ないため、これから後継者の育成も考えていく必要がありますね。
「turalist(チュラリスト)」はBtoCの商品ですが、今後はもっと企業や学生さんと連携し、BtoB商品の開発にも力を入れていきたいと思っています。
ゆくゆくは「Nhes.(ナエス)」ブランドのセレクトショップを全国にオープンし、更に国内だけではなく「turalist(チュラリスト)」のきっかけを得た、シドニーにもショップ展開していきたいと語る。
取材の帰りに株式会社プラスの玄関口の会社名の看板を見た。
それは思った以上に小さなものだった。
≪木や花は自然に太陽の方へ向いて伸びていき、その環境に合わせて強く育っていく≫
木や花を「小さな町工場」と置き換えてみる。
この工場がこれから世界へ向いて伸びていき、様々な環境に合わせて強く育つ。
看板はその蕾のように見えた。


