有限会社藤川樹脂 / 代表取締役 藤川勝也 氏
受け身の仕事では値下げ競争の中で先細るだけ、どこにもない強みを持ちたい――父親の代から続くプラスチック射出成形加工を営んでいる藤川樹脂(堺市美原区)の代表 藤川勝也氏は2011年に社長を引き継いで以来、そう考えていた。そこへ突然巻き起こった3Dプリンターブーム。先手必勝とばかりに、3Dスキャナーや3Dプリンターを購入。それらを駆使した3次元データ加工サービスで、会社は攻める町工場に変貌を遂げていった。専門家から「これこそDX(デジタルトランスフォーメーション)」と評価される新しい事業はどんな狙いから生まれ、どんな成果を生んでいるのか。藤川氏に伺いました。

DX(Digital Transformation / デジタルトランスフォーメーション):進化したIT技術を浸透させることで、人々の生活をより良いものへと変革させるという概念のこと。
廉価競争にもがく中で起きた3Dプリンターブーム
1982年創業の藤川樹脂は、日本の製造業の柱となる金型を預かって射出成形によるプラスチック成形加工品の製造を請け負ってきた。大手メーカーとの取引もあり、それなりに仕事は続けられたが、競合相手の多い業界。海外勢も含めて次第に「安い者勝ち」の状態が激しくなっていった。
受け身ではダメと、必死に営業に駆け回りましたが、どこへ行ってもまず尋ねられるのが「いくらで?」。新しい取引先も開拓しましたが、人手がかかるうえ慣れない仕事で不良品も出て、売上が出ても赤字になるというありさま。自社商品が欲しいという気持ちは常に持っていましたが、何をすればいいのか分からなかったんですね。3Dプリンターブームが訪れたのは2010年ごろ。これがあれば工場はいらないなどと言われて焦りました。でもうちが先に導入すれば〝頭〟が取れると考え、知り合いの技術者に尋ねるなどして調べ始めたんです。
見切り発車同様に3DCADと3Dプリンターを購入
3Dプリンターは、3DCADなどで作成した3次元データを元に立体的に物体を作り出す機械のこと。2010年ごろから安価な個人向けが作られるようになり、産業界でも急速に利用が拡大していった。樹脂などを積み重ねて立体化する手法で、射出成形や切削による加工に比べ、金型を必要としないためコストダウンがはかれて、熟練した技術も不要で、複雑な内部形状のものも容易に作り出せます。

国からものづくり補助金が出ることを知り、これを活用して3DCAD・3Dスキャナー・3Dプリンターを購入しました。何をするかは決まっていなかったのですが、「武器がないと土俵に上がれない」と考えて決断をしました。機械は扱いなれた樹脂であるポリカーボネートを使うものです。それ以前から、SNSを使った情報発信に力を入れていましたから、とりあえず試作品を作って展示会に出品し「何に使えばいいかを教えて下さい」と呼び掛けたところ、問い合わせや試作品作りを中心とした依頼が舞い込んできました。
ものづくり補助金:中小企業等による生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援する補助金。※正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」
3Dスキャナー:立体物の形状を3Dデータ化する装置のこと。3Dスキャナーにはセンサーで実際に対象物に触れながら座標を取得する「接触式」と、対象物に触れずに3次元形状を取得する「非接触式」がある。
3Dプリンター:3次元的なデジタル・モデルをもとにして、(現実の)物体をつくりだすことができる機械のこと。
3D CAD(3 次元コンピュータ支援設計):設計や技術ドキュメントの作成に伴う手作業での作図を自動化するテクノロジーです。3D CAD を使用すると建築設計者やエンジニアなどの専門技術者は設計を立体化し正確に視覚化して共有ができます。
CGやVRで、利益の大きいものづくりの構想段階からの食い込み図る
ものづくりは、アイデアから始まり、設計・試作品製作・金型加工を経て、量産・販売へと進む。量産段階となると競争が激しいレッドオーシャンの世界。一連の流れの上流に食い込むことが、利益を大きくするポイントだ。藤川樹脂は量産段階での顧客の奪い合いで苦しんでいたため、藤川氏は3Dデータ加工サービスで上流への進出を狙った。試作品づくりに適している3Dプリンターはその狙いに打ってつけだった。
レッドオーシャン:競争の激しい市場や業界、ジャンルなどを表すビジネス用語のひとつ。 事業を展開するにあたって、強い競合がいるかどうかを分析する際に使われることのある用語

最初はCG(コンピューターグラフィック)を使ってビジネスしようと考えました。色付けができますし材質も分かりますので、マーケティングに生かせます。しかしCGもブームのようになって、大手企業や広告代理店のグループ会社など競合がいっぱい出てきました。
そこで、VR(バーチャルリアリティ)で見られる動画に取り組み、国際プラスチックフェアに出展したところ、高く評価されて、大手機械メーカーとの取引につながりました。大きな装置は会場には持っていけませんが、VRならまったく問題ありません。いろんな角度から見ることができますし、必要であれば、内部構造や小さくて見えない部分もアップで見られるうえ、動きのイメージもつかめます。それも図面さえあればできます。
さらに、LED光源を並べたブレードを高速回転させることで、立体画像が空中に浮遊する3D映像をつくり出す3Dホログラムディスプレーなどのデジタルサイネージも手掛けています。
CG(コンピューターグラフィック):コンピュータを使って描いた画像のことで、「コンピュータ・グラフィックス」の略。
VR(バーチャルリアリティ):「Virtual Reality」の略、「人工現実感」や「仮想現実」と訳されている。 ここには「表面的には現実ではないが、本質的には現実」という意味が含まれVRによって「限りなく実体験に近い体験が得られる」ということを示します。
3Dホログラムディスプレー:LED光源が並んだブレードを高速回転させることで、空間に浮遊する3D映像を作り出すことができる、全く新しいサイン&ディスプレイデバイス。
顧客の製品開発や営業展開をサポートし、商機をつかむ大きな力に
2014年に新ブランド「マジカルハート」を立ち上げ、さまざまな3Dデータ加工サービスを発展させてきた藤川樹脂。自社のPRや売り上げ増につながるだけでなく、取引先にとっても商機をつかむ武器になったことで、広く受け入れられるようになっていった。

平面の図面を顧客から預かり、本物のようなリアルな立体CGやVRでビジュアル化したことで、企画開発段階から容易に営業展開することが可能になります。図面が読めない人にも伝わりやすいうえ、費用の掛かる金型作成を経ずに試作品を作ることができるため、開発費用の削減や時間短縮にも貢献できます。
コロナ禍で展示会が開かれなくなるなどして、商談の機会は激減しましたが、ポストコロナを見据えて新たに、自社のホームページはもちろん、スマホやタブレットでも見せたい形や機能、動きを分かりやすく伝えることができる3Dビューワー「MViEW(エムビュー)」を開発しました。タッチ操作一つで断面表示や分解表示によって実物がなくても機構や構造が見えて、とても分かりやすい仕組みになっています。動画を自由にコントロールできるもので、直接顔を合わせなくても、テレワークでも営業活動が可能になります。

バーチャル展示会をホームページで開催。さらなるソフト拡充を目指す
藤川氏の狙いはこうしたコンテンツを活用してプラスチック加工の受注につなげるだけでなく、コンテンツ自体の商材としての存在感を伝え・高めることにあり、MViEWはその大きな力になると手ごたえを感じている。
モノづくりは今後、アジアにとられ、国内市場はどんどん縮小していくとみています。いやすでにその傾向は進んでいます。だからこそソフトを大切にしたいのです。このため、MViEWを使ったバーチャルデザイン制作を安価で請け負う事業も始めました。これを使えば開発の初期段階でクラウドファンディングを使った資金調達が可能になりますし、売上予測も立てられます。当社のホームページにMViEWを活用したバーチャル展示会サイト(下記)を設けていますので、ぜひご覧になってください。と熱く語る藤川氏の眼差しは、すでに次の新たなステージを見据えています。
バーチャル展示会サイト

