木田バルブ・ボール株式会社 / 木田 浩史 氏
日本の製造業は現在、大きな転換期を迎えている。少子高齢化による人材不足や技術継承問題、そして働き方改革。
ものづくりの町、東大阪にもその波は押し寄せている。
従来の様な、がむしゃらに働くだけでは超えられない問題に対して、自動化やロボット化を積極的に進める経営者がいる。
それが、ステンレス製バルブボール(流体の流れを制御する弁)で、国内有数のシェアを誇り、またその球体加工の技術を活かして人工関節などの医療器具でも存在感を示す木田バルブ・ボール株式会社代表取締役 木田浩史氏だ。
二代目社長として会社を継いだ木田氏は、2010年の社長就任を機に経営理念を刷新。
それまでのマンパワーに大きく依存していた経営から、『従業員の物心両面の幸せを追求する』という考えを掲げ、<人>を中心に据えた経営へ舵を切った。
一見すると最新設備への投資が注目される会社だが、その根底には『人生の半分を占める仕事を、もっと豊かな時間にしたい』という強い想いが流れている。

「現場にロボットを」 二代目社長の挑戦
2010年、木田氏が社長就任した当時、木田バルブ・ボール株式会社の製造現場では、スキルあるスタッフが長時間労働することは常態化。
パートスタッフが工作機械へ部品をセットし、加工を行う作業という業務も多く行われていた。そうした過酷な労働や作業への慣れによって、現場は常にヒューマンエラー(人的ミス)による労働災害のリスクを抱えていた。
社長になるとすぐ、私は社内設備のロボット化、省人化を進めていきました。その理由の一つは安全性の問題です。
人が作業している以上、ほんの少しの気の緩みが大きな事故につながることもあります。その点、ロボットなら壊れるのは設備の部品だけです。それならいくらでも取り返しはできます。
もうひとつは、技術者たちの減少です。
リストラなどがあったわけではありません。長年積み上げていった自社の技術の担い手が、高齢化によって年を追うごとに減っていったんです。私は、社長になる以前から、自社の現場を見るにつけ、「いつか改善しなければならない」と感じていたんです。
こうして設備のロボット化・自動化を進めていった同社。その取り組みは十数年後、思わぬ形で実を結んだ。
2020年の新型コロナウイルスの蔓延のことだ。
当時は、ベトナムからの技能実習生を受け入れていたんですが、コロナの流行で一斉に帰国してしまったんです。当然再入国もできません。この事態に、当社だけでなく他のメーカーも頭を抱えました。しかし、その頃には当社にはロボットラインが動いていた。結果的には、ロボットが現場を支えてくれたんです。たまたまタイミングが良かっただけですよ。でも、あの経験で「先を見て投資してきたことは間違っていなかった」と確信できました。
自動化で目指すのは、省人化ではなく「従業員の幸せ」
大胆な改革を続けてきた木田氏だが、先代の時代から決して変えなかったものもある。
それは、従業員を大切にする姿勢だ。
父は、決して従業員を粗末に扱うような経営はしていませんでした。私もその想いを受け継いでいます。ただし、その実現方法は時代とともに変わるものだとも思っています。父の時代は、残業や休日出勤をしてでも仕事をこなすことが、会社や社員を豊かにする方法でしたが、今は違います。
木田氏は社長就任後、「従業員の物心両面の幸せを追求する」という経営理念を新たに掲げた。
給料は高い方がいい。働く時間は短い方がいい。人は人生の半分を仕事に費やします。それが私の考える物心両面の幸せの形のひとつです。私が、自動化を進めたのも突き詰めていけば、この物心両面の幸せの追求にあります。よく「ロボットが人間の仕事を奪う」と言われますが、私はそうは思いません。(※1)ティーチング:知識やスキル、経験を持った指導者が、それらが不足している人に対して、必要な情報やノウハウを直接教える指導方法
ティーチング(※1)など人間しかできない仕事はあります。一方でロボットが効率よく安全に、進めていける作業があります。これをバランスよく、組み合わせていくことで、社員が定時で帰り、休日を確保し、それでも会社が成長できる現場が出来上がっていくんです。
現在、同社では残業のない職場づくりを実現しつつあり、注文が増えた際もロボットや専用機の稼働時間がそれを補っている。2027年には週休3日制を導入する予定だ。

未来を創るのは人の力、ロボットだけでは、未来は切り拓けない
従業員の幸せを見据えて動き続ける木田氏は、省人化につながる設備投資と併せて人材育成にも力を入れている。
ロボットのティーチングは、人間にしかできませんからね。設備投資を始める際、私はまず、深い信頼関係にあるロボットメーカーやSI(システムインテグレーション)(※2)企業に、自社の社員を1年間出向させました。(※2)SI(システムインテグレーション):情報システムの企画から、設計・開発・機器の導入、そして運用・保守に至るまでを一貫して請け負うITサービス
1年間ウチ(弊社)が給料を持つ形で、ティーチングやプログラミングを勉強させてもらったわけです。そうして技術を持ち帰った社員は、今では社内でロボットの改造やカスタマイズ(作り変え)まで担う存在になっています。これにより、これまで外注していたプログラミングやティーチングを自社で対応できるようになっただけでなく、他のメーカーに向けた、専用機の設計提案までをも行えるようになりました。
木田氏が目指したのは、設備を増やす会社ではない。設備を扱える人を育て、自分たちで会社を進化させられる組織だ。
ロボットは増やせます。でも、それを考えて動かすのは人です。だから、人が成長できる会社じゃないと意味がない。だからこそ、私は働く環境に妥協しません。今はほとんどの従業員が残業をしていません。それでも忙しくなったら、ロボットに残業してもらえばいいんです。
そう笑う木田氏の表情は穏やかだ。
しかし、その言葉の裏には、長年描き続けてきた理想がある。
結局ね、会社は人なんです。人生の半分は仕事でしょう?だったら、その時間を辛くしてしまってはもったいない。仕事が充実していたら、家族との時間も、プライベートも、もっと豊かになると思うんです。それが繋がっていく先に、より良い会社はあるんですよ。
木田バルブ・ボール株式会社のステンレス製バルブボールで60%の国内シェアを誇り、人工関節などの医療器具の生産も堅調だ。

さらに自動化の実践で培った技術を基にメカトロ事業部を新設し、これまでのロボットを仕入れる側だった企業から、設計開発を担う企業への成長も図っている。
これだけの成長を見せる企業にもかかわらず、従業員たちは朗らかな顔で働き、日々定時に退社していく。
“従業員の物心両面の幸せを追求する”
二代目社長の掲げたこの理想は、これからも企業を大きく成長させていくだろう。
ただ、それだけではなくこの理想は、これまで人手のみに頼っていた東大阪の、もっと言えばものづくりを行う町工場のあり方そのものを大きく変える可能性をもっているのかもしれない。

木田バルブ・ボール株式会社の様々な認定(=環境整備)実績
・地域未来牽引企業
地域経済への影響力が大きく、成長性が見込まれるとともに、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手(または担い手候補)として、経済産業省から選定される。
・中小企業版SBT認定
SBTi(Science Based Targets Initiative)が定める、国際的な基準に適合した温室効果ガス削減目標の認証制度
・健康経営ネクストブライト1000認定
経済産業省と日本健康会議が実施する「健康経営優良法人認定制度(中小規模法人部門)」において、上位501位〜1,500位の企業(1,000社)に授与される冠称号
