株式会社ラピネス / 代表取締役 吉田弥琴 氏
内装工事において、特に高い専門知識と精密な工程管理が求められる「クリニック」に特化し、独自のポジションを築き上げた株式会社ラピネス。
代表取締役の吉田弥琴氏は、高校を中退して16歳から建築業を営む父親のもとで職人として働くうち、「自分ならもっとお客様に喜んでもらえる形がつくれるはずだ」との確信を抱く。
21歳で父のもとを離れ、23歳で独立・起業。当初は苦境に立たされた時期もあったが、徹底した市場分析と「やらないこと」を明確にする戦略で、年間100件以上の案件を手掛ける企業へと成長させた。
吉田氏の冷徹なまでの論理的思考と、業界を変えたいという熱い想いを聞く。

社会勉強と起業。あらゆる業種のアルバイトを経験
21歳で父のもとを離れてから起業するまでに、2年間のブランクがある。この間は社会勉強をするつもりで、ありとあらゆる業種でアルバイトを経験したという。
16歳から21歳までは、父のもとで内装仕上げの職人として必死に働きました。ただ、父は生粋の職人で喋るのが苦手。私が「もっとこうしたほうがいいのでは?」と提案しても、親子ゆえになかなか聞き入れてもらえないことが少なくなかったのです。それでも、独立したいという相談をしたときは、「他の業界を知らんだろう。アルバイトをして、世の中を見てこい」と言われたのです。
それから2年間、吉田氏は飲食業や倉庫管理など、あえて異なる業種のアルバイトを選んだ。さまざまな業種で、世間というものを広く見たいと考えての行動だった。
とりわけパチンコ店でのアルバイトは強烈でしたね。接客の難しさは格別で、自分は何でもできると天狗になっていた鼻をへし折られました。それでも、アルバイトを通して、職人時代にはなかったコミュニケーション能力を徹底的に鍛えられたことは、今の経営に大きく活きていると思います。
こうして2015年3月に、個人事業として「Lappiness」を創業。2020年11月2日に、個人事業主から「株式会社ラピネス」に法人化し、「人に感動を届ける仕事」を企業理念とした。
社名は「ライフ+ハピネス」の造語だという。代表挨拶には次のように説明されている。
ひとつは、私たち建築業者は『生活=ライフ』をより『幸せ=ハピネス』にする為にあると思っています。「携わるお客様を通して全ての方々のライフスタイルを幸せにしたい想い」と、そしてもうひとつの意味として「共に働く社員とその家族に幸せと健全なライフスタイルを与える会社になりたい想い」のふたつの視点から『ラピネス』が生まれました。
創業した当初は、まだクリニックの内装に特化した事業ではなく、頼まれた仕事は何でも請けていたという吉田氏。ところがコロナ禍の影響で、受注が激減する。果たして、自分たちの何が良くないのか? 自問自答すること1年。生き残る道を必死に探った。
当時は、飲食店の融資が通りにくくなっていました。一方で、医者は社会的に信用が高いせいなのか、事業融資が安定していたのです。予算が確保されるということは、私たちの工事費用も確実に支払われるということです。また、クリニックの内装は、資材の質や設備が高度になるため、一般的な店舗の2~3倍の価格になります。同じ工程を踏むのであれば、より付加価値の高い分野で勝負すべきだと考えて、クリニックに絞ることにしました。
その決断に対して、社内から不安の声もあがったという。しかし、絶望的な状況を打破するためには、踏み切らざるを得なかった。
それでも、新規開業が年間3件、改修もほぼゼロという状況でした。社員からは「他の仕事も請けた方がいい」という意見も出ましたが、私は頑なに拒みました。他分野の仕事に手を出して、もしも対応が1日でも遅れたら、本命であるクリニックのチャンスを逃してしまいかねません。あえて「やらないこと」を決めて貫き通すのは勇気がいりましたが、長期的な視点で一点突破する道を選びました。

施工現場を巡回してゴミを毎日回収
現在は年間に約100件の案件を手掛けている同社は、設計を自社では行わず、施工に特化するスタイルを貫いている。
設計施工で受注する会社が多いと思いますが、弊社は設計を設計会社のプロに任せています。私たちは『施工のプロ』となる道を選んだのです。クリニックの現場は、一般的な内装工事とは異なる要素がたくさんあります。例えば、レントゲン室のシールド工事、歯科ユニットの特殊な配管、電子カルテのLAN配線など、極めて複雑です。医療機器メーカーとの細かな調整も頻繁に行います。こうした複雑なプロジェクトを、高いコミュニケーション能力でまとめ上げるマネジメントが私たちの価値なのです。
アナログな建設業界において、メール対応が早く、見積もりをPDFで速やかに送り、現場の進捗をDXで共有する。こうした当たり前のサービスを徹底することが、ドクターや設計会社から信頼をいただくことに繋がっているのだと想います。
吉田氏は現場の管理においても、革新的な取り組みを取り入れている。
例えば、施工現場で毎日排出されるゴミの回収である。一見当たり前のようなことでも、取り組み方しだいでは、より高度な利便性を顧客に提供できるという。
これまで、多くの施工管理者は現場のゴミを自分の車に積んで、わざわざ残業をして倉庫へ下ろしに行っていました。これでは疲弊してしまいますし、現場も汚くなりがちです。
そこで、自社で配送部を設けて、シニアの方々を雇用して現場を回ってもらうようにしました。その車輌を『ラピカート』と名付けて、現場のゴミ回収を分業化しています。
こうすることで、管理者は管理に集中できますし、現場はいつもきれいな状態が保たれます。現場を見に来たドクターにも「現場が綺麗だ」と喜んでいただけますから、単なる効率化ではなく、サービスの向上なのです。
社員の平均年齢が32歳と、業界ではかなり若い。
未だに「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが強い業界において、若い人材を集めることができる魅力が同社にはあるはずだ。
たしかに、建設業界は『3K』の古いイメージが未だに根強いです。私たちは、それを変えたいと考えています。ご覧のように、オフィスの内装はクリニックを意識したモダンな空間にしました。これは、若い世代の「おしゃれなオフィスで、カッコよく働きたい」という潜在的なニーズに応えるためでもあります。
採用面接では、スキルより「人」を重視するという吉田氏。考え方や行動を判定するため、面接のやり方にも独自の工夫を取り入れている。
面接ではスキルよりも、その人がもっている<人生を変えたい>というバイタリティを重視します。
一次面接はオンライン、二次面接は討論形式で行い、課題に対してどう行動するかを観察するのです。弊社は自由度が高い分、責任も伴う「マッチョな会社」を自負し、実績に応じた正当な評価を約束しています。SNSでの発信も強化しており、最近の求人では1名の募集に対して150名近い応募がありました。
世代交代でチャンスをつかむ
今後の展望として「売上15億円、関西ナンバーワン」という目標を掲げる吉田氏。達成できる自信の裏付けはある。実際、仕事のオファーは多く、全てを捌ききれないため、セーブしている状態だという。
現在、売上は数億円規模ですが、案件のオファーは多く、セーブしているほどです。もっと人を増やし、品質を落とさずに受け皿を広げれば、15億円は3年以内に達成できる確信があります。
その背景には、業界の高齢化と事業承継の問題があります。
施工会社の多くが50~60代の職人を中心にまわっています。遠からず引退していく中で、30代を主力とする弊社は、これから後、シェアが回ってくるポジションにあります。そこで『クリニック特化』のブランドを確立させておけば、受け皿としてナンバーワンになれるという勝算が立つわけです。
クリニック市場は、美容皮膚科や自由診療枠の拡大、さらには動物病院や専門性の高いクリニックが台頭してきて、都市部を中心にますます活気づいています。

現在は、クリニックの内装が業務全体の8割を占めるまでになった。ほかの2割は協力業者から相談された案件やオフィスの内装だという。
1割がオフィス関係の工事です。ある生命保険会社の大阪市内の支部は、ほとんど弊社の案件です。オフィスをきれいにして、採用を増やすっていう考えです。弊社のオフィスを見て依頼をいただくこともあります。あとの1割は、協力業者さんから相談された案件に応える形で実施しています。
吉田氏は建設業界を「イノベーションが最も遅れてきた業界のひとつ」と評する。裏を返せば、少しの工夫とデジタル技術を活用すれば劇的に変れる可能性を秘めているともいえる。
私は、経営書から古典的な兵法書まで読み漁って経営哲学を学び、視座を高めることを意識してきました。私たちが先陣を切って、現場を綺麗にし、働き方を変え、お客様に感動を届ける姿を見せることで、この業界をもっと若者が憧れる『日の目を浴びる業界』に変えたい。そのために、まずは関西で実績を積み上げて、唯一無二の存在として走り続けたいと思っています。
たんに内装を作るだけではなく、ドクターの夢を形にすることはもちろん、現場の負担を減らす「サービス業」としての展開も実行に移している。その姿勢が、平均年齢32歳の若い力を結集させ、古い業界に風穴を開けようとしているのだろう。

