株式会社ジンジブ 代表取締役 佐々木満秀 氏
高卒で就職し、その後独力で会社を立ち上げて人生を切り開いてきた社長が、高校生の就職をサポートする仕事に取り組んでいる。
株式会社ジンジブの佐々木満秀氏が始めた「ジョブドラフト」だ。
高校生の就職活動では最初に応募する企業を1社に限定する「1人1社制」(※1)と「三者協定」という特有の仕組みがある。
行政・学校・企業の三者ががっちり手を組んで長年続いてきたもので、高い就職率を実現する一方で、自由な企業選択の道を狭めミスマッチを生むという弊害も生んできた。この高い壁に挑み続ける佐々木氏は「未来を担う高校生と成長に向かう企業の未来を輝かせることが使命」と言い切る。
(※1)「1人1社制」:高校生の就活ルールで1950年代に始まった。生徒は求人票などから1社を選び応募。選考に落ちた場合は複数の企業を受けることができる。これまで秋田・沖縄・和歌山を除く都道府県がこのルールを採用してきた。

「併願禁止」「内定辞退不可」を強いる<三者協定>が高校新卒者の進路を狭める
高校新卒の就職率は毎年100%近くに達する。一方で、1年以内の離職率が17.2%と、大卒11.6%よりはるかに高く、3年以内だと4割にのぼるという実態がある。(2017年卒、厚生労働省の調査より作成)
就職時のミスマッチに大きな原因があり、それを生んでいるのが<三者協定>だと、佐々木氏は指摘する。
三者協定は、学校から企業への推薦や選考開始の時期、内定の期日などを決め、手続き方法などを定める高校就活特有の仕組みだ。無秩序な就職活動で学業に悪影響を及ぼすのを避けるとともに、確実な就職に結びつけるためのルールのはずだが、なぜそれがミスマッチを生むのか。
企業は学校周りをして求人票を預け、学校はそれを元に生徒の就職先を決める一方で、毎年求人してくれる企業との関係構築に努めています。ところが、求人票は情報量が少なく企業の実態や魅力が伝わらないうえ、高校生が情報を得てから応募まで実質1ヶ月半程度と短いため、先生に頼った就職活動にならざるを得ません。また、ほとんどの地域で併願禁止、「1人1社制」つまり1人1社しか応募できないルールの上、実質的に内定辞退ができないのです。こうした事から本当に行きたい企業、やりたい仕事に巡り合える高校生が少なくなってしまうのです。
行政と学校、そして企業にとって都合のいい<三者協定>の厚い壁
にもかかわらず、三者協定が長く続いているのは、行政(厚労省・文科省)と学校、そして企業の三者間それぞれにとって大きなメリットがあるためだ。
先生は民間企業で働いた経験がなく、キャリアアドバイスを不得手としている先生もいらっしゃいます。また兼任が多く、進学に力を入れたい先生にとっては、多忙の中で就職まで世話をするのは大変です。たとえば、生徒がコミュニケーション下手だったら、それを教えて面接に通りやすくするのも先生の仕事のはずですが、そこまで手が回らない。三者協定に乗っかった方がとても楽という現実があります。
企業にしても、「1人1社制」に基づく応募で毎年来てくれるわけですから、採用に大きな経費がかからないというメリットがあります。厚生労働省や文部科学省も、学業を優先してほしいという一方で、就職内定率という数字を上げたいものですから、やはり三者協定は都合がいいのです。この三者のスクラムはものすごく硬く、高い壁になっています。
学校あっせんで就職した工場を1ヶ月で退職した実体験が原点に

こうした高卒就職の実態に目をむけるようになった背景には、佐々木氏の実経験がある。
高卒時、現在も続く枠組みの中で、学校あっせんによって工場への就職が決まった。しかし、やりたい仕事でなかったため、わずか1ヶ月で退職。経済的に苦しい家庭に育ったため「金持ちになりたい」「成りあがりたい」という思いを強く持っており、21歳でトラックを購入して運送業を始め、より成長したいとの思いから、不動産会社に就職。さらに求人広告会社を経て、30歳で独立して広告業を始めた。体を壊すほどがむしゃらに働いて、無借金経営で10年連続増収増益を記録するなど成功を収めたが、社会に誇れる価値を残す仕事がしたいと思うようになり2014年45歳で株式会社ジンジブを設立した。
それまでの経験で、会社の根底は人であると実感していました。ところが、高校生の多くはポテンシャルを秘めたまま、多くの可能性があることを知らずに就職を決めている点においては、私の高卒時と変わらないままでした。高校生が「高卒」という学歴に左右されることなく活躍できる社会でなければならない。今後ますます若手の人材が必要となる中小企業の採用支援をしたいと考えて「ジョブドラフト」を構想したのです。
行政や学校の抵抗にもめげず、利益度外視の学校・企業廻り
「ジョブドラフト」は、累計掲載企業数が3,500社を超える高校生専用求人サイト「ジョブドラフトNavi」を運営。求人票ではとても描き切れない企業の雰囲気や実態を、先輩インタビューや写真・動画を駆使して高校生目線で紹介する。また、高校生と企業が直接交流できる場として合同企業説明会「ジョブドラフトFes」を開催。昨年は全国13都市で延べ3,362人を集めた。さらに、高校1~3年生を対象に、将来の生き方に関するキャリア教育などを行う「ジョブドラフトキャリア」や、入社後の定着支援策として研修や個別のサポートを実施する「ルーキーズクラブ」のほか、企業に代わって学校訪問や求人票の発送を代行し、企業のパンフレットや採用ホームページの制作まで担っている。


大卒では当たり前ですが、民間企業が新卒者の就職支援をするのは高卒者を対象にしたものはありませんでした。18歳成人の時代です。高校生でもインターネットは十分に使いこなしています。高卒でも大卒と同じように民間で就職支援事業をやるべきだと強く思ったのです。ところが、規制する法律がないにもかかわらず、行政は学業優先を理由に動こうとしません。始めた当初は、Navi掲載企業に求人票を発行されないという行き違いや、学校からのクレームなどもありました。
マーケットがない中、利益度外視で先生や中小企業への働きかけを地道に続けました。
「ジョブドラフト」は、企業にとっては生徒に直接会社のことを知ってもらうチャンスが増えますし、生徒にとっては学校にはない求人を探せるうえ、先生ではない大人に相談できるメリットがあります。何より、就職に際してのミスマッチの多くを防ぐことができると考えています。今も学校部隊の社員が全国の学校を回って参加を募っています。

ようやく見えた変化の兆し。IT人材の育成や第二新卒サービスでさらに支援拡大を図る
地道な働きかけは、行政の姿勢も少しずつ変えつつある。高校新卒者の早期離職が多いのを問題ととらえ、厚生労働省・文部科学省と学校などが参加して2年前、高校生の就職を考えるワーキングチームが発足した。
今後は?
日本社会の大きな問題に少子化があり、その大きな要因に晩婚化が言われています。高卒できちんと就職してキャリアアップしていけば、経済力がついて結婚も早くなり、ひいては少子化を防ぐ一助になると考えています。高卒の就職というのは、「三者協定」というしがらみを崩すことも含めて、日本社会の在り方にも一石を投じるものだと確信しています。
世界と比較した場合、日本の課題はIT人材の不足です。この分野は高卒と相性がいいのです。若く柔軟な頭でないと新しいサービス作りは出来ませんから。このため、高校生が無料で入れるIT教育のスクールを10月に始めます。また、早期退職した高卒者は再就職がしにくいという現実があります。そうした人を対象に第二新卒サービスも来年から始める計画です。こうした事業は今後、オンラインと同時にリアル店舗も設けて並行的に行っていく考えです。感情や感動といった心に響くものはリアルに限りますので、リアルとの併用がこれからのビジネスの根幹をなすと考えています。

【近況】厚生労働省、文部科学両省は昨年2月、地域の実情に応じて複数社への応募も認めるよう促す報告書を公表。今年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」でも都道府県に複数社への応募検討を促すことを明記する。
大阪府は今年認める予定だったが、コロナ禍により制度変更の混乱を避け、来年に先延ばしした。
株式会社ジンジブ
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