みちびらき株式会社/代表取締役 岩崎 隆 氏

経営と人生で、本当に大切なものは何か。 それを根本から問う企業が、大阪市中央区船場にある。 令和元年に創業された「みちびらき株式会社」は、実直な企業の現場を訪れ、志ある人々と交わることで学びを深めるスタディツーリズムや、経営者に向けたオンライン形式の教養講座「新人間力大学校・立命塾」を展開する企業である。この企業を、30年の企業経営を経て62歳で立ち上げたのが、今回話を伺った岩崎 隆 氏だ。
30年の会社経営後の挑戦
みちびらき株式会社の創業は令和元年。岩崎氏は62歳にして、新たな企業を立ち上げた。
私は30年以上、父から受け継いだ印刷紙器・段ボールの会社を経営していたんです。60歳の時に会社はM&Aによりある中堅の同業者と統合し、私は会長となりました。会長というのは、ある意味『何もしなくていい』立場です。悠々自適と言えばそれまでですが、私の中には常に『このまま終わるつもりはない、何かせんといかん』という思いが燻っていました

岩崎氏は、ビジネスパーソンとしての引退ではなく、新たな挑戦を選んだ。
62歳の時に私は、会長も退き、完全に身を引きました。仕事から離れた私には時間があり、気力もありました。ただ、今から新しい事業を立ち上げるのはよいのですが、かといって、全く新しいことができるわけでもありません。だからこそ、自分がこれまでやってきた中で、一番意味があると感じたことをもう一度形にしようと決意しました。それが、今の事業のスタートでした
印刷紙器・段ボール業界時代の岩崎氏は盛和塾(※1)に所属し、大阪の経営者たちの世話人として活躍していた。新たな事業展開の着想もここから生まれたという。
盛和塾の講演の依頼などで、国内外の色々な企業を訪問させてもらいました。依頼のために実際に社長に会い、その想いを聞き、会社の雰囲気を見て、現場の社員と話をする。その経験は、実際の講演での話よりも遥かに楽しく、意義あるものでした。加えて、私は段ボール会社の経営者時代に、『社員旅行』をとても大事にしていたんです。社員旅行といっても、どんちゃん騒ぎをするのではなく、離れた事業所の人々が顔を合わせて親睦を深め、一緒に仕事について語り合い、研修をするという、いわば研修旅行でした。その企画立案や、旅行を通して仲を深めていく社員の様子を見るのが、私は本当に好きでした
近年では実施企業が減少している社員旅行だが、岩崎氏はその旅にこそビジネスパーソンの「学びの本質」があると見抜いた。 この想いが結実したのが、一つ目の事業の柱となるスタディツーリズムである。
※1 盛和塾=1983年に京セラの創始者である稲盛 和夫 氏が開いた経営塾。
儲け方ではなく、何を為すかを伝える学びの旅

みちびらき株式会社のスタディツーリズムは、ビジネスパーソンに向けた企業訪問を軸としたものだ。単なる視察ではなく、実際の現場で経営者や社員と対話し、企業文化や理念を体感する“学びの旅”であり、ビジネスの「術(じゅつ)ではなく道を学ぶ」ことに主眼を置いている。
この事業の主なターゲットは、アジアのビジネスパーソンです。日本には全世界の半数を占める100年企業があり、そのいずれもが経営理念を本当に大切にしています。こうした日本企業の理念は稲盛 和夫の著書でも描かれ、それを読んだアジアの起業家たちに大きな影響を与えています。ただ、それが十分に伝わっているかと言えば、そうではありません。アジアの多くのビジネスパーソンはハウツー、いわば『どうすれば儲かるか』に目が向いてしまいがちです。日本の多くの企業も、創業当初は儲けを意識していたかもしれません。しかし、儲けだけを追い求めていては企業は100年も続かないと日本人は気づいたのです。大切なのは、『何のためにその事業をしているのか』という理念の軸をしっかりと持つこと。それを伝えるためのツーリズムを構築しています

創業から6年、コロナ禍の時期を挟みつつも、これまでに中国や台湾、シンガポールなど、多くの国や地域からの依頼を受けている同社。意欲的なアジアのビジネスパーソンの要望に岩崎氏が応えられる理由、それは彼のライフワークとも言える「市井の賢人(※2)」との繋がりにあった。
※2 「市井の賢人(しせいのけんじん)」とは、「歴史に名を残すような有名人や学問の世界の権威ではないけれど、一般の社会(民間)の中で平凡に暮らしながら、深い知恵や優れた見識、高い徳を持って生きている人」を指す言葉です。
みちびらき株式会社では、情報媒体事業として、日本の経営者たちを紹介する『ニッポンの社長直伝』というコンテンツを立ち上げています。これは困難に立ち向かい、人間性を高めてきた経営者たち、つまり『市井の賢人』を紹介するものです。このコンテンツでは、盛和塾のころに友誼を結んだ経営者だけでなく、その後にお会いした経営者の方々の話を伺い、その理念や人間的な魅力を紹介しています。現在までに掲載している企業は100を超えており、さらに紹介しきれていない企業を含めれば300社を超えるネットワークとなります。この方々を紹介しつつ、時には依頼者のリクエストに合わせて、新たな学びの現場を開拓しています
日本の心や、日本の経営が持つ思想に注目が集まる今、岩崎氏は、より具体的な企業訪問プログラムの拡充を目指して事業を展開していくことを計画している。これからの事業の飛躍に注目したい。
「あんたやから頼む」と言われる“人間力”こそ仕事の基礎
みちびらき株式会社はスタディツーリズムに加え、「新人間力大学校・立命塾」という事業も展開している。これは経営手法ではなく、オンラインでの複数のプログラムを通じ、経営者としてのあり方と向き合う学びの場だ。

この立命塾というのは、倒産しかけている企業の再建に尽力されている、公認会計士の天明 茂 氏が立ち上げた『人間力大学校』を継承したものです。天明氏の『経営の成否は技術や戦略ではなく、経営者自身の在り方に起因する』という考えに基づいて、プログラムを展開しています。経営者自身の在り方とは、突き詰めれば『あんたやから頼む』と言われる存在となることです。そのために大切なのが人間力なのです。では、人間力はどうやって高めるのか。その鍵は、自分の生き方や家族との関係、ルーツまで含めて、自らの根本を見つめ直すことにあるのです

岩崎氏の語る人間力の向上は、単なる自己啓発とは違い、リーダーとしての覚悟や社会人としての信頼を高めるための実践を伴っている。
経営と人生は切り離せません。ビジネススキルやセンス以前に、『自分は何のために生きるのか』『今いるこの自分はどういった家族の系譜や歴史・想いに支えられてきたのか』といった、人生の根本を見つめ直すことで、人間力や、いわゆる“徳”を高めていくのです。そうすることで、利益追求だけでない、事業の充実した発展や継承、さらには事業を通した社会貢献を目指していこうというのが立命塾の目標です。現在は、中小企業経営者や後継者、士業など、組織や社会を支える立場の人々が中心となって、オンラインでの受講をはじめ、ワークシートの作成やロールレタリングの実施などを通じ、人間力の向上に努めています

人間力を高めて、日本を再び取り戻すために
スタディツーリズムと、人間力を向上させる立命塾。その両方で岩崎氏が目指すのは、即物的な経営や人生を脱却した、心ある経営者としてのあり方のすすめだ。
かっこいいことを言うつもりはないんです。ただ、私は日本を、世の中をちょっとでも良くしていきたいだけなのです。私の会社のポリシーに『世界のための日本の心を守り、育み、伝える』というのがあります。日本にまだ残っている経営者たちの志を継承していくために、海外に伝えるだけでなく、日本の経営者たちにも人間力や徳を高め、本当に豊かな心・価値観を持つ人材となってほしいのです。そうした人材育成の先に私が見据えるビジョンが『MAKE JAPAN GREAT AGAIN』です。人間性の高い起業家たちが、日本の心と、祖先から守り継がれてきた伝統を取り戻して日本を再興する、そんな未来に貢献する一助となれたら嬉しいですね

岩崎氏の言葉には、日本の未来を担う経営者たちに向けた熱い想いがこもっていた。
