吉川鐵工株式会社 / 代表取締役社長 吉川晃平 氏
ハサミの中央部やジーンズポケットの角端の補強など、私たちの普段の生活の様々なところに使われているパーツ「カシメ」(※1)。
四條畷市に本社を構える吉川鐵工株式会社は、カシメで複数の部品を接合するリベッティング・マシン(※2)の国内トップシェア企業。その製造販売を主軸に、ものづくりの現場を60年以上にわたって支えてきた。
現在その舵を取るのが、4代目代表 吉川晃平氏だ。
会社の未来に危機感を抱き、組織の大改革を行った結果、2024年「学生に知ってほしい働きがいのある企業賞 (大阪府知事賞)」を受賞した。
今回、組織改革の道のりとその結果訪れた社内変化、そしてこれからの吉川鐵工について語ってもらった。
(※1)カシメ:「加締め」とも書く。穴のあいた板状のものを重ねて、外れないように固定する方法
(※2)リベッティング・マシン:通称 “カシメ機”。自動車や家電、航空機など幅広い産業で活用されている

「結果を出すことで道が開ける」 銀行での経験を経て家業へ
吉川氏は幼少期から家業を継ぐ意志を固めていた。創業者である祖父の姿に憧れ、小学校の卒業アルバムにも「社長になる」と記していたという。
祖父も3代目の父も多くを語らない性格で、子どもの頃はうちが何を作っている会社なのかを知りませんでしたし、働いている姿をちゃんと見たこともなかった。でもある日、会社が休みの日に祖父に連れられて社屋の中を目にしたとき、「この建物で一番偉いのがおじいちゃんなんや!かっこいい」と憧れを抱いたのです。
高校生の時、家業を継ぐための進路について父に相談すると、自分で考えて決断することを求められた。同志社大学へ進み、卒業後はみずほ銀行へ入社することになる。
銀行を選んだのには、「財務を学びたい」「若くして経営者と対話できる機会を得たい」という明確な目的があったという吉川氏。
厳しい環境に身を置きたかったので、関西を離れて東京配属を希望し、東京駅八重洲口支店での法人営業担当としてキャリアをスタートすることになりました。
しかし、入社してすぐに直面したのは、エリート揃いの同期たちとの厳しい競争環境だった。周囲には東大や京大、早慶といった名門大学の出身者が多く、「自分は逆境からのスタートだ」と痛感したという。
営業で思うように成果が出せず、上司に思わず愚痴をこぼしてしまった日、吉川氏はその後の指針となる言葉を投げかけられた。
「今のお前の言うことなんか誰が聞くのか。自分の意見を聞いてほしければ、まずは行動と結果を出せ!」 当時の課長に諭されました。
この助言がきっかけで、誰よりも多く営業先を回り、新規開拓キャンペーンではトップ成績となった。その後も実績を積み上げることで努力が評価され、次第に担当する顧客規模も大きくなり、社内での立場が向上していった。
「組織内で信頼や評価を勝ち取るには、行動して結果を出すしかない」という意識が強まりましたね。
転機となったのは祖父の訃報だった。
6年に及ぶ銀行業務にもやりがいを感じ、周囲からもキャリアを継続することを勧められていたが、「自分が社長になると誓ったのに、祖父に直接働いている姿すら見せられなかった」という後悔が押し寄せた。
銀行の寮に住んでいた頃、「銀行員の立場でアドバイスが欲しい」と、祖父が会社の決算書を送ってくれたことがありました。借入もなく、自己資本比率は90%以上。見たことのない優秀な内容の決算書で、驚きましたね。決算書を通して吉川鐵工を見てみると、改めて誇らしい気持ちになったことを今でも覚えています。
2016年、忌引きが明けてすぐ会社に辞職を申し出て、家業に入ることを決意した。

また「逆境からのスタート」 組織の大改革は情報の“属人化”脱却
だが、家業を継ぐため吉川鐵工に入社した吉川氏が目の当たりにしたのは、想像を超えて硬直した企業文化だった。
初日に食堂で昼食をとりながら、「戻ってきたことは失敗だった」と後悔しました。社員同士の会話はほとんどなく、テレビの音だけが響いている。挨拶をしても返事がなく、誰もが黙々と与えられた仕事をこなすだけ。計画的な生産管理がなされておらず、都度指示を出すなど段取りが悪く、悲しいことに“朝のチャイムから終業のチャイムまで、いかに怒られずに一日を終えるか”といった社員が散見され、出る杭は打たれるような環境でした。
長期的に見ると、利益率や売り上げは確実に下がっている。しかし「カシメ機の国内トップシェア」を誇り、赤字が続いたとしても数年は耐えられる経営状況であることが、危機感の欠如を招いているーー吉川氏は、「現状維持が最善」という全体の意識を変える必要性を強く感じ、大胆な改革に踏み切ることに。
事態をただ嘆くのではなく行動で結果を出す。「逆境からのスタート」に強い吉川氏が再び立ち上がる。
どこから何をしていけば良いのだろうかと途方に暮れながらも、まずは身の回りの業務効率化から取り組みました。入社してすぐに所属した総務部で、タイムカードや給与明細の電子システム化を進めていくうちに「属人化脱却が組織を成長させるきっかけになるのではないか」と考えたのです。
当時の営業部では、担当者ごとに顧客情報が管理され、社内で共有されることはなかった。そこで吉川氏は、個々の担当者が持っている顧客情報を会社全体で管理できるよう、営業管理システムを導入した。
工場での生産管理もまた属人的で、担当者に「この製品は完成までに3か月かかるというが、どんな計画で進めているのか」と尋ねると、「計画は私の頭の中にある」と返ってくる。データとして可視化されておらず、「職人が経験と勘で管理するのが当たり前」という文化が続いていました。
そこで吉川氏は、生産管理システムを導入し、リードタイム(納品期間)を明確化することで、属人的な業務からの脱却を目指した。

改革への反発を乗り越え、主体的に働ける企業風土へ
改革には多くの反発があった。長年の慣習を変えることへの抵抗は想像以上で、業務の効率化を図るだけで大きな軋轢を生んだ。
特に評価制度の導入は、最も大きな壁の一つだった。
これまでの管理職は職人気質が強く、目標設定や部下育成には関心が薄かった。「自分の仕事や地位は自分で守るもの」という意識が当たり前で、社員間の情報共有すら行われていなかったそうだ。
そこで吉川氏は、「何年働いたか」で昇給が決まる年功序列型から、成果と努力が適正に評価される仕組みを整えたのだが……
評価制度を設けたことで、「自分には合わない」「上司が評価してくれない」と離職していった社員もいました。私が描いていた“職人ではなくマネージャーとして部下を適正に評価し指導する管理職”のイメージを、現場とうまく共有できていなかったのです。
その後、組織全体に「成果を評価し、成長を支援する文化」が浸透し始めたのは、外部から経験豊富なマネージャーを数名幹部社員として招へいし、新しい評価制度の運用を主導させたのがきっかけだった。
彼らは目標設定や実績評価のノウハウを持ち込み、組織の新陳代謝を促したのだ。
ある部署は3ヶ月も経たないうちにみるみる雰囲気が変わり、離職率も下がっていきました。組織改革の期間で3割の社員が離れていきましたが、残った人たちはみんないきいきと良い表情で働き出しました。
「言われたことをこなすのではなく、社員には自分の人生の中で仕事を通して何かを成し遂げてほしい」と願う吉川氏は、2023年5月に代表に就任すると、理念経営の推進にも取り組んだ。
会社のミッション(使命)、ビジョン(将来像)を明確化し、「吉川鐵工の社員としてどうあるべきか」を共有するため、全体で話し合ってバリュー(行動指針)を決定する。
バリューを定着させるために、社員同士がバリューを体現した行動を発表して共有する「バリューハイライト」という機会を朝礼で行っています。ありがたいことに、初回から指名しなくても毎回誰かしらが挙手してくれています。
ITによる属人化脱却や社内コミュニケーションの活発化などの取り組みの結果、社員が主体的に働く企業風土が醸成された。
その成果が認められた吉川鐵工は2024年 「学生に知ってほしい働きがいのある企業賞」(※3)大阪府知事賞を受賞する。
(※3)学生に知ってほしい働きがいのある企業賞:一般社団法人大阪府経営合理化協会、大阪経済大学、大阪工業大学が主催。2025年で第8回を迎える

そうそう、もうすぐ食堂もリフォームするんですよ。
9年前、吉川氏が入社初日の昼食を苦い思いで噛み締めた場所は、すっかり生まれ変わるのだ。
成長と共に、日本のものづくりを未来へつなぐ新たな挑戦
吉川氏の次なる目標は、国内外での市場拡大と、日本のものづくりの持続可能性を支えることにある。
主力商品であるリベッティングマシンにおいては、新規市場開拓のためのテストマーケティングを実施し、既存技術を活かしながら新たな産業分野への展開を模索している。
また海外展開ではアリババのプラットホーム(※4)を活用した販路開拓を進め、現在中東や東南アジアとの取引も増えている。
(※4)アリババのプラットホーム:中国を本拠地とするIT企業アリババが運営する世界最大の B2B トレーディングプラットホーム
さらに、吉川鐵工が今後強化していくのが自動機(※5)の製造・販売だ。
人手不足が深刻化する中、製造業の自動化ニーズは高まっています。従来は自動機をカシメ機の周辺装置として提供していましたが、これからは自動機を単独での販売を推進し、日本のものづくり全体を支える存在へと進化させたいと考えています。
弊社のビジョン「つなぐ技術のプロフェッショナルになる」には、日本の製造技術を未来につなぐという想いも込められているのです。
(※5)自動機:搬送・加工・組み立て・検品など、人が行っていた作業を機械で行う設備や装置のこと。生産効率の向上や労働力不足の解消につながる
また、社員が働きやすく成長できる環境づくりにも注力。
社内交流を促す「イベン10」(イベント補助制度)や「仕事BAR」を導入し、部署を超えたコミュニケーションや学び合う文化を育てている。
新卒採用の受け入れ体制も整い、2024年には新卒2名を採用した。

大きな改革を進められたのは、創業から続いた「全天候型経営」(好況・不況にかかわらず安定的に収益を上げる経営)による財務基盤があったからです。無借金経営を貫き、資産を蓄えてきたことで、大胆な変革に踏み切ることができた。
今後は営業利益をさらに伸ばして社員たちにもっと還元していきたいですし、安心して成長できるような企業を目指していきます。
組織改革を経て企業としての地盤を固めた今、日本のものづくりを未来へつなぐために、吉川鐵工の新たな挑戦が始まっている。

