株式会社向新 / 代表取締役社長 向井 新将 氏
大阪を中心に20店舗を展開する株式会社向新の創業は約130年前、泉州の地で初代 向井新與門(しんよもん)が菓子の製造を始めたのが始まりである。創業当時からのお菓子"むらしぐれ"は、泉州の郷土菓子である。
2015年に代表取締役社長に就任し、老舗企業でありながら、どんどん新しいことにチャレンジしている株式会社向新の六代目、代表取締役社長 向井新将(しんすけ)氏に話を伺った。
”むか新”は和菓子屋とか洋菓子屋とかではなく<むか新ブランド>
僕が社長になるまでは、大阪 大和川から和歌山 紀の川の間にしか店舗を出していなかったんですけれど、僕が社長になってから紀の川を超えました。
和歌山県で3店舗目となる和歌山市内に2018年3月にオープンした「むか新和歌山神前店」のことである。
向井氏が目指しているのは、和菓子、洋菓子にかかわらず見た目も味も「むか新」らしいお菓子だという。
ジャンルにとらわれない向井氏が、家業を継ぐ前に約1年間修行に行った先は北海道の有名な洋菓子屋だった。
和菓子屋としてスタートしているが、向井氏の思いは和菓子、洋菓子と分けずに、「やっぱりむか新のお菓子がおいしい」と思っていただけるようお菓子づくりに取り組んでいる。
Q.2021年に新業態の「HUG BAKERY(ハグ ベーカリー)」を始められましたが、老舗菓子店が「パン屋?」と驚いた方も多かったのではないですか?
そうですね。むか新は、贈答用での需要が高い地域密着の菓子専門店ですが、ベーカリーショップは地域の方に気軽に立ち寄っていただけるようにという思いで立ち上げました。むか新で培ったお菓子の材料や技術も活かしています。
コロナ禍に立ち上げた「HUG BAKERY(ハグ ベーカリー)」は、むか新の技術を活かした餡パン、メロンパンをはじめ、塩パンや、地元の素材泉州たまねぎをつかったパン、オーダーを受けてからつくるピザなど、どの時間に訪れても焼きたてのパンが並ぶように、厨房で少量ずつ焼き上げており、毎日通っても飽きない。
むか新でなかなかできなかった「できたて」、「つくりたて」を提供し、これからも若年層のお客様にも気軽に来ていただける店を目指した。
この”むか新”の新業態は、新たなファンを生み出している。

2023年には和泉市の大型店舗を全面改装し、リニューアルオープンした「MUKASHIN plus(ムカシンプラス)」をオープン。
「カフェ」、「ラボ」を併設した出来たてスイーツを味わえる店として新たなアプローチをしている。向井氏の柔軟で老舗という守りにとらわれない思い切った発想で、新たな”むか新”ブランドが広がっている。

むか新の地元、関空で火が付いた「元祖大阪みたらしだんご」
今や関西空港(関空)の大阪土産の定番になっているのが、1994年に発売された「元祖大阪みたらしだんご」だ。
みたらし団子といえば、だんごに甘辛いたれがかかっているものという多くの人の常識をくつがえす甘辛い醤油だれを生地に包み込んだ。
Q.たれを生地に包み込むという発想はどうやって生まれたのでしょうか?
地元に関空ができることになり、大阪を代表するお土産がつくれないかと考え出されたものです。すでに販売していた「みたらしだれ餅」に目をつけ、お土産にできないかと考えたと聞いています。
このお団子の中に甘辛い醤油だれを包んだ生菓子に焦げ目をつけ、生地を改良するなど、試作を繰り返しできあがったお菓子です。
発売当初、話題性があったのでマスコミからの取材が殺到しました。

Q.「元祖大阪みたらしだんご」は外国の方も購入されるのですか?
今年、新発売した「ごまだれだんご」が外国人の方に人気です。白ごまだれが好きな方が多いみたいです。
関西国際空港開港から30年を経て、2024年9月、再度マスコミを賑わしたのが「大阪みたらし ごまだれだんご」の発売である。
たれに使用している「王醤(おうしょう)」は、創業200年を超える大阪唯一の醤油製造メーカー「大醤(だいしょう)」の代表的な商品。むか新の「元祖大阪みたらしだんご」、大醤の「王醤」は、共に大阪産名品に認定されており、2つの名品がコラボレーションし新たに完成したお菓子である。

人気商品「こがしバターケーキ」と地元産たまねぎ
現在、むか新で断トツに売れているのが特製こがしバターをふんだんに使用した「こがしバターケーキ」だ。
一番人気のお菓子です。2002年から発売していますが、材料を見直したり、デザインをリニューアルしたりと、つど進化させています。
2002年の発売当時は、バター菓子ブームはまだ無く、こがしバターという言い方も使用されていなかったはずである。
実は「こがしバターケーキ」を開発したのは、ベテラン和菓子職人である。
ベテランの和菓子職人が、和菓子の技術や製法、カステラなどの和菓子によくつかわれる材料などを吟味してできたものに、オーストリア人マイスターがこがしバターの製法を伝授し、それぞれの技術と製法を組み合わせて「こがしバターケーキ」となりました。今も少しずつ、改良を重ねています。向新の本社内には、そのお2人の写真が飾られている。
「こがしバターケーキ」は、2010年5月にモンドセレクション金賞受賞し、これを期に大阪土産として空港やサービスエリアでも販売を開始。モンドセレクション金賞は、その後も連続して受賞し、2016年3月にはモンドセレクション最高金賞受賞。この最高金賞は2024年も受賞し続けている。
銅鍋でじっくり熱し、コクと風味を凝縮させたこがしバターに種子島産のブラウンシュガーと生絞りレモン、そして和菓子の製法で練り上げ、焼いた「こがしバターケーキ」は、”むか新”にはなくてはならない看板商品となっている。
こがしバターケーキは一日中たくさん製造していますが、全てを機械化するわけではなく、最後の表面にフォンダン(※1)を塗る工程は、人の手で仕上げています。(※1)フォンダン:フランスの焼き菓子のデコレーションに用いられる製菓材料の一種。砂糖と水を混ぜ合わせたもの。

Q.そういった細やかな技術がおいしいお菓子を生み出しているひとつだと思いますが、お菓子を作る上でここだけは譲れないというようなことはありますか?
こがしバターケーキをはじめ、バターをつかうお菓子に関しては、日保ちは短くなりますが、極力バター以外の油脂をつかわないように、なるべくシンプルな材料でおいしさを最大限引き立てられるよう考えてつくっています。
菓子だけでなく、パンもバターしか使用していないそうだ。
向井氏は地元産の素材にも注目している。
射手矢(いてや)農園(※2)で栽培されているプレミアム泉州たまねぎのことを知り、畑に足を運んでそのたまねぎの味に惚れ込んで商品化を決めたのが「泉州たまねぎサブレ」だ。
”たまねぎが甘いサブレに?”と驚く方も多いと思うが、このプレミアム泉州たまねぎは、甘く瑞々しく生でも食べられる。
「泉州たまねぎサブレ」は、香辛料など余計なものを入れず、素材の味が生かされている。
こうした固定概念にとらわれず、チャレンジし続けている向井氏は、まだまだ私たちを驚かしてくれる商品をつくってくれるに違いない。
(※2)射手矢農園:畑作では大阪府で一番大きい農園である。すべて露地栽培(ハウスなどの施設を使わず、屋外の畑で栽培する方法)で、泉州たまねぎ、キャベツ、米の生産、加工、販売を手掛けている。
★射手矢農園株式会社 オオサカジン社長インタビュー https://shacho.osakazine.net/e752338.html
