丸楽紙業株式会社、BPO文書電シカ株式会社 / 代表取締役社長 杉山喜久尚 氏
情報伝達の手段、記録媒体、そして日用品として、我々の生活になくてはならない「紙」。しかし、デジタル化の波が押し寄せる現代において、紙の果たす役割は変化しつつある。
そんな中、丸楽紙業株式会社は、印刷、回収、廃棄、そして再製まで一貫した循環型サービスを提供し、さらに、書類を電子化・データ化することでペーパーレス化にも貢献している。
紙を扱う企業としてペーパーレス化の時代をどう生き抜くのか、代表取締役社長杉山喜久尚氏に聞く。
サラリーマンからの家業の代表へ
丸楽紙業株式会社は今年で創業86年目を迎える紙業の老舗で、杉山喜久尚氏は3代目となる。
今でこそ様々な経営戦略を実行に移してアクティブに活動しているが、家業を継ぐ気はなかったという。
2001年、27歳のときに親族から説得されましして、財務資料やビジネスモデルを詳細に検討して入社を決断しました。当時は紙の需要が減少し始めていた時期でもあり、紙を売るという祖業に固執するのではなく、新たな事業を展開する必要性を感じていました。
丸楽紙業の企業ドメイン(領域)は「紙から始まるを創る」。
この考え方が会社経営の根底にあり、創業者は紙を売ることから始め、細かく広く販売することで事業を拡大した。
その後、加工や運搬といった事業が加わり、紙の市場が伸びた2008年までは順調に成長しました。しかし、私が事業を引き継いだ2010年頃には市場が縮小傾向にあり、紙を売るだけでは立ち行かなくなると判断したのです。そこで、紙の回収、電子化、データ化、そして再利用といった新たなビジネスモデルを構築し、紙という素材から始まる様々な価値を創造することを目指しました。
DX支援と資源循環の次の一手
社長就任後は、紙、機密資源、デジタルシステム、ハンドプロセスの4つの商品群を阪神間から全国へと展開している。
とりわけ力を注いでいるのが、紙資料を電子化・データ化するサービスを行う「BPO文書電シカ株式会社」だ。
元々は丸楽紙業の関連会社「バーコ企画株式会社」として行っていた事業が前身としてあったのを、さらに発展させたのだ。
BPO文書電シカ株式会社は、2022年から開始しました。事業開始の大きなきっかけは、やはり紙の需要減少への対応です。紙を売るという祖業がありながらも、時代に合わせて電子化・データ化サービスを展開することで、新たな収益の柱を確立する必要がありました。また、中小企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援したいという強い思いも背景にあります。
杉山氏は「電子化」と「データ化」の意味付けを厳格に分けている。具体的な違いについて、杉山氏はこう語る。
電子化とは、紙の文書をスキャナで読み込み、画像データとして保存するプロセスを指します。これにより、物理的な保管スペースを削減し、運搬を容易にするメリットが生まれます。
一方、データ化は、電子化された画像データの内容をテキストデータとして処理することです。そうすることで、文書の検索や内容の再利用が可能になります。
実際の資料は紙のサイズが一様ではなく、綴じ方も人それぞれに個性がある。スキャナーにかけられるようにするまでの前準備が、思いのほか大変だという。
ホッチキスやクリップの除去、付箋はがし、ページの折り目の修正など、お客様によって様々な状態の文書があるため、これらをひとつひとつ丁寧に整えます。この作業を自社でやろうとして途中で挫折し、当社にご依頼いただくケースも少なくありません。
多くは企業からの依頼で、とりわけ「士業(弁護士、税理士、会計士など)」の事務所や医療機関からが多く、資料やカルテなどが膨大な量になるそうだ。
特に多いのは高齢の医師が若手医師に事業を継承する際に、大量のカルテやレントゲンフィルムの電子化・データ化が必要となるケースです。その他、電鉄会社や原子力発電所のプラント部品メーカー、マンション管理組合など、紙を大量に扱うあらゆる業種からご依頼をいただいています。自治体向けには、行政文書のデジタル化が進む中で、入札のための仕様書作成のサポートを行っており、今後さらに需要が高まると見込んでいます。
日本印刷個人情報保護体制認定制度(※1)(JPPS)の認定も受けており、個人情報保護士も在籍していますから、情報の保護体制には万全を期しています。
(※1)日本印刷個人情報保護体制認定制度:2005 年4 月1 日より個人情報保護法が施行され、個人情報を取り扱う印刷業では、事業所の大小や取扱い情報の多少に拘らず、情報の取得・保存利用に関する基礎知識や管理体制の整備が必要となり、東京都印刷工業組合が認定制度を設けた。
紙を扱う企業がペーパーレス化を推進する事業に携わっているわけだが、その一方で、不要になった紙を再資源化する取り組みも行っている。それが「都会の森林ペーパー」だ。
企業から排出される紙の余剰物を資源として無料回収し、再生紙として活用するプロジェクトだ。

この取り組みは、かつて日本で議論された「都市鉱山」(※2)の概念からインスピレーションを受けています。都市に存在する使用済み製品の中に貴重な資源が眠っているという考え方と同様に、都市で日々使われ、排出される紙こそが<都会の森林>であるというコンセプトです。我々の物流網を活用し、『ミドリの福袋』と呼んでいる専用の袋でお客様から紙ゴミを回収し、製紙メーカーで再生紙として生まれ変わらせることで、地産地消型の循環を創り出しています。
(※2)都市鉱山:使用済みの家電製品や携帯電話、パソコンなどの電子機器に大量に含まれる金、銀、レアメタルなどの貴重な金属を、「鉱山」に見立てて資源として捉える考え方。
この取り組みは、主に小規模な印刷会社やデザイナーなど、紙ゴミの処理に困っている事業者の課題を解決する道筋を示した。廃紙の量が少ないため、従来の古紙回収業者だと引き取りを嫌がるケースが多かった。だが、配送ルートを活用して無料で回収する仕組みをつくったことで、そういった問題が解決できるという。
この『都会の森林』の考え方に共感してくださるお客様が増え、回収量は年々増加しています。年間約1200トン(例えば乗用車で約2100台分)の紙を回収しており、前年比で20~30%増加しています。
『都会の森林ペーパー』から出来たカレンダー
100の新規事業、そして「紙の民主化」へ
丸楽紙業の行動指針四箇条として「考える」「当たり前を当たり前に行う」「当たり前を疑う」「変化を楽しむ」がある。これに基づいて、丸楽紙業が求める人物について尋ねた。
当社で働く人材に求めることは3点あります。第一に「社会と会社のルールを守ること」。第二に「挨拶から始まる礼節」を重んじること。挨拶はコミュニケーションの基本であり、報告・連絡・相談にも繋がる最も重要な要素だと考えています。そして第三に「先輩や上司から言われたことに対して、積極的な行動ができるか」です。3日連続でやると『行動』になり、3週間続けたら『継続』、さらに3カ月続けたら『習慣』になると定義して、結果だけでなく、まずは積極的に行動することを重視しています
。また『豊かな人生の上に良い仕事がある』ということも大切にしています。仕事を通じて得られるノウハウや人間関係が、従業員一人ひとりの人生を豊かにすることに繋がるべきだと考えているのです。
現在51歳の杉山氏は、60歳までに100個の事業にチャレンジしたいという。丸楽として今後の展望と目標を聞いた。
個人の目標としては、60歳までに100の事業にチャレンジしたいと考えています。これまでに30弱の事業を立ち上げ、現在8つが残っています。この確率でいけば、最終的には20程度の事業が残り、それぞれが5億円程度の売上を上げれば、合計で100億円規模の企業グループになる計算です。しかし、売上高だけが目標ではありません。社長の職責は『事業の創造と雇用の創出』と考えていますから、新たな事業を生み出し、そこで雇用を守り、創出していくことを重視しています。
そして、私が提唱したいのが『紙の民主化』です。
多くの人は紙というと白いコピー用紙をイメージしますが、実際には色や質感、光沢など、非常に多様な種類の紙が存在します。イタリアやフランスなどのEU圏では、特殊なステーショナリー(事務用品)文化が根付いており、紙が単なる情報伝達の媒体ではなく、文化的な素材として認識されています。
日本の製紙メーカーも素晴らしい特殊紙を製造していますが、その多様性や価値が一般に広く知られていません。私は、デジタルの手法を積極的に活用し、SNSなども通じて、こうした紙の多様性や魅力を多くの人に知ってもらいたいのです。紙は白いだけでなく、様々な表情を持つ素晴らしい素材であることを知らしめ、その価値を広めること、つまり『民主化』が私の使命だと感じています。
デジタル化の波を乗りこなし、紙の新たな価値を創造する丸楽紙業。
杉山氏が掲げる『紙の民主化』は、単なるビジネスに留まらない。その語る言葉の端々からは「紙」に対する並々ならぬ愛が溢れ、多様な紙の魅力を再発見し、持続可能な社会を築くための挑戦がうかがえる。
情報伝達の主役がデジタルへと移りゆく時代だからこそ、紙が持つ温かみや質感、そして再生される循環の尊さが、より一層輝きを増すだろう。