EOP合同会社 / 代表 田伏 彩乃 氏
誰も予想ができないマイナスからのスタート・・・。十三で「立ち呑み処 ハチハチ」「スタンド ハチハチ」をはじめ、飲食店を中心に複数店舗を経営するEOP合同会社。こちらの女性社長である田伏彩乃氏の船出は、猛烈な逆風に晒されてのものだった。

将来的に永住を見据えて、ワーキングホリデーでオーストラリアに渡っていた。1年が過ぎ、翌年も続けるつもりで一時帰国していたときに、旧知の男性から食事に誘われる。これが田伏氏のその後の運命を、大きく変えることになった。
その方はもともとはマスコミ関係の仕事をされていたそうで、優しいおじさんみたいな感じでした。飲食店のオーナーで、『いずれ海外に出店してあげるから、いっしょに働かないか』と誘われて、それがきっかけで、立ち飲み屋の店長として雇われました。そこで5年働いたころに、立ち退きで店が移転することになったんです
オーナーはそのタイミングで複数の店舗経営を考え、法人化することを提案。しかし事情があってオーナーでは契約ができないので、田伏氏が法人の代表になって新たにオーナーになった。
そのときはちょっとテンションが上がってしまって、代表になりますと言って全部の契約を私名義でしました。当時の給料は25万円くらいでしたが、設立の資本金も私が支払いました
肩書きこそ代表だが、運営の権限は前オーナーがにぎったままという歪な形。それに少なからずの疑問は抱いたが、それよりも店の経営を軌道に乗せることが先にあった。しかし移転したことで馴染みのお客さんが離れたこともあって店の経営は苦戦し、毎月の支払いに困窮するまでになる。にも関わらず、前オーナーはなにかと理由をつけて金をむせびり取る。やがて要求に応えられなくなると、今度は「銀行で借りてきてくれないか」とまで。さすがにもう、不信感は拭えなくなっていた。
本当に大丈夫なのかなと、怖くなったので、会社経営をされている知り合いに相談をしたんです。そうしたら『それはおかしいから、もう自分でやった方がいいんじゃないか』と。それで前オーナーから、店を買い取ろうと決めました。そもそも私が代表で、法人設立のお金も全部出しているのに、前オーナーから買い取るというのもおかしな話なのですが、そうしないと事態が好転しない状態だったんです
難航の末に店の買取が成立、
その直後に、まさかのコロナ禍
前オーナーとの話し合いは、難航に難航を重ねた。最初の話し合いから短くはない時間が過ぎてようやく、前オーナーに暖簾代を支払うことで解決する。法人設立に支払った費用と店の赤字などを含めると、想像を超えるマイナスからのスタートになった。だが苦難は、それだけではなかった。リスタートを切ってほどなく、突如としてコロナ禍が起こってしまう。飲食店は休業を余儀なくされ、大きなダメージを被る。EOP社に吹いていた逆風はさらに勢力を増し、それはまるで暴風のようだった。

これまでにいっぱい嫌な思いをして、しんどい話し合いもして、お金を借りてやっとこれからというときでしたから。コロナ禍になって、ほんまに絶望しました。果てしない、闇でしたね
田伏氏は目一杯、落ち込んだ。そんな毎日を過ごしているうちに、いつしかやり場のない怒りが胸の内に充満してきた。
コロナで緊急事態宣言が出て、初めは補償もないと知って、すごくムカついてきたんです。それまでは不幸な自分に浸っていましたが、緊急事態宣言で店を1週間閉めたときに『こんなん、おかしい!』とすごく腹が立って。あれほど大変な思いをして店を買い取ったのに、なんでさらに不幸にならなアカンねんと思いましたね
ただこの心の底からの怒りが、自らを奮い立たせる原動力になった。そして店を開けられなかった期間を利用し、これまで忙しくて手をつけられなかった事柄に着手することとなる。そのひとつが、メニューの改革だ。
もともとガールズバーから立ち飲み居酒屋に業態変更をしたので、料理があまりなかったんです。でき合いのものを出すだけといった感じだったので、もっと料理を出したいと強く思っていました。私たちは料理ができないけど、主婦の人たちは家で料理をしているわけだし、ネットにレシピサイトもある。『私らだって、できるはず!』って感じで、店を再開してから料理を出してみたのですが、最初は美味しくないことも多々ありました
それでもめげずに、挑戦を続ける。するといつしか、客からの反応が変わっていった。

最初は申し訳ないですが、お客さんにとっては『なに、これ?』みたいなこともたくさんあったと思うんです。だけどやっていくうちに、頑張っている姿を見てくれている常連さんたちは、応援スタイルに変わっていきました。頑張ってやっていたら、お客さんで料理人の人とか、教えてくれる人たちが増えてきたんです。知り合いで梅田・福島エリアで焼き鳥屋をされている方も、何度もうちの店に通って教えてくれたり、またその方のお店で焼き鳥の修業にも行かせてもらいました

そうして料理メニューが充実してくると、思わぬ副産物も生まれた。
だんだんと、客層が良くなっていったんです。以前はお客さんがガールズバーの延長の感じで来るので、体を触られたり、下ネタを聞かされたりするのは日常茶飯事。警察を呼ぶこともありました。だけどちゃんとした料理を出していくうちに、ご飯も食べられる店みたいな感じになっていって、女性のお客さんも増えてきました

現在は十三エリアで6店を出店。今後の目標は
さらなる出店と、女性が輝ける環境作り
そこから焼き鳥店、カラオケ店など、現在は十三エリアで6店を出店と拡大。コロナ禍もパワフルに乗り越え、ふりかかった相当な負債を完済した。これからの目標はさらなる出店であり、そのために居酒屋の経営を実地で学べる学校を作りたいと考えている。

うちの今ある業態で、たとえば店長になっていくのか、マネージャーになるのか。あるいは、ほかの人たちと社内独立して自分でハチハチをやるのか。そういう人たちの道筋を作っていきたいと思っています。常連さんがいるのと、ドミナント(※1)でやっているのが私たちの強み。そんな常連さんがいたからコロナの時期も売り上げが落ち込まず、逆に上がりましたし、季節に関係なく売り上げがあるのも、応援してくれる常連さんがいるから。そういったノウハウなどを教える場所を作って、自分の店を出せる環境にしたいなと思っています
※1 ドミナント戦略とはマーケット的にいうと、小売業が特定の地域に店舗を集中させて経営効率を高め、地域内でのシェアを拡大することを狙う戦略。
田伏氏は、とくに対象にしたいのは、女性だという。
女性は、ライフステージがたくさんあるじゃないですか。今もうちには出産して、育休を取っているコがいます。彼女はマネージャーでしたが、時間が空いてしまうと戻ってきても、そのときの状況で以前と同じポジションに入れるかはわからない。それで辞めていった子は、今までに何人もいます。私が買い取る前は出産しても働きたいけど、辞めるしかないという感じでした。でもこれからはキャリアを積んでもっと働きたいと思っているのに、諦めるしかなかったという問題を解決したいんです
さらに田伏氏の話は、熱を帯びてなお続く。

自分が経営者としてお店を持っていれば、その問題は生まれませんよね。私はEOPを、女性の未来を輝かせる会社にしたいと思ってます。EOPが作る学校みたいな店舗で飲食店経営を学んでもらって、自分のお店を出してもらってもいい。自社でも、もっと出店していくつもりですし、そこから独立してもらってもいい。そうして育っていった人が、またどこかでハチハチの屋号でお店を出す。そうやって、広げていきたいなと考えています
難航した買取交渉と、直後に降りかかったコロナ禍はとことん落ち込んだ。しかし、本来田伏氏は前向きな女性。今後の会社と店舗の成長は、自身の進歩にも関わっていることを自覚している。そのために心がけているのは毎日、自分がポジティヴになるスイッチを入れること。
つねにご機嫌でいないと、何事も上手くいかないと思っているんです。だから朝に起きたら『今日も最高で、最強の1日が始まった』と思って、実際に口にも出しています。それと身の回りは、めちゃくちゃ綺麗にしているんです。いつも自分がご機嫌でいられる環境にいたいので、どこに行っても最高と思えるような場所をいっぱい作っておきたい。とにかく、これまでにいろんなことがあり過ぎたので、今ではどんなことも前向きに捉えることができるようになりましたね
自社の店舗展開を拡大し、女性が活躍できる環境を作る。猛烈な逆風を乗り越えた女性社長はそれを目指して、今日も最高で最強な1日をはじめる。
