株式会社 ジンジブ / 代表取締役社長 佐々木満秀 氏
高校卒業で社会に出た自身の原体験から、「高校生にも自由な就職活動を」と願い、道を切り拓いてきた株式会社ジンジブ代表 佐々木満秀氏。
3年半前の初回取材では、創業の経緯やビジネスの立ち上げ方、将来の展望について聞いた。
★『オオサカジン』記事 https://shacho.osakazine.net/e732441.html
あれから同社は採用、定着、第2新卒、人事全般の支援などの領域にも取り組みを広げている。
上場も果たした今、現場の変化と課題をどう見ているのか。
今回は、高校生の就職活動(就活)環境の現在地、学校・企業を結ぶ新たな取り組み、採用後の定着支援、さらには上場後の挑戦 ── 未来に向けた本音を語ってもらった。

高校生の就活に「選ぶ自由」を! 制度の壁を越え、広がる進路の選択肢
前回の取材のときが2、3歩進んだぐらいだったとしたら、今は4、5歩進んだ感じですね。
佐々木氏がそう語るように、前回取材した3年半前と比べ、高校生の就活環境は少しずつ変化してきた。
学校あっせんによる一人一社制(※1)が根強く残る一方で、ジンジブのような民間サービスを活用して応募前に複数の企業を知る動きも広がっている。
(※1)一人一社制:高卒採用において、高校生が就職活動を行う際に、応募できる企業を原則として一社に制限する制度。因みに大阪府は2022年に一人二社制を導入。一人三社制を敷いてる県もあり、全国的に変化してきている。
少しずつではありますが、高校生が選べるような就活環境になってきていますし、高校生の採用をしようという企業数も増えてきている。これまでは接点のなかったベンチャー企業やホワイトカラー業種にも道が開かれ始めています。
ジンジブの主力事業は、高校生向けの新卒求人サイト「ジョブドラフトNavi」と、全国各地で開催される合同企業説明会「ジョブドラフトFes」である。
求人票だけでは伝わりにくい企業の魅力を写真や動画で伝えたり、直接話せる機会を設けたりすることで、情報不足からくるミスマッチを減らすことを目指している。さらに、キャリア教育事業「ジョブドラフトCareer」などを通じて、早期からの進路意識の醸成にも取り組む。

【コラム】高卒就活のしくみ
高校生の就職活動には、大学生とは異なる独自のルールがある。
代表的なのが「一人一社制」だ。これは、就職希望の生徒が応募できる企業を一定の期間原則一社に絞るというもので、ほとんどの地域で採用されている。学業との両立をしやすくする反面、内定辞退がしづらく、選択肢を広げにくい側面もある。
企業は求人票を高校に提出し、それをもとに先生が就職先をあっせんする。求人票に記載された情報は限られており、職場の雰囲気や働き方などの実像が見えづらいのが現状だ。
また、求人票の公開から応募までの期間はおよそ1か月半~2か月程度と短く、十分な情報収集や比較検討をする時間は限られる。そのため、自分の希望や適性と合わないまま就職を決めるケースも少なくない。
時代の移り変わりとともに、こうした制度の見直しを求める声は年々強まっている。
佐々木氏は高卒で社会に出た経験から、既存制度への課題意識を持ち続けてきた。
僕らが目指しているのは、大学生と同じく、高校生もエリアや業界の制約なく「自由恋愛」のように自分で行き先を選べる就活環境。全国の高校生が自由に選べる環境もあったらいいなと思っています。
ジンジブは、自ら選び、失敗してもまた選び直せる…… そんな自己選択型の就活文化を広げるべく、全国での活動を展開している。
「先生Fes」で教育現場に変化を。企業とつながる先生が、就活を変えていく
高校生の就活において重要な役割を担うのが、進路指導を行う先生たちだ。
ジンジブでは支援策として、企業と高校教員が一堂に会する交流の場「先生Fes」を実施する。
その背景は?
学校あっせんに依存する仕組みの中で、キャリアに対しての知識や経験があまりない先生もいらっしゃいます。もちろん勉強されている方もいらっしゃいますが、民間企業で働いたことのある先生は少ない。でも、実際の企業のことを知っていただければ、生徒たちにも多様な選択肢を届けられますよね。
一方、企業側は従来、各高校に個別訪問して求人票を届ける必要があり、アポイントや移動の手間が大きな負担となっていた。そこでジンジブは、双方が効率的に出会える場を設けることで、負担軽減と理解促進の両立を図ったのだ。
「先生Fes」の開催により、「これまで面識のなかった企業とのご縁をいただけた」「先生に仕事を体験してもらうことで、学校での説明以上に業務内容を知ってもらえた」と、満足度の高い反応が寄せられているという。
こうしたイベントは、都市部だけでなく地方にも広がっている。
ジンジブは現在、大阪本社を含む全国10拠点を構え、新潟や岡山などの地方都市にも支店を展開する。
大阪と比べると地方のほうが進学率が低く、高卒で就職を選ぶ方たちの割合は高い傾向があります。「全国の高校生が自由に就職先を選べる」環境づくりをするためにも、地方の高卒で働く若者をサポートしなければ。
企業数が限られる地方においても、人手不足に悩む中小企業にとって高卒採用への関心は高く、地域単位でのマッチング支援が求められているのだ。
「先生Fes」開催風景
“人事部がない” 中小企業にこそ届けたい、採用から定着を支える仕組み
今、人材の採用がめちゃくちゃ大変だということは皆さんもよく分かっていると思います。でも、それ以上に大変なのが、“採用した人材の定着”なんですよ。
中小企業では人事部門の専任者が少なく、他の業務と兼任しているケースが多い。「採用しても、その後の教育や評価、福利厚生の整備まで手が回らない」という声に応え、ジンジブが2024年9月に始動させたのが「人事部パック」だ。
採用から教育、定着、育成、評価、福利厚生までを一括してアウトソーシングできるこのサービスでは、企業ごとにジンジブの担当者が企業の「採用」「教育」「評価」「定着」といった人事戦略を総合的にサポートし運営を支援する。
やっぱり辞めるか辞めないかというのは、成長実感があるかどうかや、評価されることややりがいがあるかどうかが左右するんです。加えて福利厚生面などの安心感を持ってもらえなければ、特に若い子たちは会社に定着していかない。

更に、ジンジブでは「高卒の社会人1年目の壁」(※2)に着目し、定着支援の別軸として「ルーキーズクラブ」も展開している。社外の新卒社員同士が関わりを持つことで、悩みを共有し、孤立を防ぐサービスだ。
(※2)高卒の社会人1年目の壁:新卒社員が社会に出て最初に直面するさまざまな困難やギャップのこと。高卒や大卒を問わず、初めてフルタイムで働く若者にとって、この時期は離職率が高くなる。厚生労働省によると社会人1年未満の高卒新卒者の離職率は17.4%と大卒者の10.9%と比較しても高い。
社会人1年目って、体も心も慣れてないんですよね。学校生活の経験から毎朝起きることはできても、ずっと仕事をする生活は慣れなくてしんどいもの。この1年目をどう支えるかが、定着に効いてくるのです。
このような“かゆいところに手が届く”サービスが生まれる背景には、広告代理店で企画畑を歩んできた経験のある佐々木氏自身の発想力がある。加えて、現場社員や役員、幹部からのアイデアを吸い上げてサービス化につなげる仕組みが社内に根づいているのだ。

「生きる人の夢を増やす」若者支援企業の覚悟
2024年3月に上場し、認知度の上昇にともない、高校生の就職活動の環境変化にもインパクトを与えているジンジブ。しかし、佐々木氏は会社の成長にはまだまだ納得していないという。
信用や信頼が得られるようになった分、コンプライアンス(法令遵守)やガバナンス(企業統治)など、上場企業の責任として、守るべきことがあります。やりたいことを“やりたい時に、やりたいように”できる環境かというと、そうではありません。
しかし、だからといって、守りに入るつもりはありません。僕らの「これからを生きる人の夢を増やす」というパーパス(存在意義)に外れないなら、思い切って挑戦していこうと考えています。
上場したからこそできることも増えている。世の中の中小企業や高校、高校生のためになることであれば、「これからもどんどん挑戦する覚悟」だと語った。
学校現場での指導だけでは補いきれない、「お金の教育」や「人間関係の築き方」、「働くって何?」など、そういう根っこの部分を教えていく場が、もっとたくさんあってもいいんちゃうかな。AIが当たり前の時代になってきたからこそ、人としての魅力があることが重要だと思います。
そんなジンジブの社内も、まさに次世代の実験場だ。
全体の平均年齢も若く、毎年迎える新卒の社員のうち、半数は高卒なのだ。
18歳の子が一生懸命働く姿を見ていると、子どもが生まれた時のような感覚になる。僕らももっと頑張ろうって思えるんです。
大学生と同じく、高校生もエリアや業界の制約なく「自由恋愛」のように自分で行き先を選べる就活環境を作るべく、進化を続けるジンジブ。
「自由恋愛にも失恋はある。しかし自分で選んだ経験は必ず財産になる」──佐々木氏の言葉には、高校生たちが未来を自ら切り拓くことへの、力強いエールが込められていた。

