三恵メリヤス株式会社 / 代表取締役社長 三木 健 氏
「日本のものづくりを、世界基準で届けたい!」
そんな思いを胸に、町工場の4代目社長は未知の挑戦に飛び込んだ。
大阪市の老舗縫製メーカー 三恵メリヤス株式会社で代表取締役社長 三木 健氏には、2年半前の取材で、事業承継の経緯や自ら立ち上げたブランド「EIJI」に込めた想いを聞いた。
★『オオサカジン』記事 https://shacho.osakazine.net/e745744.html
今回はその続編として、世界的なオーガニック認証「GOTS」取得(下記参照)までの道のりに迫る。
自社を含め9社の町工場を束ね、世界初のスキーム(下記(※1)参照)での認証を実現した舞台裏には、三木氏の静かな闘志と、ものづくりへの強い覚悟があった。
【GOTS(ゴッツ)とは?】
GOTS(Global Organic Textile Standard)は、オーガニック繊維の国際認証制度で、綿・ウール・麻などの天然繊維が、栽培から加工・流通・最終製品に至るまで“本当にオーガニックであるか”を保証する世界共通のルール。
70%以上がオーガニック原料であることが条件で、原料の混入防止や労働環境への配慮、化学薬品の使用制限など、厳しい基準をすべての工程でクリアする必要がある。大量生産工場が一貫して対応できる欧州・インド・中国に比べ、分業型の日本では取得が難しく、これまで実例が少なかった。
町工場の技術を世界へ届ける!オーガニック製品への矜持
大阪市の梅田エリアに工房を構え、まもなく創業100年を迎える縫製メーカー 三恵メリヤス株式会社。
旧式のミシンを用いた職人による丁寧な縫製を強みに、少数精鋭の体制で高品質な製品づくりを続けている。
特筆すべきは、その製品力に裏打ちされた受注状況だ。近年では海外からの注文が増加し、売上全体の3〜4割を海外が占めるまでに成長している。
特に評価が高まっているのが、リユースコットンを使用した製品群。綿を作るときに出る“落ち綿”を集めて、もう一度糸にして。それをうまく活かした製品が、サステナブル(持続可能)な視点が求められるヨーロッパの市場で支持を得ているのです。
海外からの視察も絶えない
三木氏が大学時代に立ち上げた留学支援事業で成功した後、家業に戻ったのは、「町工場の技術と価値を守りたい」という思いからだった。
そうした中で立ち上げたのが、複数の町工場と連携して製品づくりを行うブランド「EIJI」だ。
染めや縫製、仕上げなど、各工程の職人たちとタッグを組み、最高級オーガニックコットンを使って仕上げたTシャツは、1枚1万円超という価格にも関わらず、“人生最高の1着”として国内外から高い評価を得ている。

「EIJI」で人生一番の着心地を
しかし、三木氏の挑戦はこれで終わらなかった。
「町工場が生き残っていくには、世界基準の信頼が必要」と考えたのです。そこで乗り出したのが、GOTS認証の取得でした。
町工場の技術と誇りを未来へつなぐための、さらなる挑戦が始まった。
「無理かもしれない」から始まった、世界基準への一歩
三木氏がGOTS認証に挑戦することになったきっかけは、ある日GOTS関係者から届いた一通の連絡だった。
「中小企業でもGOTSを取得できる、新たな仕組みが立ち上がる予定です。興味はありますか?」と。
もしかすると、日本の町工場が世界と対等に渡り合うチャンスかもしれない!と感じましたね。
当時の三木氏も、当然GOTSの存在は知っていたが、「自分たちのような町工場が取得できるものではない」と思い込んでいた。
しかし、その連絡の中で提案されていたのは、複数の20名以下の小規模工場が、一つの「管理された供給網」としてGOTS認証を受けるというCSCSという新しい仕組み(※1)。その提案は、これまで大企業にしか開かれていなかった扉が、町工場にも広がる可能性を示していた。
(※1)CSCSという新しい仕組み:CSCS(Controlled Supply Chain Scheme)は小規模事業者がGOTS認証を取得するハードルを下げるために開発された枠組み。これは、最低8社、最大30社で構成され、各社の従業員が20人以下であるサプライチェーンを、内部監査とグループ認証でGOTS認証を取得できるようにしたもの。
「もし自分たちにも可能なら、ぜひやってみたい」。
そう返事をした後に待っていたのは、不安の連続だった。
届いた書類はすべて英語。内容は化学物質の規制から排水処理、人権配慮に至るまで広範囲に及ぶため、海外経験のある三木氏にとっても、右も左も分からない状態だったと振り返る。
GOTSのことをネットで調べても何も出てこないし、同業者に相談しても「GOTSは難しいからOCS(※2)にした」と言われるばかりで。あぁ、やっぱりうちじゃ無理なんか……と思いました。
(※2)OCS(Organic Content Standard):オーガニック原料の「含有量」のみを認証する制度で、製造過程の環境保護・労働環境・化学物質の使用制限などはチェックされない。製品に含まれるオーガニック原料が5%以上であれば対象となる。
制度のハードルの高さに尻込みしながらも、「これはやってみる価値がある」と徐々に考えを切り替えていった。
GOTSは環境や人権への配慮を求める制度でもあるが、三木氏はそれを「義務」ではなく「工場を良くする機会」だと捉えたのだ。
そのうえで三木氏がまず向き合ったのは、社員との対話だった。
製造現場で働くスタッフたちにとっては、GOTSという言葉すら初耳で、「なにそれ?」という反応が返ってきたのも無理はない。いきなり記録作業や監査対応を求めても、納得は得られないだろう。だからこそ、「どうしてやるのか」「何のためにやるのか」を丁寧に伝える必要があった。
たとえGOTS認証に落ちたとしても、工場は絶対に良くなる。記録をつけるのも、整理整頓を進めるのも、すべて自分たちのためになる。「どうせやるなら、意味のあるかたちでやろう」と、社員たちに繰り返し伝えました。“世界基準の工場”として認められたら理想だけど、そうじゃなくても工場がレベルアップするなら意味があるんや、って。
並行して、職場環境の改善にも着手した。
現在、社員の男女比が半々になった状況では、時代に合わせて使い勝手の悪かった女性用トイレには個室の仕切りを設け、2人同時に使えるように。電気コンセント付きの休憩スペースも整えた。制度に適応するためではなく、「社員が気持ちよく働ける場所をつくる」ことが信頼づくりの第一歩だと考えたからだ。
最初は戸惑いを見せる社員も多かったというが、「自分たちの職場が良くなっている」という実感とともに、徐々にプロジェクトへの協力体制が整っていった。
生産者と一緒に議論しながらの物作り
“世界で通用する仕事”を証明する!仲間と挑んだGOTS認証取得
GOTS認証は、原料から製品完成までのすべての工程が管理されなければ成立しない。
三木氏が次に取り組んだのは、共にGOTS認証を目指す外部の協力工場をまとめることだった。
糸作り、編み立て、染色、縫製、仕上げ…… 各工程を担当する8社の町工場に、協力を呼びかける必要があった。
まったく関係のない新しい取引先ではなく、これまでブランド「EIJI」の立ち上げから共にものづくりを支えてきた、信頼関係のある町工場の仲間たちである。だからこそ話を持ちかける土台はあったが、「GOTSに取り組みたい」と伝えた当初、口々に返ってきたのは困惑の声だった。
一番心配していたのは、「もし自分の工場のせいで審査に落ちたらどうしよう」ということなんです。「自分のところなんて大した会社じゃないし、他社に迷惑かけたくないから参加せんほうがええかも」と。
めっちゃくちゃ真面目な人たちなんですよ、みなさん。だから僕は言ったんです。
「失敗しても大丈夫だし、設備投資もいりません。ただ、ちゃんと記録をつけるとか、整理整頓してスペースをつくるとか、そういうことを一緒にやりませんか!工場の掃除も僕らが手伝いますよ」って。
協力工場に一軒一軒足を運び、三木氏は「既にあなたたちの仕事の品質は、世界で通用するレベルだ」と、数か月にわたり説得を続けた。
オーガニックの認証だからといって、特別なことを求めてるわけじゃない。みんな真面目にやってるし、外国人を不当に働かせてるとか、そういう問題とは無縁なんですよ。ただ、やってることを“きちんとと見えるようにする”というだけなのです。
やがて8社は「三恵(メリヤス)さんがそこまで言うなら」と協力を決意し、GOTS日本と連携を取りながら厳しい監査を乗り越えていった。
日頃から誠実なものづくりを積み重ねてきた工場ばかりだったため、求められた記録の整備も大きな壁にはならなかった。
そしてついに、世界で初めて、CSCSスキームによるGOTS認証を成し遂げる。
GOTSが取れたと社内で発表したとき、若い社員が思わず「やったー!」と声を上げたんです。あの瞬間の言葉は、今でも忘れられません。
通常業務に加えてGOTSの準備をするのは大きな手間だし、正直しんどかったはずなんです。それでもやり切ってくれた。制度がどうとかだけじゃなくて、「この工場を一緒に良くしたい」という思いがあったからこそ出た言葉やと思うんです。何の「やったー!」かなんていちいち聞かないけど、僕はすごく嬉しかったですね。
三恵メリヤスと協力工場による挑戦は、町工場にも世界基準をクリアできるという、強いメッセージを発信することになった。

奇跡を生んだメンバー
日本のものづくりを次のステージへ。GOTS認証が拓く、製造業の未来
“ オーガニック ”は、日本が世界に出ていくための切り札になると思っています。高品質な日本のものづくりは世界から信頼を集めているのに、GOTSのような国際認証がないという理由だけで、日本製が選ばれないケースもあるのです。ちゃんとした基準で、世界と同じ土俵に立てれば、まだまだ輸出量を増やすチャンスがあるはずです。
認証取得までには多くの時間と費用がかかったが、三木氏は「頑張った分だけ、日本のものづくりや業界に恩返しできる」と静かに語り、その表情には充実感がにじんでいた。
長らく課題だった“白”のオーガニック製品化も、ついに実現する。
認証に対応する漂白方法を突き止めたことで、生成り(天然素材そのままの色。わずかに黄色みがかった白や、アイボリーに似た色合い)一色だったオーガニック製品に白色の選択肢が加わったのだ。今後はさらにカラーバリエーションを増やし、より多くの人にオーガニック製品を楽しんでもらえるよう、展開を構想している。
自分の会社だけ良ければいいとは思っていません。業界全体で協力して、みんなでリターンを受けられるような仕組みにしていきたい。
GOTS認証によって得たノウハウを他の町工場にも惜しみなく共有し、日本製オーガニック製品の可能性をさらに広げようとしている三木氏。町工場を起点にしたサステナブルなものづくりは、今、新たなフェーズへと歩みを進めている。
洋服の為に洗剤まで作った