森製紐(ちゅう)株式会社 代表取締役社長 / 森真彦 氏
「紐(ひも)」を商って70余年。創業当時はゴム入り織物や伸縮性のある織物を扱っていたが、時代の移り変わりとともに世の中のニーズも変化してきた。それに合わせて製品のラインナップを拡大し、現在ではオリジナル商品も多数展開している。
「ハットストラップ」は、昆虫の世界では最強といわれるオニヤンマを模して虫よけ効果を狙うという発想から生まれ、薬剤を使用しない虫よけとして注目されている。また、大阪・関西万博のマスコットキャラクター ミャクミャクの青・赤・白をモチーフにした「あやとりひも万博セット」は、従来から人気のあった「結び目のないあやとりひも」の新作として、大阪・関西万博の開幕に合わせて発表された。
「紐」だけにとどまらない森製紐(ちゅう)株式会社について、代表取締役社長の森真彦氏と弟で常務取締役の森善真氏に聞く。

軍隊時代 上官との縁から始まった「紐」業界への第一歩
Q:終戦から7年が経った1952年の創業から今年で73年目ですが、創業者の森登一氏は、どのような経緯で「紐」を事業化なさったのでしょうか。
登一は私どもの祖父でして、戦時中は従軍しておりました。非常に達筆だったことが幸いして比較的後方の業務に従事していたため、前線に出ることはなかったそうです。終戦になり、京都で丁稚奉公をすることが決まっていたそうです。でも、復員する際に当時の上官から「うちの仕事を手伝わないか」と声をかけられたことがきっかけで、ゴム紐の業界に入ったと聞いております。
Q:はじめは元上官の会社で修業時代を過ごされていたのですね?
ところが、その元上官の会社が倒産してしまいました。当時、祖父のほかに番頭さんや先輩らが3人いて、それぞれ独立することになったそうです。扱っていた商品のうち売れ筋を上の人たちに取られてしまい、祖父に残されたのは当時あまり人気のなかった分野のカラフルな細いゴムでした。ですから今も弊社の製品にカラフルなものが多いは、その流れを汲んでいるのでしょうかね(笑)。
そんな経緯があったとはいえ、それが今に繋がっていることを考えると、人生は何が幸いするか分からない。
一口に「紐」といっても千差万別で製品ラインナップも多岐に
1952年に森登一氏が「森製紐」を創業。1963年には株式会社となった。
創業から一貫して紐やゴム製品を専門に扱い、主にベルト、サスペンダー、各種テープ製品をBtoB(企業間取引)で扱ってきた。素材を卸したり、自社で開発・製品化したり、売り方にはこだわらなかった。
善真氏:会社を設立した当初は、ゴム入り織物や伸縮性のある織物を扱っていましたが、時代とともに製品ラインを拡大し、現在では多様なオリジナル商品を展開しています。
初期の頃にヒットした商品は、靴下用のガーターベルトだった。当時の靴下は現在のように伸縮性がなかったため、歩いているうちにずり落ちてきた。それを解決するため、ふくらはぎにゴムのベルトを巻き、靴下を上から吊ってずり落ちを防ぐアイテムをつくったところ大ヒットしたという。
やがて、靴下にパンティーストッキングの技術が応用されて、ずり落ちない靴下が出回るようになって、ガーターベルトの需要が激減しました。売り上げも落ちて、どうしようか考えていたときに、取引先から「頭の先から足の先まで見渡したら、需要はあるはず」とアドバイスを受けたと聞いています。
足元のガーターベルトから少し目線をあげて腰のベルト、女性が髪をまとめるヘアバンド、当時の第2次ベビーブームに乗っかって子供用の靴やサスペンダーなど、様々な需要を発見していった。
子供用のサスペンダーは、数が出たようです。腰のベルトもヘアバンドも、元の材料は同じなんですよ。使う場所によって形を変えたら需要が生まれて、また同じお客様にお買い上げいただくこともありました。
物を結束したり吊り下げたりして私たちの生活を補助するアイテムとして欠かせない「紐」は、おそらくこの世に生み出されたときから、その姿を変えていない生活用品だ。縄文時代の遺跡からは、素材こそ違うが現代の紐とほぼ同じ形状の紐が出土されている。
こういうアイテムって、たぶん他にないのではないでしょうか。今しきりに、人間の仕事がAI(人工知能)に奪われるという話を聞きますけど、AIが紐に替われるとは想像しづらいですし(笑)。
アイデア次第では、まだまだ紐の可能性は広がりそうだ。だが、多くのアイテムを扱う森製紐には、開発部門がないという。
社員数16人の会社で企画部署を持てない事情もあるんですが、普段の生活から気づくちょっとした困りごとにヒントを得ることが多いですね。
それは先述した靴下用のガーターベルトに始まって、書籍を束ねるテキストブロック、帽子が風で飛ばされるのを防ぐホルダーなど。「ちょっと、こんなのがあったら助かるかも」というアイテムを、社員から出されたアイデアをもとに開発・製品化してきた。
薬剤を使わないで虫をよけられる「ハットストラップ」は注目度抜群!
社員から寄せられたアイデアで製品化されたアイテムの中で、とりわけ注目度を上げているのが、化学的な薬剤を使わずに虫よけ効果を期待できる「ハットストラップ(ヤンマガード)」だ。
1対1ならスズメバチでさえ避ける昆虫界最強といわれるオニヤンマの尾の部分に着目し、その柄を模したハットストラップだ。ストラップ単体とブッシュハットとのセットが用意されている。
実際に使ってみた方から、本当に虫が寄ってこなかったというお話は伺っています。ご要望にお応えして、新しく子供用もご用意しました。
善真氏:黄色と黒の虎柄のトラロープをご存じですか? 農作業をする方が、トラロープを腰に提げておくと虫が寄ってこないという話が、昔からあるのですよ。学術的な根拠は私どもでは把握していませんが、経験則として効果が知られていたみたいですね。

ブッシュハットにオニヤンマ柄のストラップを取り付けたほか、本体部分にもオニヤンマ柄が刺繍されている。山だけでなく、街中での使用にも耐えるデザインだ。
また、従来からある「結び目のないあやとりひも」の万博カラーも、大阪・関西万博の開幕に合わせて発売されている。
善真氏:あやとりは手先を使いますから、高齢者の認知機能のトレーニングに有効なんです。今年は大阪・関西万博が開幕するので、万博のマスコットキャラクター・ミャクミャクのカラーに合わせて、青・赤・白の「あやとりひも万博セット」を急遽用意しました。

今後は防災・安全関連商品の開発にも力を注ぎたい
Q:会社として今後の展望は?
本当に多岐にわたる製品があるのですが、高齢化社会に対応するため、ご高齢の方に向けたアイデアグッズを開発したいと考え続けています。それと、防災と安全に関わるものですね。
防災と安全に関しては、素材を提供して実際に製品化されたアイテムがある。
これは取引先のアイデアで、弊社が素材を提供しました。避難グッズを持ち出すとき肩にかけられるショルダーベルトなんですが、長さが2mあります。ただ肩にかけるだけなら、50~60cmあれば十分なんですよ。あえて2mにしたのは、たとえばケガをしたときの止血帯とか骨折部位の添え木の固定とか、動けない人を引っ張り上げるとか、他の用途にも使えるようにしてあるのです。
紐やベルトは、アイデアひとつで救命用具にもなる。
最後に会社の理念に掲げられている「真・善・美・健・富・和」について伺った。
『真』は嘘のないこと、『善』は良いことをする、『美』は美しく保つ、『健』は社員とその家族の健康、『富』は収入を得て豊かになること、『和』は全員で協力することを意味しています。
この理念は会社の判断基準となっており、なにか迷いが生じたときは、この理念に立ち返って判断するようにしています。
会社の2階事務所とホームページに掲示されているこの六文字は、創業者・森登一氏の直筆とのこと。
「紐」という一見シンプルな製品カテゴリーでありながら、その用途は非常に多様であり、同社の製品は優に1000を超えるという。
古くからその姿を変えることなく人の営みを支えてきた「紐」は、我々の生活になくてはならない。
これからも時代のニーズに応え続ける同社から、これからどんな製品が生み出されるのか要注目だ。

