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廃業寸前のハンコ屋を救った、愛猫の恩返し
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廃業寸前のハンコ屋を救った、愛猫の恩返し

2026.01.28
株式会社 岡田商会





株式会社 岡田商会 / 常務取締役 岡山 耕二郎 氏


廃業寸前のハンコ屋を救った、愛猫の恩返し

経営難に直面していたハンコ屋が、一匹の猫に救われた。今回は、そんな物語を紹介する。

岡山耕二郎氏は、各種印鑑の制作・販売や印材の卸業などを主事業とする、株式会社岡田商会の常務取締役だ。会社は1980年に父親が創業し、近い将来、岡山氏が事業を引き継ぐことになっている。岡山氏は大学卒業後、すぐに入社した。

学生時代から、アルバイトとして家業に携わっていました。この会社に入ることにしたのは、いくつか理由があります。僕には生まれつき先天性の病気があり、子どものころから外で走り回って遊ぶことはできませんでした。そのため、身体面でやや不安があり、親の元でなら安心だと考えたのがひとつ。もうひとつは、共働きの家庭で両親が常に忙しく働く姿を見て、格好いいな、ああやって打ち込めるのはすごいなと憧れていたんです。小学生のころにはすでに、自分は大きくなったらこの会社に入るのだろうと考えていました


廃業寸前のハンコ屋を救った、愛猫の恩返し
▲ラバースタンプ(ゴム印)の型。岡田商会では昔ながらの鋳造という方法で製造している▲

大学卒業を間近に控え、父親に入社する意思を伝えた。そのときに返ってきた衝撃的な言葉を、今でも忘れていない。

『ウチの業界は斜陽産業だから、覚悟しておけよ』と言われたんです。明確に記憶に残っていて、入る前になんてことを言うんだと思いました(苦笑)。大学の友人もそうでしたね。周りが就職活動をするなかで、『お前はどうするの?』と訊かれて『家業を継ぐ』と答えると、何人かに『絶対にやめたほうがいい。あの業界には将来がない』とはっきり言われました

社会制度のなかでハンコの必要性は減少していくかもしれないが、それが何年後になるかはわからない。一方で、アルバイトで製造していたゴム印は社会制度とは関係がなく、ホビーのように遊びの方向でも発展させられるはずだ――。岡山氏は心のなかで、そう反論していた。

なにをやっても上手くいかない悪戦苦闘の日々。経営の限界が見え、倒産が頭をよぎった



入社後はネット販売部門を任されたが、何をやっても上手くいかない悪戦苦闘の日々が続く。この時期を振り返ると、苦しい記憶しかないという。

とにかく、同業他社との差別化が難しい。僕自身も『ハンコで差別化が図れる商品を作るなんて無理だ』と、可能性を完全にシャットアウトしていました。ネットの世界は簡単に比較されてしまうため、他社より自社製品を選んでもらうには、価格を下げるか、スピード出荷するしか方法がないと思い込んでいたんです。でもそれは、僕たちのような中小事業者には消耗が激しく、現実的に厳しすぎる方法でした

経営が右肩下がりを続けるなか、反転させる術も思いつかない。2015年には、経営難がついに限界に達した。

この年に大きな赤字を出してしまい、入社以来もっとも苦しい状態になりました。このままでは会社が持たないかもしれない。大げさではなく、本当にそう思っていました。真っ暗なトンネルの中で出口も見えずもがいているような、どうすればいいのか自分でもまったくわからない状態でした

これまでの安売りは二度とやってはいけない。やり方を変えなければならないことはわかっていた。だが、具体的にどうすればいいのか……。

僕たちはお客様に買っていただいてナンボの商売です。とにかくお客様に喜んでもらえることをやり続けたら、なんとかなるのではないか。そんなことを、おぼろげながら考えていました


保護猫コタローとの出会いから生まれた新商品「ねこずかん」が、すべてを一変させた



廃業寸前のハンコ屋を救った、愛猫の恩返し
▲岡山さんの愛猫・コタロー。オスの老猫だったが人が大好きな甘えん坊だったという▲

岡山氏が絶望の淵にいたある日、奇跡の種が予期せぬ場所で芽吹いた。

保護猫カフェを運営している友人が大阪店をオープンしたと聞き、妻とお祝いに行ったんです。そこに受付担当の猫がいて、その子がすごく人懐っこく、僕の膝の上に乗ったまま離れなかったんですよ

その猫は腎臓病を患っており、他の猫と一緒に過ごせないため受付を居場所にしていた。自身も持病を抱える岡山氏は、その姿に強いシンパシーを感じたという。

「強烈に印象に残り、その日の夜に妻へ『里親になって引き取らないか』と相談したら、即決でした。本当に可愛くて、もともと犬派だった僕が『犬より人懐っこいのでは』と思うほどでした。そうして彼を引き取ることになったんです」

経営苦のなかで、猫が唯一の癒やしとなった。年齢は10歳ほどで、岡山氏いわく「ブサカワ(※1)」な猫。岡山家に迎え「コタロー」と名付け、新しい生活が始まった。この出会いが、いかにしてハンコと結びついたのか。

※1  「ブサカワ」な猫とは、一見すると「不細工(ぶさいく)」に見えるようなユーモラスな顔立ちをしていながら、それがかえって「愛嬌があって可愛い」と感じさせる猫のことを指します。
コタローと生活するようになって、周囲に猫好きな友人が増えたんです。うちはハンコメーカーですから、少なくともこの人たちに喜んでもらえる商品なら作れるのではないかと考えました。ちょうど社内にイラストが得意なスタッフがいたので、コタローの写真を見せながら『こんな猫ちゃんのイラストシリーズを作りたい』と相談して生まれたのが、『ねこずかん』でした

猫のイラスト入りハンコ「ねこずかん」は、2015年末にリリースされた。岡田商会にとって初めてのオリジナル商品だ。

翌2016年の1月4日に出社して売上を確認すると、たった4本でした。自社のメールマガジンでお知らせしただけでしたが、もっと売れると思っていたので本当にショックでした

だが、落ち込んでいる暇はなかった。岡山氏はすぐに次の一手を打つ。

1月6日にプレスリリース(※2)を配信しました。別の商売をしていた妻が、過去にリリースをきっかけにメディアに取り上げられ、商売を軌道に乗せた経験があったんです。彼女の勧めで、見よう見まねで書いて配信しました

※2  プレスリリースとは、企業や団体が「新しい情報」を、新聞・テレビ・WEBサイトなどのメディア(報道機関)に向けて公式に発表する文書のことです。
たった1本のプレスリリースが、巨大な波を引き起こした。

配信日の夕方、社内がざわつき始めました。スタッフが『ねこずかんが売れています!』と言うのでネットを見に行くと、多くのメディアが取り上げてくださっていた。Twitter(現X)では猫好きの方々が『よくぞこんな商品を出してくれた』と大騒ぎ。そこからは秒刻みで注文が入る状態になり、3日間で約5,000本の注文が殺到しました。真っ暗なトンネルの出口に、光が差し込んだ瞬間でした


廃業寸前のハンコ屋を救った、愛猫の恩返し
▲空前のヒットを記録した猫のはんこ「ねこずかん」。木彫り・黒水牛タイプは銀行にも登録できる▲

トンネルの出口へ導いてくれたのは、コタローだったのかもしれない。

僕は完全に『猫の恩返し』だと思っています。実はコタローは、発売直前の2015年11月に亡くなってしまいました。悲しみに暮れていましたが、その後の爆発的な反響を見て、これはコタローが導いてくれたのだと確信しました。今でもそう信じています


猫を機に、有名キャラとのコラボに発展。コタローが拓いてくれた道を、これからも進む



その後、シリーズは犬、鳥、うさぎなどへ拡大。ヒットに伴い模倣品も現れたが、次なる差別化として取り組んだのがキャラクターとのコラボレーションだ。

自宅近くにある手塚治虫記念館(※3)を訪れた際、手塚先生が日本のアニメ界に与えた影響に胸を打たれました。この素晴らしさを今の若い世代にも伝えたい。うちのハンコで何かできないかと考え、すぐに手塚プロダクションさんへ企画を持ち込みました

※3  手塚治虫記念館(正式名称:宝塚市立手塚治虫記念館)は、兵庫県宝塚市にある「マンガの神様」と称される手塚治虫の生涯と作品をテーマにしたミュージアムです。
この企画は快諾され、商品化に成功。その後も誰もが知る人気キャラクターとのコラボを次々と発表し、いずれも好評を博している。一匹の猫との出会いが、奇跡的なV字回復をもたらしたのだ。近い将来、事業を継承する岡山氏は、どのような未来を描いているのか。

弊社はまだ個人商店のような面が残っています。今後は『家業から企業へ』と転換し、強い組織を作っていきたい。そのためにはまず足元の業務改善が課題です。新しい人が入社したその日から、ある程度業務が進められるような仕組みを整えていきたいですね

そのうえで、「ハンコ屋」という軸足を動かす考えはないという。

ハンコは弊社のコア。これがあるから今の岡田商会があります。今の時代、ハンコは消えゆくものと思われているでしょう。でも、だからこそ面白い。逆風のなかであっても、そんな時代だからこそ価値のあることをやっていきたいですね

深い愛情を注いだコタローとの出会いで、岡山氏と岡田商会の未来は一変した。岡山氏を導いたコタローも、きっと虹の橋(※4)のたもとで、幸せそうにその様子を眺めているはずだ。

※4 猫と虹の橋のくだりについては以下をご参照ください
https://nekoneko-kyokai.jp/rainbowbridge/


株式会社 岡田商会
本社:大阪市淀川区西中島6丁目2番3号217
オフィシャルサイト:https://okada-shokai.co.jp/