大幸企業グループ:有限会社大登・株式会社テサム / 社長 宮田泰三 氏
大阪のビジネスと歓楽街の中心地、梅田から阪急電鉄で一駅(急行)という利便性に優れる街、十三(じゅうそう)には、下町の風情も残っていて、ホッとできる街かもしれない。
その阪急十三駅から徒歩数分の場所で、50年以上親しまれてきた老舗大型キャバレー「グランドサロン十三」を運営しているのが、大幸企業グループの社長、宮田泰三氏だ。
高度成長時代、働く人々の娯楽の場として連日賑わっていた大型キャバレーは、その後ディスコやキャバクラに客をとられ、徐々に衰退していった。全国に数多くあった広くて収容力のあるグランドキャバレーは2010年代には、設備老朽化や収支悪化なども重なり、次々と閉店に追い込まれ、今や全国を見渡しても数店舗しか残っていない。
200席を誇る「グランドサロン十三」はその貴重な建築と豪華な造りで、現存する昭和文化遺産のひとつである。
元JR西日本の鉄道マンである宮田氏は、昭和の雰囲気あふれる煌びやかな空間を守るため、貸会場という新たな手法を導入。大人だけでなく青少年も出入りできる場所として活用を始めた。
JR時代に培った<観光誘致>という考え方がヒントになっている。
更に阪急阪神グループが計画している十三駅と新大阪駅、十三駅と「うめきた」新駅を結ぶ路線の開通に向けて、十三は交通の要衝としての存在感をさらに増していくことが期待されている。
そんな十三の未来も見据えながら、老舗大型キャバレーを守り、事業にイノベーションを仕掛ける宮田氏に話を伺った。

コロナ禍は飛躍への力を貯めた準備期間
宮田氏が2代目としてグランドサロン十三の経営を引き継ぐために入社したのは、コロナ禍が始まった2020年の初頭だ。
程なくして時短や休業の要請が始まった。それまでキャバレーとして大晦日と元旦以外の年間363日間、営業していたというから、その落ち込みぶりの大きさが容易に想像される。
しかし、宮田氏は準備期間としていい時期だったと振り返る。
この先コロナが落ち着いてお客様が戻ってくる時に、いいスタートを切るための準備期間と捉えて、売上のことは気にしませんでした。
私自身、仕事を覚えないといけない時期でもありましたし、老朽化のため建物の色々な所が傷んでいたため、修繕するのにいい期間となり、営業しながらではできない水回りなどの修繕をすることができました。また、キャバレーの料金体系を分かりやすく改めたり、ホステスの報酬体系を、がんばりが反映されるよう整備することにも、じっくりと取り組めました。
コロナで落ち込んだタイミングで事業を引き継げたのは、ある意味ラッキーでした。
右肩上がりの時に入社していたら、スタッフたちは素人の私の声に耳を傾けていなかったかもしれませんね。

「貸会場」として、キャバレーの豪奢空間の可能性を追求
コロナが落ち着いた2021年の秋頃、宮田氏は、キャバレーに加えて貸会場事業を始める。
新卒で入社し約30年勤めたJR西日本で学んだ、温泉などの観光施設をPRして、そこを訪れるために鉄道に乗ってもらうという「観光誘致」の考え方をヒントに考え出した。
この空間は、キャバレーとして常連のお客様に楽しんでもらうだけではもったいない。もっと幅広い年代、さまざまな趣味の方を取り込みたいなあと。素晴らしい舞台が備わり、大きく煌びやかな空間であることを生かして、集客イベントや文化会・撮影会などに活用してもらうことを考えました。
空間を提供する貸会場事業は、キャバレーと違って原価がかからない強みもある。ただ、キャバレーを運営する有限会社大登として貸会場をやる限りは、風営法を守る必要があるため18歳未満が入れないことに気がつく。
そこで、新たに立ち上げた別会社、株式会社テサムが曜日や時間を区切って使用するという形で法律面をクリアし、青少年や子供も出入りできる空間にすることができた。
昨年11月には、高校生が昭和の楽曲を演奏するというユニークなイベント、#Y2Kフェスが行われている。
情報誌の取材をきっかけに付き合いが始まった株式会社ウェルビーイング阪急阪神(※1)が、十三の街おこし事業の一環として企画を持ち込んだのだった。
高校生バンドへの参加の呼びかけをNPO法人「関西軽音楽振興会」が担当し、7校10チームのバンドが参加した。
(※1)株式会社ウェルビーイング阪急阪神:阪急阪神ホールディングスの100%子会社。「健康寿命が延び、幸せな人生をおくることができる沿線」を目指して、「ヘルスケア」・「コミュニティ」の領域における地域課題・社会課題を解決していくことをテーマとしている。
ここで青少年が中心のイベントを開催できて、「グランドサロン十三は健全な空間である」と示せたと思います。当日、客席はかなり埋まり、盛り上がりました。高校生のみなさんは中に入った途端、「こんな空間でできるんだ!」と、歓声が上がっていました。
その他にも企業の周年記念や趣味サークル発表会、同窓会といった貸切利用が増加。音楽ライブや社交ダンス大会などの集客イベント、さらには映画やPRビデオの撮影など様々な活用がなされている。

文化施設の究極を目指し、十三のランドマークに
貸会場としてどんな利用が可能か、現在は顧客の要望に応えているところだが、宮田氏にはどうしても実現させたい企画がある。
昭和40年代に活躍されていた歌手の方や俳優さんは、キャバレーで営業されていたり、キャバレーを舞台にしたドラマに出演されたりしていました。そういう方に当時のことをこの舞台でお話していただくトークショーをぜひやりたいです。
その様子を動画に収録して後世に語り継いでいく。こういったことが昭和を今に伝える文化施設の究極の利用法ではないでしょうか。
グランドサロン十三は、阪急十三駅から徒歩数分で行ける好立地にある。
この十三という街のPRに、阪急阪神グループが力を入れている。
2031年に開業する「なにわ筋線」(※2)に合わせて、阪急電鉄も十三駅と新大阪駅を結ぶ「新大阪連絡線」、十三と「うめきた」を結ぶ「なにわ筋連絡線」の新設を計画しているためだ。
(※2)「なにわ筋線」:2023 年3月に開業したJR大阪駅に新たな地下乗り場「うめきたエリア」と、JR難波駅及び南海本線の新今宮駅をつなぐ路線。
「うめきた」と「新大阪」をつなぐ路線はJRが既設しているにもかかわらず、阪急が自前で十三を通る路線を新設するので、歓楽街のイメージが強い十三を、安心して住める街として宣伝することに力を入れていただいていると思います。
新線が開通すれば、十三の街は交通の要衝としてさらに存在感が高まる。
新たな挑戦を重ねながら、希少な昭和文化を後世に伝え続けている「グランドサロン十三」はその頃、街のランドマークとして確固たる地位を占めていることだろう。
