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デジタル時代に求められる“紙”をつくる  ―老舗封筒メーカーの華麗なる戦略―
製造・メーカー

デジタル時代に求められる“紙”をつくる ―老舗封筒メーカーの華麗なる戦略―

2021.06.11
株式会社 羽車 / 代表取締役社長 杉浦正樹氏

「コロナ禍において、業界的に名刺の売上はかなりの落ち込みでした。しかし弊社の場合、逆に売上を伸ばした商品となったのです」


そう話すのは、「堺市に本社を置く創業100余年の老舗封筒メーカー 株式会社羽車(はぐるま)」3代目代表 杉浦正樹氏。現在は封筒にとどまらず、名刺・カード・パッケージといった紙製品の企画・製造・販売を行っている。
人に直接会う機会が激減したコロナ禍に、なぜ羽車の名刺は売上を増やしたのか?

デジタル時代に求められる“紙”をつくる  ―老舗封筒メーカーの華麗なる戦略―

人に会えないからこそ売れた名刺


スッと伸びた背筋に濃紺のジャケットをまとわせ、細身のジーンズをサラリと履きこなす。その姿は、老舗企業社長というよりIT企業CEOといった印象。
名刺売上アップの要因について、人当たりのよい柔らかな口調でこう続ける。
「このような状況下で、人と直接会うことの価値が高まったのだと思います。消耗品としてばら撒くのではなく、自分の分身として名刺を大事に扱う方が増えたのでしょう」

この言葉は、羽車の商品特長を如実に表している。

オリジナリティという付加価値


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自社既製紙にオリジナル加工を施し、付加価値の高い紙製品として提供する。端的にいうと、これが羽車のビジネスモデルだ。
良質なコットンやパルプを原料とした自社既製紙をベースに、配色・書体・図柄・形状などで“その人(企業)らしさ”を表現し、商品として完成させる。こうして作られた名刺が、コロナ禍によって制限された面会機会を、少しでも充実させたいと願う顧客の心に刺さった。

“既存品のカスタマイズ“と言ってしまうと、ありがちなサービスに聞こえるかもしれない。しかし羽車には、他社の追随を許さない独自のリソースがあった。

リソース1.熟練した職人の技


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1つ目のリソースは“人の技”だ。
羽車は15種もの特殊加工技術を有しているが、熟練した職人の技術それら加工を可能にしている。例えば、現在御年78歳の上田氏。他社で定年を迎える予定だった上田氏の技術に惚れ込み、杉浦代表が自社に招いた。技術習得までに10年かかるアナログ機の取り扱いや、機械ではできない細やかな手仕事をこなす“人財”が羽車には多く在籍している。

リソース2.稀少な印刷機械の数々


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2つ目は、入手困難な機械の充実にある。廃版になった年代物の凸版印刷機などをあえて仕入れ、それらを人の手で巧みに操作し、「羽車ならでは」という独特のアナログ感や風合いを創り出すのだ。そのほか、自社開発のロウ引き加工専用機など、他社で見ることのできない機械が羽車には数多くある。

リソース3.100年蓄積した紙のノウハウ


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3つめは、創業100年を越える歴史にある。長年蓄積された紙のノウハウが、多種多様な注文への対応を可能にしている。これも、他社が一朝一夕に構築できるものではない。

職人の技・稀少な機械・膨大な紙の知見。これら強力なリソースが、羽車の商品を唯一無二のものにしている。

現在、量産型の業務用封筒も製造しているが、高付加価値商品として販売する紙製品の売上が、全体の5割を占めているそうだ。

新しいビジネスモデルを生んだ転機


こうした業態転換の契機は、1999年、羽車として初の小売事業、個人向け手紙用品専門店「ウイングド・ウィール」にある。
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「今までの羽車は、表舞台には出ず、印刷会社から指示された通りの仕様で商品を作るのが基本スタイルでした。それをこれからは自分たちが作り上げた商品を直接お客様に届けることで、社員に商品の誇り・愛着をもっと身近に感じてほしい、という強い想いがありました」
 と杉浦氏は当時の心境を語る。

もともと杉浦氏は、コンピューターの帳票設計という分野の仕事に携わっていた。そして、事業引き継ぎ決定後、初めて工場を訪れた時のことをこう振り返る。
「淡々と封筒を作っている、作業をこなしている、そういった印象でとても社員の目が輝いているようには見えなかったんです。私は、誰かの役に立っているという実感こそ、人の働く喜びがあると思うのですが、それを感じ取ることができなかったのです。その光景を見て “変えなければ”と思いました」
そんな杉浦氏の強い想いが、エンドユーザーとダイレクトにつながることのできる小売店「ウイングド・ウィール」の開業です。

人と人の心をつなぐ文化として手紙を提案


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「本当に自分たちがよいと思う素材を選び、紙を抄造し、オリジナルの図案をのせて、納得いくものだけを商品にしました。接客方法や空間作りについても社員と何度も話し合い、入念なブランディングを図ってから出店に挑みました。」
場所は、ハイブランド旗艦店や国内外のセレクトショップが並ぶ東京・表参道。ファッションやアートに関心を持ちやすい高感度層をターゲットに、“手紙”をカルチャーとして提案した。

良質な素材、洗練されたデザイン、顧客に応じたカスタマイズサービスなどは、想定していた客層の心を見事に捉えた。
「各種メディアに報道され、海外取引のきっかけにもなりました。また、何よりよかったのが、社員たちにマインドチェンジが起こったことです」

使ったら捨てる紙から、いつまでも捨てられない紙へ


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”単なる消耗品ではなく、人の生活を豊かにするための価値ある紙製品をつくる“という新たなマインドが広がると、会社がにわかに活気づき始めた。社員からも「こんなことをやってみてはどうだろうか」と積極的に企画が出るようになり、杉浦氏は頻繁にディスカッションを重ね、そうした声を形にしていった。

「社員にお客様の声を直接聞いてもらい、自分たちの仕事に対する価値に気づいてもらいたい」という杉浦氏の想いから始まった「ウイングド・ウィール」は、社員のマインド変化だけでなく、事業全体のビジネスモデルにも変化をもたらした。
自分たちにしか作れない高付加価値商品の提供という「ウイングド・ウィール」で得た手法が、よりマーケットニーズに対応できる会社へと変化していった。

BtoBからBtoC、そしてBtoBへ


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「商品カタログや化粧品のパッケージ、上顧客用のDMなど、ブランドイメージを重視する企業の発注が増えるようになりました」

企業からの注文は、平面的な紙製品にとどまらず、立体的なパッケージ依頼などもあった。
他社ができないような繊細な加工を得意とする羽車は、そうした複雑な注文も高い完成度で仕上げ、国内外の顧客を着々と増やしていった。

拠点集約で得た社内の一体感


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2006年、杉浦氏は正式に代表へ就任。新しい業態を軌道に乗せていこうとした矢先に、リーマンショックという危機が訪れる。
「まず固定費削減のため、当時大阪にあった4つの拠点を現在の堺本社1か所に集約。今まで離れていた部署がひとつになったので、スピーディに情報共有しやすくなった点は大きなプラスといえるでしょう。また危機的な状況を乗り切ろうとすることによって、さらに結束が強まりました」

拠点集約後、杉浦氏は週に一度現場をまわり、社員とのコミュニケーションを欠かさず取るようになった。社員間での交流も活性化され、その後社内だけでなく、工場見学や職業体験といった、地域交流も図るようになっていった。

コロナ禍によって広がったワークスタイル


次に訪れた危機は、2020年から続く新型コロナウィルスの流行。出勤する人員数に制限がかかる状況は、製造を主とする羽車にとって苦境となり、完全な製造ストップは事業存続自体に大きな影響を与えることになる。そこで杉浦氏は、時差出勤や製造部門以外へのテレワーク導入など、早急に策を講じた。
「WEBミーティングは、現在も頻繁に活用しています。そのほか、全体で共有できる日報など、遠隔にあっても社員間のコミュニケーションが図れるよう工夫をし、スピーディな情報共有を欠かさないようにしてお客様のニーズに対応しています。」

現在羽車には、約130名の従業員がいる。男女比はほぼ同じ、年齢は18~80歳と幅広く、勤務形態も20通りと多彩だ。コロナ禍という異常事態で、そうしたワークスタイルの幅が社員が働きやすい環境を作る機会にもなった。

ここにいれば大丈夫、という場所


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「“安心感の砦”を意味する“サークル・オブ・セーフティ”という言葉をよく使います。社員には『この場所にいれば大丈夫』という安心感を持って羽車にいてほしい。さらにコロナ禍によって、何があっても社員を守らないといけないという気持ち、そしてその覚悟が強まりました」


強まったSDGsへの取り組み


世界規模で起こった生活環境の変化を受け、社内ではSDGsへの取り組みも活発になったという。
2020年6月より、SDGsをテーマに活動するチームもできた。
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新作の封筒「ハグルマベーシック ウッドブラウン」も、環境配慮の観点から作られた商品だ。

「パルプそのものの色を生かし、あえて人工的に着色することはしていません。また、森林認証を取得した持続可能な木材を使用することで、自然への負担を減らしています」

一見すると、量産される廉価な茶封筒と何ら変わらない。しかし、その背景を知ると違いは明白だ。そのほか、環境負荷の低い有機溶剤の使用や、ロス紙の再活用など、“人と環境にやさしい商品”であることが、羽車商品のスタンダードになっている。

「ヒット商品ではなく、目指すのはロングセラー。素材のよさ、想い、ストーリー。そういったものが詰まった商品をこれからも作っていきたいですね。10年後もお客様が使いやすいものを、ということはいつも考えています」


良いデザインを共につくる


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羽車は、経営理念として「良いデザインを共につくる」ということを掲げている。「良いデザイン」とは?
「羽車のいう”デザイン“とは、ビジュアル的なものだけではなく、生活様式や生き方全てを包括したものを指しています。消費の仕方、人との関係性、自分自身の人生。そういったものと向き合いながら、“良いものとは何か”をお客様と共に探し、形にしていく。そんな想いを込めた理念です。そのためには、誰よりも高い熱量で事業に取り組むことが大切。経営者として、この熱が保てなくなったらダメでしょうね。自分たちが作るものの価値を誠実に、正直に伝え…、あとはお客様の選択を信じるのみです」

「迷うことは数えきれないほどあったが、進む方向がブレることはなかった」と事業変遷について杉浦氏は振り返る。
進む方向の先にあるもの。それは、働く喜びに満ちた社員の姿。
杉浦氏が初めて工場に足を踏み入れた時から、その道筋は変わることはない。

環境保護・経費削減・業務効率化などを目的として、ペーパーレス化が急速に進む昨今、「新しい生活様式」としてテレワークが推奨されるようになり、ビジネスにおける書類の電子化は必須となっている。
そんな中、情報用紙ではない紙の可能性にいち早く着目し、新しいマーケットを着実に開拓している羽車。今後の展開に目が離せない。


株式会社 羽車
本社:〒599-8101 大阪府堺市東区八下町3-50
オフィシャルサイト:https://www.haguruma.co.jp/



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