Vision Match Osaka
事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長
動画 ピックアップ大阪市東淀川区製造・メーカー新着女性社長

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

2025.01.13
有限会社ザ・シール





有限会社ザ・シール / 代表取締役 山下由香里 氏



今回紹介するザ・シールは主にポリエチレンを用いた袋製品を製造する、大阪市東淀川区に事業所を構える有限会社。いわゆるレジ袋や、持ち手を小判形に切り抜いた手提げ袋をはじめ、様々なポリエチレン製の袋、Amazonで販売するインバウンド向けのサニタリーバッグなどを手掛けている。その2代目代表取締役山下由香里氏にお話をうかがった。

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

父は元々配送の仕事をしていたのですが、体調を崩して続けられなくなりまして。仕事でつながりのあった人から、『ポリ袋を作ってみないか』と声を掛けていただいて始めたんです。当時は4畳半と6畳の長屋に住んでいて、4畳半の部屋に機械を1台置いてスタートしたのが最初でした。私が5~6歳のころでしたかね。だから機械の音は私にとって、心地の良い子守歌のようなものなんです(笑)

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

ザ・シールは山下氏の父親が、昭和45年に創業。事業は順調に伸びていき、工場を構えるようになった。山下氏は成人してから父親を手伝うようになったが、あくまで手伝い。家業を継ぐ気はなかった。しかし27歳で離婚、ふたりの子どもを連れて実家に戻ることになった。

戻るときに父は、工場の会計のことをちょっとしてくれたらいいみたいに言ってくれていたんです。だけどやがて、『女がひとりでふたりの子どもを育てながら生きていくなら、やっぱり仕事せなあかんのちゃうか』みたいなことを言われるようになって。それだけ言われてもまだ本腰を入れてやる!と言う覚悟は決まっていませんでした

その後、山下氏は再婚、ここから2代目社長への道が拓かれる。

主人が『せっかくやからお父さんの事業をやったらどうや。もったいないやん』と言ってくれて、婿養子で入ってくれたんです。でも当時は、父との確執がかなりありました。厳しさをすごく強要されて・・・仕事に対してはものすごく厳しかったんですよ

父親は、昔気質の人物。家族であるがゆえ、他人に向かうよりもさらに厳しい対応になったのだろう。とはいえ、山下氏のストレスは溜まる一方。それがある日、ついに爆発した。

1回、めちゃくちゃなケンカをしたんです。私も泣くし、パートさんもみんな泣くしで、工場中を巻き込んでのものでした。でもそこから父の憑き物みたいなのが、ストーンと落ちた感じになって。以前、〇〇家具のお父さんと娘の確執がありましたよね。あれ、めちゃめちゃわかるんです(笑)。親子やのにっていう人もいてたけど、親子やからこそ、言いたいことも言うし、父も厳しくなる。私もそのときは父を乗り越えなあかんと思っていて、父に対しても自分に対しても、子どもに対しても厳しくなる。でもそれがあったから、今があるとすごく感じますね


事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

家族間の確執を乗り越えて
財務を見ると、赤字決算続き


家族間の確執を乗り越え、落ち着いて会社の財務状況を見て驚かされた。忙しく仕事をしているのに、決算は赤字ばかりが続いている。疑問に思った山下氏は、大阪商工会議所へ相談に出向いた。

そこで『原価とか考えて仕事してますか』と言われたんです。正直、そのころはあまり考えていませんでした。当時はまだ父が社長で、古くからのお客さんに昔からのやり方をずっと続けていたんです。父は年を重ねてきて、次のステージに行こうとか、今までのやり方を見直そうという気が薄くなっていたんですよね。でもそれではダメやと分かり、アドバイザーの方と相談しながら原価を算出するテンプレートを作成しました。それでも毎月の給料日には賃金が払えるだろうかと思って通帳の残高を確認する手が震えたり、来年には潰れているかもしれないみたいなことばっかり思っていました

山下氏が事業を継承したのは平成28年。その数年後には、黒字転換を果たす。そうなれたのには、様々な人の厚いサポートと従業員一丸の頑張りがあった。

お得意先さんには今のこの場所に引っ越すサポートをしてもらい、メチャクチャ助けていただきました。また商工会議所さんもいろいろと相談に乗って下さいました。会社のホームページを作る時は、高校時代のクラブの後輩が手伝ってくれたんです。うちのロゴは当時大学生だった地元の友人の娘さんが考えてくれました。サポートしてくれる人たちにいろんなお話を聞かせてもらったりアイデアを出してもらって、変えられるところを一気にではなく、少しずつ変えていきました

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

そこから上昇気流に乗ったかといえば、そういうわけではない。むしろ最近はプラスチックが悪者扱いされる風潮もあり、その一種であるポリエチレンを扱う同社にとっては、逆風が吹いているという。

実はここの工場に移転した翌日の2020年7月1日に、レジ袋が有料化されることが決まったんです。追い打ちをかけるようにコロナ禍です。レジ袋の注文は、ほぼ無くなりました。ほかの製品も、注文が減っていきました

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

そんな逆風に晒されても、周囲からの温かいサポートで支えられた。

実のところ、うちは新規開拓の営業部門を置いていないんです。だから引っ越しのときにお手伝いしてくださった得意先やお取引先が紹介をしてくださった仕事を丁寧にやって、アイテムを増やしてきました。その甲斐もあって最近はそれを通じて、かなり大手企業の袋もいろいろと作らせてもらっているので、少しは安定が見えてきたようにも思います


小ロット、短納期、オーダーなど、
さまざまな要求に応えられる


父親の代に創業して約50年。つねに品質と技術に、こだわり続けてきた。小ロット、短納期、オーダーなど、さまざまな要求に応えられることが強みだ。

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

うちはアサガオの種を入れるような小さな袋から、人が入れるくらいの大きな袋まで作れます。機械の台数も人数もたくさんいるので、短い納期で、多種で大量のものができるというところが、お得意先様に重宝されているところなのかなと思います。また同業者さんで、同様の商品で納期が1~2週間先ということがあるんです。でもうちだったら、同じ発注を2~3日で仕上げられる。それも強みになっているという自負はあります

とはいえザ・シール社の工場は大規模なものではなく、あくまでも町工場の規模。山下氏は全従業員を自分の家族だと捉え、そう接する。従業員同士の食事会も頻繁に行い、どうしても都合がつかない者以外は、ほとんど全員が参加。ゆえに社内のムードは、アットホームなものなのだという。

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

従業員のみんなとは、よく喋るようにしよう。1日なにも喋らないで帰ってしまうのは、無しにしようと思っているんです。この会社に来てくれたからには、私より歳が上でも下でも、みんな自分の子どもだと思っています。だから家族を守るプレッシャーは、すごくありますよ。みんなの雇用をどう守っていくか。それが今、いちばんに考えていることですね


「従業員は、みんな私の子ども」
職場の雰囲気はアットホーム


事業を手放してM&Aする考えも、頭のごく片隅にないわけではない。だが安易にそれに踏み切らないのは、全員が家族ゆえ。

もし上手くM&Aできたとしても、みんなをそのまま雇ってもらえるかはわかりません。雇ってもらったとしても、今みたいな雰囲気のなかで働けるのか。手前味噌になるけど今、めちゃくちゃいい雰囲気でみんな働いてくれているんです

小規模事業者にとって、事業の継続については悩ましい課題のひとつ。続けていくためには、今後どんなことが大事になると山下社長は考えるのか。

ほんと難しいですね。それがいちばん大変です。継続的に売り上げを上げていかないといけないのですが、体力的にもきつくなってきました。その中で利益を上げていかないといけない。それには正社員を、あと1~2人雇う必要があると思っています。課題はたくさんあります

事業継続、“103万円の壁”、プラへの逆風など、問題を行動力で乗り越えんとする、ふくろ屋さんの女性社長

最近になって、また新たな難問もあらわれた。いわゆる“103万円の壁”問題である。

最近話題の103万円の壁問題ですが、もし年収が106万を超えて、パートさんやアルバイトも含め、全員に社会保険をつけないといけなくなったら、事業主にとっては、たちまち社会保険の負担の課題が出てきます。世間は働く側の103万円の壁のメリットが注目をされがちですが、実は中小企業にとっての社会保険の負担増についても、目を向ける必要があります。ただ私たちが声を上げたところで、なにも変わらないですからね。その場、その時に対策を打っていく、それしかないのかなと思っています

インタビューを終えると山下社長は開口一番「私、こんなネガティブなことばっかり話しててエエんやろか(笑)」と明るく笑い飛ばした。事業を継承したばかりのころは経営のノウハウとヒントを得ようと、あらゆる機会に顔を出し、さまざまな人の話を聞いてきた。現在直面している課題も、これから表れるであろう問題も、明るくて前向きな女性社長が、持ち前の行動力を発揮し乗り越えていくにちがいない。

有限会社ザ・シール
本社:大阪市東淀川区菅原7-5-10
オフィシャルサイト:https://xn--y8jyd5c.com/