ハーモニクス株式会社 / 代表取締役 クリスティアン ゲブハート 氏
ハーモニクス株式会社は、ドイツ出身のクリスティアン・ゲブハート氏が創業したITコンサルティング会社である。同社が手がける事業はDX導入による業務改善やシステム開発、国際プロジェクト支援など多岐にわたる。日本文化への親和性と技術的専門性を武器に、国境を越えた事業支援と組織づくりを目指している。

大阪を「Wahlheimat(ヴァールハイマート)」、すなわち「第二の故郷」と呼ぶゲブハート氏に、これまでの歩みと今後の展望について伺った。
”狼の城”から日本へー漫画とアニメが日本との接点に
ゲブハート氏の出身地は、ドイツ中北部にあるヴォルフスブルクという街である。自動車メーカー・フォルクスワーゲンの本社や、ブンデスリーガの「VfLヴォルフスブルク」の本拠地として知られる。街の名は「狼の城」を意味し、ハーモニクス社では狼のイラストをイメージキャラクターに採用している。

ゲブハート氏はこの街で3人きょうだいの長男として生まれ育った。幼少期はサイクリングや美術、ゲームに親しみ、静かに集中する時間を好んでいたという。
日本との最初の接点は、ドイツ語に翻訳された漫画や、テレビで放映されていた日本のアニメです。漫画は『ああっ女神さまっ』(※1)、アニメでは『天空のエスカフローネ』(※2)などが好きでした
※1 『ああっ女神さまっ』:藤島康介氏による日本の漫画作品。1988年から2014年まで四半世紀以上にわたり連載された日常ファンタジーの金字塔。
※2 『天空のエスカフローネ』(The Vision of Escaflowne):1996年にサンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)が制作した、ファンタジーとメカニック、恋愛要素を融合させた名作アニメーション。
最初、職業訓練(ドイツ Ausbildung アウスビルドゥング(※3)を受けました。それからIT企業に就職して、仕事をしながら大学で勉強しました。だいたい勉強は夜と週末にネットで、試験は大学で受けました
※3 ドイツのアウスビルドゥング(Ausbildung)は、日本語で「職業訓練制度」と訳される、ドイツ独自の教育・雇用システムです。最大の特徴は、学校での座学と企業での実習を並行して行う「デュアルシステム(二元論的システム)」にあります。若者が特定の職業の専門技能を身につけながら、給料をもらって学ぶことができる仕組みです。
目標は海外起業、訪問国は10カ国に。独学と交流で語学力を磨く
順調にキャリアを積む一方で、いつか海外で暮らし、自ら事業を始めたいという夢を温めていた。
10カ国ほど海外旅行をしたなかで、一番自分に合っていると感じたのが日本でした。日本のサービス品質や時間厳守の文化、24時間営業の店がある都市の利便性などに惹かれたのです
日本語は独学と日本語学校での学習を重ねて習得した。フランクフルトでは日本語と英語のランゲージエクスチェンジ(言語交換)の運営に関わり、実践的な会話力を身につける。業務ではデュッセルドルフにある大手日系メーカーの案件を手がけたほか、日本人が参加する国際会議にも出席した。公私にわたり日本との接点を持つうちに、言語だけでなく日本特有の価値観や仕事観への理解を深めていったのである。

移住までの訪日回数は8〜9回に及んだ。何度も足を運ぶうちに、単なる憧れではなく生活と仕事の両面で「ここでなら挑戦できる」と確信。日本移住と起業の決意を固めた。
支援者とタッグを組んでビジネスプラン作成、ビザ申請の壁に挑む
移住のために申請したのは、日本での起業を目指す外国人向けの「スタートアップビザ」(※4)である。
※4 スタートアップビザとは外国人が日本で起業するための準備期間として与えられる特例的な在留資格。正式名称は「外国人起業活動促進事業」。
東京と大阪、それぞれの自治体のスタートアップセンターに連絡を取ったのですが、大阪のほうがレスポンスが早かった。これが拠点を定める決め手になりました
ビザ申請の準備は2024年秋に開始した。このビザの取得には、事務所の確保や事業計画の実現可能性の証明が必要となる。特に日本の商習慣に合わせたビジネスプランの作成には苦労を要した。
事業計画書は何度も修正を求められました。大阪産業創造館(※5)の担当者さんや行政書士さん、日本人の友人に助けてもらい、4回目の提出でようやく受理されました
※5 大阪産業創造館(通称:サンソウカン):大阪市が設置した中小企業・起業家のための経営支援拠点。経営課題の解決から販路開拓までをサポートする。
同年12月にビザを取得し、事業を正式にスタートさせた。現在はITコンサルティングとシステム開発を主軸に、日本企業を中心としたクライアントへサービスを提供している。
「最初に手がけた案件は、堺筋本町にあるコワーキングスペースの有線LAN改善プロジェクトです。ここでの成功を起点に、人脈も広がっていきました」
技術と経営の視点でビジネスをサポート、日本と海外企業の「架け橋」に
ゲブハート氏の強みは、エンジニアとしての確かな技術力に加え、経営者視点で業務全体を俯瞰できる視野の広さにある。異国の地でのゼロからの立ち上げは容易ではないが、実務を通じて技術力を証明し、着実に信頼を築いている。
事実、クライアントからは「提案が実用的で説得力があり、問題が解決した」と高い評価を得ており、技術と経営の両輪によるコンサルティングは同社の大きな武器となっている。
今後注力したい分野は、DX推進(※6)と業務プロセス改善である。特に前職で関わりのあった自動車業界には強い関心を持っており、「製造業の現場改善やIT導入支援に貢献したい」と意欲を燃やす。

※6 DX(デジタルトランスフォーメーション)推進とは、データやデジタル技術を駆使して、業務プロセスやビジネスモデルそのものを変革し、競争優位性を確立すること。
海外企業と日本企業をつなぐ国際プロジェクトの支援にも力を入れたいですね。言語や文化、仕事の進め方の違いはプロジェクト停滞の原因になりやすい。両者の背景を理解する立場として、橋渡し役を担いたいと考えています
2025年8月には、次のステップとなる「経営・管理ビザ」(※7)への切り替えを行った。今後は従業員の雇用も視野に入れている。
※7 経営・管理ビザは外国人が日本で会社を設立・経営、あるいは事業の管理に従事するために必要な在留資格。
一緒に働きたいのは、日本語と英語で意思疎通ができ、技術への理解力と分析力、そして顧客とのコミュニケーション能力を備えた人です。大阪工業大学でのイベントに参加した経験から、若手人材の可能性も強く感じています
食が豊かで人が温かい大阪を「第二の故郷」と語るゲブハート氏。プライベートではアクリル画やデジタルアートを趣味としており、今後はドイツと気候が似ていると勧められた北海道や東北への旅行も計画している。

ハーモニクスという社名には、人と技術がハーモニーを奏でることで、クライアントに喜んでいただきたいという思いを込めています。この大阪で長くビジネスを続け、事業を通じて地域経済に貢献していきたいですね
