Vision Match Osaka
地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜
八尾市情報・教育・サービス

地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜

2021.08.13
国登録有形文化財 茶吉庵

国登録有形文化財 茶吉庵 / 十九代目当主 萩原浩司 氏



江戸時代日本有数の木綿生産地だったのが、大阪の八尾市です。その「河内木綿」の名で知られた八尾の一大産業は、機械化により明治時代には姿を消すこととなりました。しかしそれから200年以上経った令和の今、河内木綿を扱っていた問屋の屋敷が「登録有形文化財」として八尾の地に残されています。しかもその屋敷には、芸術作品を楽しめるギャラリーに様々なイベントスペース、ゆったりとした時間を過ごせるカフェが、そんな一風変わった古民家「茶吉庵」 十九代目の当主 萩原浩司氏に、屋敷を後世まで残す意味・決意を熱く語っていただきました。
地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜

「茶吉庵」の成り立ち


茶吉庵の成り立ちは、今から400年前の「関ヶ原の戦い」まで遡ります。萩原氏の祖先は西軍側につきましたが、ご存知の通り合戦は東軍が勝利。合戦後は肝煎として、現在の八尾市恩智の村はずれに屋敷を構えることとなります。そして江戸時代の中ごろ、河内木綿を扱う問屋を開業しました。
肝煎 :人の世話をしたり、二者の間を取り持ったりすること。いろいろと「肝を煎る」=「心を焦がす」=「神経を使う」ことが多いことが語源。 江戸幕府の職制で、同じ職掌中で支配役または世話役にあたる者を指した語。
大和川が付け替えになると、河内地方で木綿栽培が活発になったんですよ。そのタイミングで、祖先も木綿問屋を開業したんです。この時付けた屋号が「茶屋吉兵衛(ちゃやきちべぇ)」で、「茶吉庵(ちゃきちあん)」という名前はこの屋号を由来として、私がネーミングしました。なかなか評判が良くて、地域の方から親しまれていますよ。

萩原家は明治時代には問屋から会社へと姿を変え、織物工場を設立。織物産業で成功しましたが、第二次世界大戦時後、農地解放によって工場が接収されると、裕福な暮らしが一転、貧苦な状況に。屋敷の維持も困難になり、一度は取り壊しを決めた萩原氏を動かしたのは、地元の皆さんからの熱い願いでした。

私の代まで建物自体は残っていたのですが、父と話し合い、一度は「取り壊そう」という結論に至っていました。ですが、地元の方たちから「なんとか残してほしい」というお声をもらったんですよね。最初は村はずれにあった屋敷が、いつの間にか村の中心、シンボルになっていたんです。そういうことなら建物は残さないと!と決心をしました。

地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜

「ほんまもん」を支援する


萩原氏の目標は「茶吉庵を200年、300年と存続させる」こと。とはいえ、当時の茶吉庵はあちこちがボロボロで、改修が必要な状況でした。そこで萩原氏は、茶吉庵を有形文化財として登録し、事業による利益で茶吉庵を再生するプロジェクトを始動。2017年から20年計画で始まったプロジェクトには、軸となる「3本の柱」があります。
①ほんまもん(本気である)
②集い・憩い・繋がる(地域の結び目である)
③アーティストを応援

屋敷の改修方法から事業に関わる人の心意気まで、とにかく「ほんまもん(本気)」でありたいと思っています。また茶吉庵は元々肝煎の屋敷なので、昔から村の人たちが集まる場所だったんですよね。現代でもそういうふうに、いろんなものの結び目でありたい。あと、実は茶吉庵には江戸時代に文化人が立ち寄ったことが幾度とあったようなんです。アーティストを応援するのは、江戸時代にこの場所が果たしていた役割の再興という意味があります。


茶吉庵から「心豊か」な毎日を


地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜

そんな茶吉庵では、ギャラリー展示会や落語寄席、音楽会や将棋大会など、一年を通して色んなイベントが開催されています。ギャラリー展示会は季節ごとにテーマを設け、さまざまなアートが楽しめる場。萩原氏はギャラリーを運営する理由について、こう語ります。
ギャラリーというものは出展の敷居が高くて、出展したくてもできない場合が多いし、それにかかる費用も高い。アートってそうじゃないでしょうと。もっと気軽に表現できる場所が今の日本には必要なんです。見る側としても、古民家に作品が飾ってあれば、実際に自宅に飾ったイメージを持ちやすい。芸術を身近に感じてもらえるんです。制作する側と見る側が繋がる場所でありたいと思っています。

多い時は1会期に600人以上の人が集まるという茶吉庵のギャラリー。2019年から始めた「ジャパンあるてぃすと展」からは、世界に羽ばたくアーティストが生まれていると萩原氏。アーティストを応援し、心豊かな芸術を取り戻すという強い思いが実を結び始めています。

また、茶吉庵にテナントとしてオープンしている「ゆくるカフェ」は、古民家の雰囲気を存分に感じながら、ゆっくりとした時を過ごせる場所。こだわりたっぷりの「ほんまもん」が詰まったカフェは、瞬く間に過ぎ去る毎日の疲れた心を癒してくれます。

地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜

芸術の次は「本」を身近に


茶吉庵を始める前は、有名書店の店長だった萩原氏。「大阪ほんま本大賞」や「BOOK EXPO」など、書店・出版業界でも今までになかった数々のユニークな企画を立ち上げました。その経験を生かし茶吉庵でも本にまつわる企画を進めています。

そのひとつが茶吉庵での「まちライブラリー」
まちライブラリーとは「本」を通して人と人が出会うことを目的に、個人所有や寄贈された本の貸し出しを行うコミュニティ型図書館のことです。大切なのは不要な古本ではなく、是非読んでもらいたい本を持ち寄っていただき植本をするところ。今までお付き合いのある有名作家さん達からもお勧め本を寄贈をいただいておりますので、是非一度立ち寄ってみてください。
と萩原氏のトーンは上がります。

地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜
大阪ほんま本大賞:Osaka Book One Project実行委員会が主催、「大阪に由来のある著者、物語であること」「文庫であること」「著者が存命であること」の3条件を満たすものが対象。第1回から「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」を選んで、第4回から「大阪ほんま本大賞」という通称を設定
BOOK EXPO:「書店が中心となって企画・実施」「​帳合を超えて」をモットーに始まった書店向け商談会。 大阪で開催し​近畿地方を中心とした書店・取次・出版社が一堂に集える場。

他にもう一つ企画しているのが「ビブリオバトル」の開催。これは、参加者が持ち寄ったお勧めの本を紹介。「その中で一番読みたいと思った本」の得票数を競うイベント。茶吉庵での第一回ビブリオバトルは、2021年9月25日に開催が予定されています。


地域と文化の交差点 〜古民家「茶吉庵(ちゃきちあん)」から世界をのぞく〜
ビブリオバトル:京都大学から広まった輪読会・読書会、または勉強会の形式で「知的書評合戦」とも呼ばれている。
長い間お世話になったし、支えてもらった出版業界に恩返ししたい、という気持ちですね。それに、自分自身本が大好きですし、本の魅力を伝えていきたい。心が弱ったときに何度も読み返す本に1冊でも出会えれば、辛いことにも乗り越えていけるし、人生を豊かにできる。そんな本に出会える場所を作りたいんです。

さらには八尾市芸術文化振興審議会委員でもある萩原氏。今後は八尾の歴史・文化に加え、町工場などの地元産業を巻き込み、茶吉庵を舞台としたコラボを生み出せないか模索中です。
私にとって第一の目標は、この茶吉庵を残すこと。ただ、残すにはその「意味」が必要です。だからこそアーティストを応援する活動や本を広める活動を、この茶吉庵でやっていきたい。今でもギリギリのところでなんとか残せている状態、正直苦しいです。でもこの茶吉庵は自分だけのものじゃなくて、先祖代々受け継いできたもの。自分がやれることはやらないと、先祖に顔向けできないですよ。茶吉庵での活動を通して私の考えが広がり、いろんな人がつながって、結果として茶吉庵が残っていけばいい、と思っています。

250年以上も残り続ける茶吉庵は、八尾という土地に愛され、その地域の皆さんに親しまれてきたところ。茶吉庵そのものが「八尾」という場所に飾られた芸術作品とさえ感じられます。その茶吉庵に新鮮で多種多様な文化が流れ込む…。八尾の歴史が濃縮された茶吉庵で、ゆっくりと世界の文化をのぞいてみてはいかがでしょうか。


国登録有形文化財 茶吉庵
本社:〒581-0883 大阪府八尾市恩智中町3丁目1番地
オフィシャルサイト:https://chakichian.co.jp/