ゴイク電池株式会社 / 代表取締役 田畑 章 氏
地球温暖化や都市部の大気汚染の対策として、世界レベルで推進されている電気自動車(EV車)。特に、ドイツやイギリス・フランスでは2030年までにガソリン車の新車販売が禁止される見込みといわれています。
ボストンコンサルティングのレポートによると、世界全体の新車販売台数のうちEV車が占めるシェアは、2030年にはガソリン車を上回る51%まで伸びると予想されており、『脱炭素社会』を目指す潮流の中で電気自動車への移行はさらに加速するでしょう。
実際に日本市場でも2019年時点で電気とほかの動力を組み合わせたハイブリッド車のシェアが22%を占めており、2030年には55%になると予測されています。
そんな状況を追い風として、100億円企業を目指しているのがゴイク電池株式会社。他社にはない電池の診断技術を特許として保有し、2021年にはリコーの創始者が設立した市村清新技術財団(※1)の新技術開発助成金対象事業にも選ばれました。
(※1)市村清新技術財団:科学技術の研究開発に対する助成、すぐれた科学技術の顕彰および国際交流の促進、科学技術に関する創造性の育成、植物の生育に関わる研究に対する助成などによって科学技術の振興をはかることにより、我が国の経済社会の発展と国民生活の向上に寄与するための活動を行っています。
リンク:市村清新技術財団
そんなゴイク電池を60歳で起業するに至った代表取締役田畑章氏はこれまでに会社を11社も立ち上げてきた経営者、ゴイク電池のこれまでを振り返りながら次のように語ります。

ゴイク電池を起業してから最初の7ヶ月は全く売り上げが上がりませんでした。ベンチャー企業の三つの関門の「悪魔の河」から「死の谷」を体験しながら、「もうやめよう!」と何度思ったことか、悩み苦しみながら、なんとかここまで来れたんです。私たちの技術がこれから社会のディファクトスタンダード(※2)になる。その未来が楽しみで仕方ありません。(※2)ディファクトスタンダード:英語(de facto standard)とは、「事実上の標準」を指す用語。de factoはラテン語で「事実上、実際には」を意味します。
60歳からスタートアップ企業を立ち上げるに至った経緯や自社の技術が描く未来についてお話を伺いました。
経営してきた会社の分社化と経営権の移譲、そして新たなる挑戦へ
田畑氏が最初に創業したのは1992年のこと。健康食品「Sオール(※3)」など健やかな体作りを助けるサプリメントやコスメを手掛ける株式会社オールコーポレーションを立ち上げた。
(※3)Sオール【保健機能食品】:自然の植物(玄米、緑茶、はと麦など14種類)が原材料で、身体に大切なビタミン、ミネラルほか栄養成分をバランスよく摂ることができる植物発酵食品
同社は創業後13年間増収増益を続けたため、田畑氏はその収益をもとに次々と別会社を立ち上げていった。その数はなんと11社。なかには撤退した事業もありますが、現在ゴイク電池を含めて5社を運営しています。
当時田畑氏は、電池事業についてはあまり関心を持っていませんでしたが、会計士の先生の紹介がきっかけで電池の診断技術を開発した高岡浩実氏(※4)と出会います。

(※4)高岡浩実:元シャープのエネルギー変換研究所の所長、いかに電池を長持ちさせ、急速充電もできる新時代のエコ充電器を開発する。
当時健康食品事業から得ました利益の多くを様々な投資に回していました。ゴイク電池についても、『シャープの技術トップだった人が手掛けている電池事業が上場を目指しているので、投資してくれないか』と話を持ち掛けられたんですね。まだEV車の知識もほとんどわからない状態でしたが、これからの可能性を感じて、出資したのが21年前の2000年でした。
順風満帆のように思われた田畑氏の経営人生に、転機が訪れたのは2005年のこと。成長を続けていた事業が一気に苦境を迎え、毎年10%の収益ダウンという状態に陥りました。当時100人ほどいました従業員が次々と辞めていくなか、企業のライフサイクルや会社経営の苦しさを実感した田畑氏は倫理法人会の教えに出会います。

最初は正直、疑ってかかりました。でも万人幸福のしおりに書かれている丸山敏雄先生(※5)の言葉を読んで驚いたんです。それまでに多くの戦略本や経営の法則、理論など様々な勉強をしてきましたが、ハウトゥ―だけでは決してたどり着けない教えや、私が本当に求めていた学びがそこにあったんです。
早速その教えを徹底的に学びたいと、田畑氏はしおりを読んだその日に九州の丸山先生の生家へ急遽出向いて、倫理法人会(※6)へ即日入会を決めました。
田畑氏はその倫理指導の教えから、これまで経営してきた会社を分社化、信頼できる他の人間に経営権を譲渡します。そうして2014年ゴイク電池というスタートアップに集中、自分の全力を注ぐ決意をします。
(※5)丸山敏雄:日本の教育者、社会教育家、書家。戦後の日本において、倫理運動と呼ばれる生活改善運動を創始した。一般社団法人倫理研究所、秋津書道院、しきなみ短歌会の創立者
(※6)倫理法人会:「企業に倫理を、職場に心を、家庭に愛を」をスローガンに、全国6万8千社の会員企業が純粋倫理に根ざした「倫理経営」を学んで実践をしている会
倫理法人会
画期的な電池診断技術を活かせるフィールドを見出すまで
田畑氏がゴイク電池を立ち上げた時点で、高岡先生がすでに充電技術において、世界中で50以上の特許を取得していました。そうして2019年には、自社独自の『電池診断技術』を確立するに至ります。

同社のバッテリー診断技術は、電極の反応面積を算出する独自のアルゴリズムを使ったもの、従来の充放電によるバッテリー容量の測定は数時間かかるところ、ゴイク電池では、わずか1秒で診断することができます。
この技術、国内では大学などで長年類似の研究を行ってきたものの、現状他社がいまだに構築できていない優れた特殊技術、業界では非常に高い評価を得ています。

最初はEV車のバッテリーを作っている中国の企業にまずアプローチを開始、商社を通じ展示会に参加、各社を回り営業を始めました。ところが中国ではバッテリーの診断時間を大幅に短縮するメリット・必要性を感じてもらえなかったんです。新しいバッテリーを製造する工程には、必ず充放電が含まれてます。でも大量の人員が確保できる中国ではバッテリーの診断時間を短縮する必要がなく、特に大きな必要性を感じてもらえなかったことと、すでに完成している製造ラインへの組み込みまでには至らなかったのです。
当初のもくろみが完全に行き詰まった田畑氏は、熟考の末に診断技術をEV車の廃電池の国内のリサイクル・リユース分野(※7)へと目を向けてゆきます。
国内ではすでにプリウスなどバッテリーを搭載した車が販売されており、2025年からは何百万台もの廃電池を回収することになります。プリウスだけでも350万台に上ると言われており、そんなEV車のバッテリーを集めれば原発60基分にも相当するエネルギーが見込めます。
(※7)リサイクルとリユースの違い: Recycle(リサイクル)は、廃棄物等を原材料やエネルギー源として有効利用すること。Reuse(リユース)は、使用済製品やその部品等を繰り返し使用すること。 その実現を可能とする製品の提供、修理・診断技術の開発、リマニュファクチャリングなども取組のひとつです。
廃電池の多くはリユースが可能です、劣化して使えない電池はリサイクルに回すことになる。そのためにバッテリーの状態を正確に診断する必要があります。従来の充放電方式ではバッテリーの診断に時間がかかりすぎて、何百万台もの電池にはとても対応できないと考えられていました。そこでゴイク電池が開発した「わずか1秒でバッテリーを診断できる」技術に大きな期待が寄せられることになります。

ゴイク電池が描く未来図:脱炭素社会の技術のスタンダードを目指して
田畑氏は、自社の技術がEV車の未来をどのように変えていくのか、その展望を次のように語ります。
EV車のバッテリーには様々な可能性があるんです。太陽光発電の蓄電池としても使えますし、災害用の非常電源にもなる。私たちが提供するバッテリーマネジメントシステムやゴイク電池式の診断技術は、そういったV2Home・V2x(※8・9)の可能性を切り拓くものと確信しています。(※8)V2Home:「Vehicle to Home」の略 「Vehicle (車)から Home(家)へ」を意味する言葉で、電気自動車(EV)と家庭を繋ぐ仕組み・システムのことです。
(※9)V2x:「Vehicle to X)」を意味し、クルマと何か(クルマや歩行者、インフラ、ネットワークなど)との接続や相互連携を総称する技術です。クルマのセンシング技術だけでは感知しきれないクルマや歩行者などを検知したり、ドライバーの快適性やインフォテインメントなどを向上させます。
電気自動車のバッテリーと家庭とをつなぐV2Homeは再生可能エネルギーの活用の幅を広げる施策として注目が高まっているシステム。同社のバッテリー診断はその要となりうる技術と言えます。
2019年には三菱マテリアルと共同開発契約を結び、2021年には経済産業省の電動車活用社会推進協議会に大手企業と並んで名を連ねた同社は現在EVパック(リサイクル・リユースの診断工程でまずはEV 1台分の診断)の開発を進めています。バッテリー診断をより手軽に行えるEVパックがリリースできれば、同社の事業がさらなる成長を遂げることは間違いないでしょう。


私たちの技術が、EV車の要であるバッテリーのリサイクル・リユースを支え、持続可能な次世代エネルギー社会を実現する。そんな展開がとても楽しみです。
電池業界初のバッテリー診断技術を実現し、他社には真似のできない急速充電技術で一気に注目が集まるゴイク電池。国が目指す脱炭素社会、それを実現させる様々な可能性に期待は高まるばかりです。
