株式会社サルトコラボレイティヴ / 代表・都市計画家 加藤寛之 氏
<ご近所で買い、ご近所で楽しむ>
その小さな選択が、まちを変える力になる。
大阪市阿倍野区を拠点とする株式会社サルトコラボレイティヴは、「バイローカル(Buy Local)」を掲げ、地域内経済循環を生み出す取り組みを続けている。
代表の加藤寛之氏は「地域の自己肯定感を高めることが、まちづくりの根本にある」と語る。
地域の未来をどう描くのか、その想いと実践に迫った。

「バイローカル」と3つのミッションでまちの消費を変える
天王寺から阪堺電車に乗って約10分、東天下茶屋停留場を降りてすぐの場所にある「THE MARKET」を訪ねた。
地元で採れた食材や自家製パン(サワードウブレッド)を味わえるカフェとBBQレストラン、野菜を楽しむ食材店、シェアスペースを備えた施設は、家族連れや友人同士、更にはお年寄りの方達までもにぎわっている。
「ここに来るのは、ほとんどが近所の方なんですよ。」そう言って笑顔を見せる加藤寛之氏。常連客に手を振り、軽く挨拶を交わす姿に、地域との距離の近さがにじむ。
「THE MARKET」は、加藤氏率いるまちづくり会社 株式会社サルトコラボレイティヴがBBQレストラン側のオーナー 新城司氏と共同運営する店。
<ご近所で買い、ご近所で楽しむ>ことを促す「バイローカル」の理念を体現する拠点でもある。

僕らは三つのミッションを掲げています。
「地域に新しいチャレンジを創造する」、「ご近所を素敵に変えよう」、「おいしい革命を起こそう」
どれも道路や建物を整備するようなハード事業ではなく、人と人との関わり方そのものを変えることを大事にしています。
最初の取り組みは、2007年に枚方市で立ち上げた定期市「枚方宿 くらわんか五六市」だった。
人が集う場を作ることで空き家や町家の価値が見直され、地域に根ざしたにぎわいが少しずつ戻っていき、今では毎月約4,000人が訪れる人気イベントへと成長している。
その後も各地で、定期市の開催や空き家・広場を活用したエリアリノベーション(※1)に取り組んできた。
2008年の会社設立以来、「地域を元気にする」活動を積み重ねている。
(※1)エリアリノベーション:地域を楽しみ、身銭を切る覚悟のある共感者を集め、共に「小さく試す」ことによって少しずつエリアに変化を起こし地域のイメージや価値を変化させる、人口減少時代の新しい都市計画の手法
中でも、加藤氏が暮らす阿倍野区昭和町エリアは象徴的だ。
地域の魅力的なお店と住民が出会うきっかけの場として、年に1回開催する「バイローカルの日(青空市)」に加え、バイローカルマップを制作・配布し、「ここで買い物をすればまちが元気になる」という地元の商店を選りすぐって紹介。掲載店は140を超え、そのうち約80店舗はバイローカルの活動を始めて以降特にここ5.6年で新たにできた店だ。飲食店に加え、衣類やお花、陶器、本など物販のお店も多く、日常的に利用できる選択肢が大きく広がった。
ある主婦の方が「30年以上住んでいて、はじめて街で買い物をするようになった」と話してくれたんです。普段は梅田や天王寺に出ていた方が、近所のベーカリーやカフェに足を運ぶようになった。バイローカルという私たちの運動をきっかけに、まちの見方や行動そのものが変わったんだと思います。

活動を続ける上で、加藤氏が重んじるのは「自分でリスクを負うこと」。
行政の補助金や制度に頼るのではなく、まずは自ら資金を投じてプロジェクトを動かしていく。
身銭を切ってでも続けることに誇りを持っています。最初の3年間は必ず私たちが一緒に伴走し、その間に地域に根づかせます。
3年間はどうしても必要なんです。その間に活動が暮らしの中へ浸透していきます。定着した段階で、次は地域の仲間が担ってくれるようになる。そこまでする覚悟がなければ、本当の意味でまちを変えることはできないと思っています。
「地域の自己肯定感を上げる」という信念にたどりつくまで
加藤氏の軸は「地域の自己肯定感を上げる」ことにある。そこに至るまで、いくつもの転機があった。
最初は千葉で過ごした高校時代の経験からである。人々の視線が一様に東京へ向かい、地元を誇る感覚が薄い状況に違和感を覚えた。
みんなが東京の方ばかりを見て、地元に目を向けていない。よく聞きますよね、「うちの街には何もない」って。この閉塞感はなんなんだろうと、ずっとモヤモヤしていました。
しかし縁あって立命館大学に進学すると、暮らしや文化を誇りとする地域性に触れ、その感覚は一変。
京都や大阪の下町で、人々が日常や商いを語る姿に触れ、「まちはそこに暮らす人の誇りで成り立つ」と体感する。
さらに大きな影響を与えたのが、都市計画家 髙田昇(すすむ)氏との出会いだ。
20歳の大学時代、偶然受けた髙田昇先生の授業で衝撃を受けました。「日本は大都市だけで成り立っているのではなく、たくさんの小さな都市が国を形づくっている。その光が消えつつある今、どうにかしなければならない」と先生は語っていた。
その言葉を聞いて、「建築でも行政でもない、自分が向かうべき道はまちづくりだ」と心を奪われたんです。授業が終わってすぐ先生に話しかけて、「先生の会社に行きたい」と伝えました。
まちづくりの学びを深め、大学卒業後も師のもとで10年にわたって経験を積んだ。一方で委託型のコミュニティデザインに携わる中、限界を痛感するように。
短期的なイベントやキャンペーンで一時的に盛り上がっても、結局は続かないんです。持続性が伴わなければ地域には根づかない。だから、自分でもリスクを取り、身銭を切って続ける覚悟が必要だ……その思いから、独立を決めました。
海外体験もまた、加藤氏の考えを深めた。
大学在学中にカナダへ留学したとき、NECのラップトップや日本の車を日常的に目にしましたし、現地の人からも「やっぱり日本の製品はいいね」とよく声をかけられました。国内にいるときとはまた違う角度から、日本の存在感を捉え直す経験になりました。
半年間で25都市を放浪したイタリアでは、「テリトーリオ(territorio)」(※2)という考え方に出会いました。地元の人たちが地域で作られたワインやチーズを自慢する姿を目にして、「自分のまちを誇れるかどうか、それが地域の未来を決めるんだ」と実感したのです。
(※2)テリトーリオ:イタリア語で、直訳すると「領域」「地域」。土地と、そこに根づく人・文化・歴史・産業をひとつの有機的なまとまりとして捉える考え方で、「土地を誇りとして守り、次世代に継承するべき価値があるもの」として扱うこと
こうした経験の積み重ねから生まれたのが「地域の自己肯定感を上げる」という信念。これが加藤氏にとってのまちづくりの軸である。
ちなみに社名にある「サルト」は、イタリア語で“服の仕立て屋”という意味。仕立て屋がオーダーメイドで服を作り出すように、それぞれの地域に合わせたまちづくりを進めていく思いが込められている。

まちづくりは、熱量のある「想いや責任を持って動ける少数派」
「みんなの意見は聞かない。」 加藤氏のまちづくりの方法論を端的に言い表す言葉だ。
一見挑発的に聞こえるが、核心を突いたこの言葉。加藤氏のこの方法論は、多数決で決めるのではなく、熱量のある「想いや責任を持って動ける少数派」を核に据えることにある。
みんなの意見を聞くと、どうしても無難な方向に流れてしまうんです。誰もが賛成できるものは、裏を返せば誰の心にも強く響かない。平均点を取りにいくような結果になってしまって、結局おもしろくないんですよ。
では、どうするのか。
地域の飲食店や行政担当者など、最初に想いや責任を持って動いてくれそうな人を徹底的にヒアリングするんです。その人にとって、何があればまちを誇れるのかを探る。
そして10人ほどの小さな輪をエンパワーメント(自信や自律性の促進、主体性を与えること)して、仕掛けを設計していく。ここから広がる熱量こそが、地域を変える原動力になるんです。
変化の度合いはNPS®(ネットプロモータースコア(※3))で測る。これは「このサービスを知人に勧めたいか」という質問に対し、0〜10点で答えてもらう手法。9〜10点を「推奨者」、7〜8点を「中立者」、0〜6点を「批判者」と分類する。
(※3)ネットプロモータースコア(NPS®):顧客が企業や製品・サービスを他者に推奨する意欲を測る顧客ロイヤルティ指標
サルトコラボレイティヴではこの指標をまちづくりに応用し、地域の「推奨者」をどれだけ増やせるかを成果として測定する。初年度はマイナスからのスタートであっても、3年の継続を経てプラスに転じることを目標とするのだ。
プロジェクトが始まった当初は、批判や懐疑も少なくありません。でも、推奨者が増えてくれば中立層や批判的だった人も、まちの見方が変わっていくんです。
バイローカルの取り組みを続ける中で、地元の人が地元の店に日常的に通うようになり、顔を覚えるほどの関係性が生まれてきました。消費の構造そのものが変わってきた証拠だと思っています。
目先の賑わいを求めるのではなく、「推奨者」を増やすという長期的な視点で地域に関わる姿勢が、サルトコラボレイティヴ独自のまちづくりを支えている。
食と人をつなぐ新たな挑戦 「おいしい革命」のこれから
サルトコラボレイティヴが次に見据えていることは?
これから取り組みたいのは、ミッションの1つである「おいしい革命」をさらに深めることです。
これまでは消費者の行動を変えることに重点を置いてきましたが、次は都市と農を結び、生産から加工、流通までを一体化する仕組みに挑みます。

その実証の舞台として検討しているのが、大阪市内の遊休未利用地。その土地を活用して農地とし、野菜や果樹を育てながら、収穫物を加工し、地域の飲食店や直売所へ届ける計画だ。
お金を介さないでやり取りをする関係性も大切なのでは?と考えていて物々交換的な仕組みも視野に入れています。人と人との関係がより豊かになり、人間が本来持ち合わせている“助け合い”や“お裾分け”の感覚を取り戻せると思うんです。
加藤氏が強調するのは「ハイテックではなくハイタッチ」。
効率化よりも、人と人が手を介して関わり合う営みを地域の基盤とする姿勢だ。
食を通じて人と人が触れ合う時間が増えれば、地域はもっと豊かになる。
テクノロジーで何でも解決できるように見えるけれど、人間が作ったはずの時計に縛られて時間が主導権を握るようになった、あの感覚に近い危うさがあります。
便利さだけを追い求めるのではなく、現在のハイテックが進む状況では手間をかけるからこそ得られる喜びを大事にしたいです。
「ご近所での日常が一番楽しい。」そう思える地域住民やエリアがますます増えていくことを願い、そんな風に感じられる暮らしをこれからも地域の皆さんと共につくっていきたいと思います。

画像提供:大森カメラ
