イーネットサービス株式会社 / 代表取締役 伊東岳彦 氏 、デザイナー 伊東 愛 氏
JR大阪環状線玉造駅から徒歩10分ほどのエリアに「スズキフォトビル」という街の写真屋さんの事業でスタートしたビルがある。
時代の変化とともに印刷物の制作やホームページ制作へと事業を広げてイーネットサービス株式会社となり、そこに20代でアルバイトとして同社に入社した伊東 愛氏(当時は吉田愛)が、後に結婚する夫の伊東岳彦(現在の代表取締役)氏とともに、創業者から事業と土地建物を買い取り、会社を継承した。
かなり興味深いエピソードを持ち、創業者から受け継いだ会社をV字回復させ、今も快進撃を続けている。
伊東夫妻は会社のビルの上階に住み、育児や家事も分担しながら二人三脚でコロナ禍の最中にWebデザインの教育動画を手掛けて、業績は大躍進! 2024年内には玉造駅の周辺エリアで、未来に求められる人材の育成を目的とした「習い事」を小学生に提供するカルチャースクールを開校する予定だ。

夫妻で力を合わせて事業承継
伊東 愛氏は大阪芸術大学を卒業。数年後にハローワークの求人を見て、アルバイトでイーネットサービスに入社した。
入社5年が経った頃、創業者社長が70代の高齢となり、写真事業も下降線を辿り会社をどうしようかと悩んでいた。
その頃には伊東 愛 氏自身、飛び込み営業をして自らの取引先も増やし、アルバイトとは別にフリーランスでもWebデザインの仕事を受けられるほどデザインのスキルと実績を積んでいた。
独立を考えていたタイミングに、創業者社長から「会社を買わないか」との打診があった。
会社の事業だけではなく、土地とビルの買取りを含めての継承提案だった。
愛氏:アルバイトではできないことをやってみたいという思いはありました。とはいえ、先代の代表としても言ってみたものの、本当に私一人でやっていけるのかな?といった心配もあったと思います。
そうこうしているうちに私は夫と結婚することになり、この会社で一緒に働かないかと印刷会社で働いていた夫を誘いました。
先代の代表へ結婚のあいさつをした時に「夫が代表に立って会社を継がせていただきたい」と意思を伝えると、先代の代表が会社を売却することを決心してくれました。
岳彦代表:先代の代表とはその時に初めてお会いしましたが、妻が制作し、僕が営業の役割を担うことで二人で力を合わせるのなら、やれるのではないかと。印刷会社での経験も生かせますし、顧客の中には半世紀のお付き合いのある会社もあり、また遠方の顧客もいらっしゃるので、車の運転ができて外回りの営業ができることも期待してもらえたのではないかと思いますね。

懐妊、資金繰りの波
会社と土地・ビルを引き継ぐにあたり、創業者から提示された金額は、伊東夫妻にとってとても一括で支払いできるような額ではなかった。
土地と建物、そして事業を買い取ることが条件である。会社の事業は黒字で、事務所ビルは大阪市内で駅から便利な場所にあり、かなり良心的な価格を提案してくれる。事業を回しながら分割払いで支払うことにも応じてくれた。
また、顧客には半世紀と長い付き合いがある会社もあり、顧客の引き継ぎには年月を要するため、その後の2年間は創業者も仕事を手伝ってくれていた。
お金をかき集めて頭金を創業者に支払い、貯金ゼロからのスタートで何か月も給料がない状態で生活をしていた中、愛氏は懐妊した。
夫妻はビルの上階に住み、オフィスと自宅を行き来しながら仕事をしていたといい、産休もなく働いた。
岳彦代表は会社を経営しながら家事全般を担当するなど全面的に愛氏をサポートした。
子どもが生まれてからも、事業面では資金繰りに頭を悩ます日々が続いていた。
コロナ禍で状況一変、Webデザイン講座リリースで大躍進!
苦しい状況を打開したのは、愛氏のオンラインサロン(※1)の人脈である。愛氏は、かねてより人気のブロガーが主催するオンラインサロンに入会しており、そこでは起業するとか親の会社を継ぐのではなく、血縁関係なしにアルバイトから“会社を買った人”だというケースがサロンメンバーには珍しかったようだ。
(※1)オンラインサロン:SNSやインターネットサービスを利用した会員制のコミュニティで、メンバーだけがコンテンツを楽しんだり、学んだりできるサービス。
オンラインサロンからつながったメンバーの中には大学在学中に起業した株式会社スキルハックスの迫 佑樹社長もいた。迫氏は今や年商10億円超えを達成している若手実業家である。知り合ってから愛氏もスキルハックスが提供する講座に受講生として参加するうちに、「主婦で、子どももいて、会社経営も行い、マネタイズができる現役のママデザイナー」という愛氏の経歴を生かす形で、スキルハックスからオンラインのデザイン講座『Design Hacks(デザインハックス)』のリリース(公開)をすることになった。
愛氏が講師となってソフトの使い方から初心者が実際に稼げる具体的なスキルや方法までを網羅した実践的な講座を制作する。
課題の添削や無制限で質問を受けるなど、手厚いサポートも売りにし、合計75本の教育動画をリリース。
59,800円という低価格で販売。コロナ禍の中で何と1,000件以上売れ、大きな収益をもたらした。
不透明なコロナ禍の状況の中で、イーネットサービスの業績は急成長した。
同時に金融機関が中小企業への融資を活発化させた時期と重なった。
先代の創業者への支払いを完了することができ、伊東夫妻は名実ともに会社と自社ビルを手に入れた。
写真事業の頃から事業をWebデザイン事業にへ徐々にシフトさせ、創業者や愛氏が開拓してきたWebデザインの古くからの顧客との信頼関係はますます強固な状態が続いているという。
デザイン教育事業としては現在、リアルタイムのグループコンサル型のオンラインで学べるデザイン講座『LINEデザイナー養成講座』(販売元:STUDIO RUCHIKO)と『ゼロからはじめるCanvaデザイン講座』(販売元:イーネットサービス)をリリースしており、100名以上のデザイナーを輩出している。

玉造エリアで小学生向けのカルチャースクール開校へ
イーネットサービスは、既存事業だけにとどまらないビジョンがある。
岳彦代表:次の展開としては、子育て世代に興味関心が高いSTEAM(スティーム)教育(※2)を取り入れ、テック分野やCEO分野に特化した「習い事」のプログラムを新たに作り、2024年内に小学生向けのカルチャースクールを玉造駅周辺のエリアで開校します。(※2)STEAM教育:S(science=化学)T(Technology=技術)E(engineering=工学)A(arts=芸術・リベラルアーツ)M(mathematics=数学)の頭文字を取った造語で、各教科等の学びを基盤としつつ、さまざまな情報を活用しながら統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能力を養う教育のこと。
ディスカッションや体験を中心とした習い事やイベント、ワークショップを提供しているカルチャースクール『STEAM CLUB』(大阪市西区)の存在を知り、同CLUBとの提携により、新たな事業領域に乗り出す計画だ。

中小企業の多い大阪では、後継者不在に悩む経営者は少なくない。仮に黒字であったとしても引継ぎ手がおらず、廃業や解散をしている会社も多いと聞く。
老齢の創業者から事業を引き継ぎ、苦難を乗り越え、未来の”人財”の育成を目指して新たなチャレンジにも果敢に挑むイーネットサービスの姿は、近い将来、大阪を代表する事業継承の成功事例としても、注目を集めることになるかもしれない。

