アベル株式会社 / 代表取締役社長 居相浩介 氏
上品さと機能性を兼ね備えた漆黒のステンレス「アベルブラック」の開発・製品化で急成長したアベル株式会社(八尾市)。下町の中小企業が生んだオンリーワンの製品は、大手メーカーや高級ホテルなどさまざまな分野で引っ張りだこだ。専門の研究職をおいていないアベルが、どのようにして他社の追随を許さない魅力的な新製品の開発にこぎつけたのか。今後の狙いも含めて、代表取締役社長の居相(いあい)浩介 氏に聞いた。

色剥がれなく加工性に優れ、耐久性、対候性ともステンレス以上に
自社の名前を冠した製品がブランドとなって業界内外に定着するというのは、メーカーにとってはこのうえない喜びだろう。しかし、事はそう簡単ではなく、実例は数えるほどしかない。それだけに、アベル社が「アベルブラック」の技術で2018年度科学技術分野の文部科学大臣表彰(※①)に輝いたことだけをもってしても、評価の高さが分かる。では、「アベルブラック」の特性、強みとは何なのだろうか。

※①科学技術分野文部科学大臣表彰:文部科学省では、科学技術に関する研究開発・理解増進等において顕著な成果を収めた者に、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的とする科学技術分野の文部科学大臣表彰を行っています。
金属の表面処理といえば、ほとんどがメッキあるいは塗装ですが、いずれもはがれやすいですし金属の素材感が失われてしまいます。また、化学発色という、色を付けられ剝がれにくい発色法もありますが、色が安定しないという欠点があります。これに対して「アベルブラック」は電解発色法という手法を使っています。ステンレスをはじめ合金に自然にできる不動態被膜を電気分解と薬品の酸化力によって、均一に厚くして黒色皮膜を生成するものです。
この皮膜はステンレスと一体となっているため剝がれる心配がありませんので、曲げたり絞ったりくり抜いたりしても角が変色することはなく、加工性に優れています。また黒は光を吸収しますので、非常に高い光反射防止効果を持ちます。さらに厚みも数ミクロンというごく薄いものですので、ステンレスの素材感を残したまま、耐久性や対候性はステンレス本来の性能以上になるんです。
技術改良を繰り返し、7年がかりで量産化に成功
アベル社の前身は1943年に居相氏の祖父が始めた栄養剤を作る薬品会社。戦争で一時休眠状態になったが、65年に父がステンレスの表面処理を行う会社として再スタートを切った。「アベルブラック」の開発に着手したのは1985年。大手企業から持ち掛けられて共同研究が始まり、研究のための設備投資にも踏み切ったが、日の目を見るまで7年を要しました。

うちは電解研磨をやっていたので声がかかったようです。電解研磨というのは、酸化膜を溶かして平滑化する技術で、金属の表面が非常に滑らかになりますし、不動態被膜(※②)ができます。ステンレスの魔法瓶に使われている技術です。一方、ステンレスはシルバーの色が冷たい印象を与えるため、色を付けたいという欲求はずっとありました。電解発色法の技術もそれまでからあったのですが、問題はいかに量産化するかということでした。共同研究を始めた当初は、ビーカー内で10ミリ四方のものを作るのが精一杯でしたから。それだけに、量産化できれば世の中に認められると考えた先代が設備投資に踏み切ったのですが、夜中までやっても失敗の繰り返しで、製品化までは、当初考えたよりはるかに長くかかってしまいました。※②不動態被膜:不動態化皮膜 別名「酸化皮膜」とも言われます。 表面の金属分が酸素と結合することによってできる緻密な皮膜のことで、腐食(錆び)からの保護作用があります。
新しいものにチャレンジして「超一級」を目指す心意気がバックボーン
アベル社の社訓には「超一級の技術を築き上げる人となる」とある。先代が再スタートを切ってまもなく作られた社訓だが、大学で芸術学部に進んだという経歴を持つ先代は、新しいものに挑戦することを好んだ。
何かチャレンジしようとしたときには、父からは「どんどんやれ」と言われてきました。失敗してとがめられたことは一度もないですね。変化を拒むこともありません。私自身も新しいことをやっていないと、逆に心配になるくらいです。常に新しいものを目指すという生き方が、「超一級」につながったのだと思います。「一級」ではだめなんです。単に家電に使われたというのではなく、高級なフラッグシップ(※③)に使われなくては。※③フラッグシップ:フラッグシップとは、複数に製造される製品シリーズのうち最も上位に位置づけられる製品を指す言い方。
一流メーカーのデザイナーらがこぞって求めた〝黒〟の魅力
「アベルブラック」の技術は黒に限らず、他の色も出すことができる。しかし黒にこだわるのには理由がある。
最初はカラーバリエーションを持たせていたのですが、黒が一番安定して求められるんです。営業が「アベルさんの黒はいいですよね」という声をよく聞いていましたし、シャープやパナソニックのデザイナーさんたちは携帯電話やテレビで黒にこだわっていたんです。シャープの人は「売れるのは黒と白」とも言っており、そうした声に押されて展示会に出したら、黒の売上が急増したこともあって黒に集約しました。「アベルブラック」のように光沢のあるものは他社にはほとんどなく、しかも量産化していませんから、有名メーカーなどがこぞって採用してくれるようになりました。
スカイツリーから高級車、ブティックや百貨店まで広がる用途が社員の意識も変えた

光沢のある仕上げで高級感あふれる「アベルブラック」は、建物の内装材や新幹線、高級車レクサスの外装パーツなどとして多く使われ、東京スカイツリーのエレベーターの内装や高級ブティックの看板など用途はさまざまに広がっている。老舗百貨店のある天ぷら売り場の背景は、七宝焼きと木を組み合わせた和モダンなものに仕上がっている。こうした「アベルブラック」の成功は、会社を大きく変えました。
有名なところに次々に採用されるようになったことで、社員たちが自分たちの仕事が世の中に役立っていることが実感でき、プライドを持てるようになりました。さらに若い入社希望者が増えて、毎年採用を続けているのですが、志望動機として「製品自体に魅力を感じる」「オンリーワン技術が魅力」などと言ってもらえるのもうれしいですね。

目指すは心に響く製品づくり。大阪・関西万博を足掛かりに世界進出も
中小企業にとってオンリーワン製品を持つことは一つの目標であり、下請けからの脱却の大きなステップになる。アベル社は「アベルブラック」によってその目標を達成したといえるが、まだまだ先にその可能性を広げようとしている。

高級感や上品さが「アベルブラック」の強みの一つなんですが、ニーズと私たちの思っているところに乖離があると感じています。なぜ上品と感じるのかを突き止め、光反射率や耐蝕性だけでなく、何秒間見ていたら心が安らぐといったところまで追求して、見ていたらほっとする、落ち着くといった、心に響く分野のものをこれからは作りたいですね。このためデザイナーや設計者のパートナーとして素材選定や成型加工・表面仕上げ・検査まで一貫して手掛ける基調へと成長していきたいと考えています。本社に隣接する土地も得られましたので、今後は量も求めていくつもりです。これまで質にはご満足いただいていても、納期がかかりすぎると言われて悔しい思いもしてきましたので。
2025年に予定されている大阪・関西万博は和モダンの提案など海外に通用するものをお披露目するチャンスだと思っています。そこを起点に世界にも「アベルブラック」の進出を図っていきます。
そう語る居相氏の眼差しはすでに世界を見据えていました。
